新宿の雑居ビルの地下深く、本来存在しないはずの場所に、人の「記憶」を質に取る奇妙な店「忘れな草」があった。
金に困った大学生の湊(みなと)は、偶然迷い込んだその店で、自分にとって価値がないと思っていた「中学時代に雨傘を貸した記憶」をわずか十円で売り払ってしまう。
記憶を消し、手に入れた十円玉を手に店を出た湊。しかし、些細な親切の記憶を失ったことで、彼の心からは人への信頼や温もりが少しずつ欠落し、日常の景色が変容し始める。
一方、その「十円の記憶」には、湊が知らないもう一人の当事者の想いが秘められていた。記憶の売買が引き起こす、失うまで気づけなかった「心の価値」を巡る連作短編ファンタジー