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朝の霧がようやく晴れ、薄青い空が顔を覗かせると、べラス街はいつものように静かに目覚めた。バジャーでは、リズが今日の配達用の手紙や荷物を準備していた。木製のカウンターの上には、色とりどりの封筒が整然と並んでいる。彼女は手際よくそれらをバッグに詰め込み、所定のルートに沿って配達を始めた。
べラス街は小さな街だが、住民たちはどこかしら忙しそうにしている。リズは、いつも通りのルートを歩きながら、街の人々と軽い会話を交わしていた。彼女の笑顔には、何一つ隠し事がないかのように見えるが、内心では昨夜の「仕事」の余韻がまだ残っていた。
最初に立ち寄ったのは、街の雑貨店だった。店主のミセス・ブラウンは、リズが入ってくると笑顔で迎え入れた。
「おはよう、リズちゃん!今日も元気そうね。お手紙はあるかしら?」
「おはようございます、ブラウン夫人。はい、こちらに。」リズは手紙を差し出しながら、何気なく周囲を見渡した。店の中には他に数人の客がいて、小声で何かを話していた。
「聞いた?昨夜、ジョンソン家の猫がまたいなくなったらしいの。」ブラウン夫人が声を潜めて言った。
「そうなんですか?」リズは驚いたふりをしながら応じたが、彼女の内心はそれ以上の関心を持っていなかった。猫の失踪など、彼女にとっては些細なことだった。
「ええ、これで三度目よ。この街では、何か悪いことが起きているに違いないわ。」ブラウン夫人は不安げに付け加えた。
「そうですね…何か不吉なことが起こらないといいのですが。」リズは微笑みながら、次の配達先へと足を向けた。
次に向かったのは、教会の前にある小さな公園だった。そこには、年配の男性がベンチに座り、のんびりと新聞を読んでいた。リズは彼に挨拶をし、手紙を手渡した。
「おはよう、配達員さん。いつもありがとうね。」老人は微笑みながら、手紙を受け取った。
「おはようございます。今日も良い天気ですね。」リズは礼儀正しく返事をしながら、公園の周りを見渡した。子供たちが遊び、母親たちがベンチに座って話をしている光景は、まるで絵画のようだった。
しかし、その中に微かに感じる不穏な空気が、リズの心に小さな影を落とした。街の人々は、何かを感じ取っているのだろうか。リズはその思いを振り払い、再び仕事に戻った。
その日、彼女は何度も街の人々と会話を交わしたが、どれも他愛のない内容ばかりだった。だが、彼女の心の奥底では、夜の「仕事」に備えるための準備が着実に進んでいた。