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西暦2202年。人類がようやく土星の輪に観光基地を作った頃、探査機『ミケ・ポッド』は銀河の果てで「それ」に遭遇した。
宇宙飛行士のサトシは、コックピットのモニターを見て絶句した。 漆黒の真空に、突如として巨大な猫の頭部が浮かび上がったのだ。その瞳には渦巻く星雲(ネビュラ)が映り込み、背景にはなぜか色鮮やかな幾何学模様と、激しく点滅する超新星爆発のコラージュが広がっている。
「……こちらサトシ。信じられないかもしれないが、宇宙が、いや、猫が、悟りを開いている」
通信機から聞こえてきたのは、ノイズ混じりの「ゴロゴロ」という低周波だった。それは量子通信を経て、サトシの脳内に直接語りかけてくる。
「人間よ。お前たちは理解しようとしすぎる。なぜブラックホールがあるのか、なぜ時間は一方通行なのか……。そんなことより、なぜ私の皿にはカリカリが半分しか残っていないのか。そちらの方がよほど宇宙の本質に近いとは思わないか?」
サトシは震える手で、船内に持ち込んでいた高級サバの備蓄缶を取り出した。 「これを……これを捧げれば、宇宙の真理を教えてくれるのか?」
宇宙猫は、何万光年もの長さがある髭をピクリと動かした。 次の瞬間、サトシの視界は爆発した。
原子の並びが猫の形に見える。
銀河系の回転が、実は巨大な毛玉転がしだと理解する。
ビッグバンとは、宇宙の主(ぬし)が盛大にくしゃみをした瞬間のことだった。
あまりの情報量に、サトシの意識は「虚無」へと突き抜けた。モニターに映る彼の表情は、口を半開きにし、焦点の合わない目で虚空を見つめる、あの**「宇宙猫の顔」**そのものになっていた。
現在、地球の国立天文台には一枚の写真が飾られている。 そこには、無限の星々を背景に、すべてを悟りきった顔でフリーズしている一人の男と、満足げに目を細める巨大な三毛猫の姿が写っている。
人類がこの写真の意味を理解するには、あと数億年はかかるだろうと言われている。