テラーノベル
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空気が湿っぽい。
天井の瘴気が揺れ、
ぶよぶよのスライムが数体ぷるんぷるんと湧いてきた。
「ひっ!? スライム出た!!
ムリムリムリ!! カエデなんとかして!!」
ツバキが悲鳴を上げてカエデの背中に隠れる。
「ええっ!? 私もムリだよ!?
虫とかゼリーとか無理!!
ツバキのビームで倒してよ!!」
カエデも半泣きでツバキを盾にしようとする。
「どうしよう!?
関節が無いからドラゴン・スクリューできない!?」
まさかの物理特化の弱点が露呈し、私もパニックになっていた。
「ええ……」
逃げ惑う世界最高戦力(勇者・聖女・魔王軍幹部)を見て、
辰夫が心底呆れた声を漏らす。
すると──
チュン! ドムッ!!!!!
赤い光線がスライムを貫き、
蒸気と黒煙を巻き上げながら、
じゅうっと音を立てて消し飛んだ。
「え?……誰?」
私があっけにとられて呟くと、
後ろから明るい声が飛んでくる。
「ふふーん! わたしだよ☆ お姉ちゃん!」
振り返ると、両手から魔力の残滓を漂わせたエスト様がいた。
「エスト、様が……?
……今、何撃ったの?」
「うん! 火っぽいやつ?
魔力がぐるってなって、ぼわっ☆て!」
「語彙力が赤ちゃんか」
思わず私がツッコミを入れると、
エスト様は無邪気に胸を張った。
「えへへ〜、でも倒せた!」
(いや、無詠唱であの火力!?
……小娘、いつの間にこんな物騒に育ったのよ……)
「うそ……魔王ちゃん、すごっ……!」
カエデが目を丸くする。
「まさか……魔王自らが手を下すとは……!
私たちがビビり散らかしてたの、見られてた!?」
ツバキが変な方向に焦り出した。
「『幼き魔王、微笑みと共に魔を討つ』……!」
ローザが手帳に激しく書き込む。
──その時だった。
天井から更にスライムがどろっと落ちてきた。
薄紫の瘴気に包まれたスライムは、
普通のものより一回り大きく、
表面に不気味な模様が浮かんでいる。
「上! ──エスト様!! もう一発!」
私の叫びに、小さな魔王が即座に応じる。
「えいっ☆ ぼわっ!」
チュン! ドムッ!!!!!
焼け飛んだスライムが爆ぜ、
ぶちゃっと半溶けの残骸が前方に飛び散った。
「っとわ!?」
私はとっさに顔を背けた──
が、跳ねたスライム片が口に飛び込んだ。
──ぷるんっ。
「んぐっ……!? ぶっふ……!
ゲホッ! ゲホッ!!
#主人公最強
しめさば
2,152
な、なにこれ!?!? 口に入った!! 最悪!!」
「わぁー……お姉ちゃん……スライム食べちゃった☆」
「食べたくて食べたんじゃな……ぉぇぇッ!!!」
辰夫と辰美が絶句していた。
私は涙目で吐き出そうとしたが、
喉奥に入ってしまったぷるぷるは、
もはや胃に到達していた。
味は……意外と無味だが、食感が最悪だ。
ぷるぷるしてて、なんだか生暖かい。
「……くっそ……スライムの食感……史上最悪……」
──その瞬間。
\\ ぺったん♪ 新スキルを習得しました! //
====================
【スキル:ミズミズしさアップ】
▶ 肌・筋肉・髪に潤い効果。
細胞活性化、水流変速、摩擦低減、
魔力干渉緩和、自己冷却 … 他
▶ なお美容効果も絶大。
▶ 【追加効果】
ぷるんぷるん反応により、
打撃攻撃の受け流し性能が上昇。
====================
「………………は?」
恐る恐る、ステータスウィンドウを確認する。
確かに【ミズミズしさアップ】とある。
そして、【美容効果も絶大】の行を何度も読み返す。
(……ま、まじで潤い効果……?)
私は手の甲をそっと撫でてみた。
──しっとり。つるぷる。手触り最高。
まるで高級ハンドクリームを塗ったかのようなしっとり感。
しかも、ベタつかない。
髪にもそっと触れてみる。
──サラサラのツヤ感。
なんだこれ……美容院帰りじゃん……。
今まで冒険者生活でパサついていた髪が、
まるで絹のような手触りになっている。
「……………っしゃぁああああああああああ!!」
「きゃっ!?」とエスト様が跳ね、
「ひっ!?」とツバキが怯え、
「え!!」とカエデが驚き、
「……メモメモ」とローザが猛スピードで筆を走らせ、
「ぬお!」「なになに!?」と辰夫と辰美が肩を揺らした。
「きた! きたきたきたきたーーっ!!
今まで変なスキルばっかだったのに!
まともなのきた!!女子力スキルきたぁぁ!!」
バンザイポーズで小躍りする私。
ダンジョンの薄暗い空間に、私の歓声が響く。
「お姉ちゃん、ぷるぷるしてる〜!」
私の手をツツキながらエスト様が嬉しそうに言う。
確かに、肌にハリが出て、ほのかに光っているような気がする。
「見ろこれ! トリートメント不要よ!! スライム最高!!!」
「えっ!? 私も食べる!スライム食べる!
唐揚げにしたら絶対美味しいやつだよね!?」
「カエデ!? やめなさい!
スライムは唐揚げにならないし腹壊すわよ!」
スライムを探し始めるカエデを、
ツバキが必死に止めている。
「ふふふ……やっと時代が私に追いついたわね……」
「いいなぁサクラ……
私なんてこの数日、お風呂もまともに入れてないのに……
ズルい。そのスキルちょうだい」
ツバキが私のツヤツヤな髪と肌を見て、
ギリリと歯を食いしばった。
「この場で女子力競争してるの、サクラ殿くらいですな……」
辰夫がため息をつき、続けた。
「サクラ殿、テンション高いですが……
副作用などは確認を……」
「知らん!! 副作用なんて知らん!!
これだけで勝ち組よ私は!!!」
──その瞬間。
ぽとっ。
「ん……?」
私の肩に、天井からスライムが落ちてきた。
「きゃっ!? スライム!」
ツバキが悲鳴を上げる。
ぽとっ、ぽとっ、ぽととととっ!!
さらに数匹、数十匹と、次々にスライムが天井や岩陰から湧き出し、
一直線に私に向かってすり寄ってきた。
足元が、あっという間にぷるぷるのゼリー地獄と化す。
「な、なにこれ!? なんで私にばっかり群がってくるのよ!?」
慌ててステータス画面を開いて詳細を確認する。
\\ぺぺぺったん♪//
=================
▶【注意:過剰な潤い成分により、
粘液系モンスター(特にスライム)を強烈に惹きつけます。
※フェロモン効果】
=================
「……………………」
すりすり……ぷるんっ。(足元にすり寄るスライムたち)
(私はウィンドウを見なかった。
見なかったんだ。うん。何も見てない。)
「葛藤してる」
エスト様がニコニコしながら言った。
深呼吸──。
「ぎゃあああああ!!キモいキモい!!寄るなァァァ!!」
私は足元に群がるスライムを蹴り飛ばしながら絶叫した。
「サクラ……スライムにモテモテだね」
ツバキが少し引いた目で言う。
「サクラ気持ち悪いから離れてね」
カエデがナチュラルに致命傷をえぐってくる。
(親友からのド直球の悪口!! 泣きそう!!)
「まともなスキル寄越せやぁああああああ!!」
私はスライムを蹴散らしながら泣き叫んだ。
*
「……さて、アンタたちッ!
遊んでる場合じゃないだろ!
引き締めろッ! ここはダンジョンよ! 死にたいの!?」
「お姉ちゃんのせいだよ」と、エスト様が怪訝そうな顔。
「あ、誤魔化した」と、ツバキがジト目。
「『聖女様、鬼の虚勢を見抜く』……っと」と、ローザがメモ。
「サクラ、こっち来ないで」と、カエデが距離を取る。
「バイト行きたい……」
「理不尽なサクラさん好き」
親友ふたりと、エスト様・辰夫・辰美の五人に、
揃って変な顔をされた。
「辰美! 索敵ッ!」
私は足元にまとわりつくスライムを必死に蹴り飛ばしながら、
ごまかすようにカッコいいポーズでダンジョンの先を指差した。
「了解ですっ!」
そして私たちは、再び《奈落の縫い目》の深部へと歩を進めた。
(つづく)
◇◇◇
──天の声──
ちなみに【スキル:ミズミズしさアップ】にはこうある。
▶ 肌・筋肉・髪に潤い効果。細胞活性化、水流変速、摩擦低減、魔力干渉緩和、自己冷却 … 他
サクラの地力が向上するのだが、気付いていない。
バカだから。
後日、このスキルのおかげで命拾いする場面が訪れるが──
そのときもサクラは「たぶん私の才能」だと思い込む。
バカだから。
◇◇◇
おまけ
ムダ様はかつてスポーツドリンクのセルフCM動画でこう叫んでいたという。
映像は手ぶれMAX、謎に逆光、音割れしていた。
一部では”幻のムダ様動画”として語り継がれている。
(※1時間だけネットに公開された。消えた理由は誰も知らない)
──
(映像開始)
背景:燃えてる。なぜか水たまりの上。
ムダ様(謎のジャージ姿・ペットボトルを持っている)
『乾いたか!? 喉が砂漠か!? 心が荒野か!?』
『飲め!! 飲んで走れ!!! 飲んで戦え!!!』
『スポーツドリンクは!!! 水分だ!!! 電解質だ!!! 勝利だあああああ!!!』
(ここでムダ様、カメラに向かってごくごくごく → ペットボトルをぶん投げる)
『喉が潤えば拳も潤う!!! 拳が潤えば世界が潤う!!!』
『飲め!!! 打て!!! 勝てえええええええ!!!!』
(映像終了。謎の「PON☆」効果音入り)
──
当時のサクラはこれを見てスポーツドリンクを買い溜めしたという。
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