テラーノベル
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七月が近づき、校内にも、どこか落ち着かない空気が漂い始めていた。
近々、特別試験が行われるらしい。
その詳細はまだ明かされていないが、クラスメイトたちはそれぞれ不安と期待を抱いていた。
ひなもまた、胸の奥に小さな緊張を感じていた。
その日の夜。
学生寮の自室で勉強していたひなのスマートフォンが震えた。
画面に表示された名前を見て、思わず息をのむ。
綾小路清隆。
「……綾小路くん!?」
慌てて通話ボタンを押す。
『起きていたか』
電話越しに聞こえる落ち着いた声に、胸が高鳴る。
「う、うん! どうしたの?」
『少し確認したいことがあってな』
それは特別試験に関する簡単な相談だった。
けれど、ひなにとっては内容以上に、
綾小路くんから電話がかかってきたという事実が何より嬉しかった。
話が終わったあとも、
二人の間には自然な沈黙が流れる。
切ってしまうのが惜しくて、
ひなは小さな声でつぶやいた。
「……もう少し、話していたいな」
電話の向こうで、わずかな沈黙。
そして綾小路くんの静かな声が返ってきた。
『奇遇だな。俺もそう思っていた』
その一言に、胸がいっぱいになる。
少し勇気を出して、
ひなは正直な気持ちを口にした。
「……なんだか、会いたくなっちゃった」
言った瞬間、顔が熱くなる。
こんなことを言ってしまってよかったのだろうか。
けれど、綾小路くんの返事は予想以上に優しかった。
『それなら、少しだけ外に出られるか』
「えっ?」
『学生寮のラウンジにいる』
ひなの心臓が大きく跳ねた。
慌てて部屋を出てラウンジへ向かうと、
窓際のソファに座る綾小路くんの姿があった。
「本当に来てくれたんだ……」
「呼んだのは俺だ」
いつもの淡々とした声。
けれど、その言葉のひとつひとつが特別に感じられる。
ひなは綾小路くんの隣に座った。
夜の静かなラウンジ。
二人きりの穏やかな時間。
「会いたいって言ってくれて、嬉しかった」
綾小路くんがぽつりと呟く。
「えっ……」
「俺も、お前と話していると落ち着く」
ひなの胸は幸福でいっぱいになる。
3
「私も……綾小路くんといると、すごく安心するよ」
彼は小さく頷いた。
「そうか」
そして、ほんの少しだけ優しい声で続けた。
「それなら、しばらくここにいよう」
その夜、二人は特別な言葉を交わしたわけではない。
手をつないだわけでもない。
それでも――
「会いたい」
その一言で、すぐに会いに来てくれた。
それだけで、ひなにとっては十分すぎるほど幸せだった。
恋の方程式は、少しずつ答えに近づいていく。
その解答用紙には、
確かに二人の想いが書き込まれ始めていた。
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