私は、櫻井愛茉音という。今は16歳で、独り身だ。まあ、色々あったのでね。
少し、私の過去の話をしよう。
私は、昔から人には見えない物が見えた。
7歳の時、親と街を歩いていると、肩に化け物がくっついている苦しそうな人がいた。
「お母さん、あそこの人の肩に変なのがくっついてる」
私がそう言うと、母は目を見開いて、恐ろしく醜いものを見るような目で私を見てきた。
「あまね…あんた…!」
その日からだ。
父と母は、私と話してくれなくなった。両親は呪霊や呪術師についてなぜ知っていたのだろう。今思えば、化け物が見える、化け物が寄ってくる『普通』じゃない私が、気持ち悪かったのだろう。
そして次第に、両親が家に帰って来ないようになった。まだ10歳のときだ。当時の私には何がどうなってるのか分からくて、一晩中さみしくてずっと泣いていた。
13歳になると、生きるために仕事を探した。もう家にあるお金もつきていた。
そして、生きるための仕事を見つけた。
そう、私は呪詛師になった。詳しく言うと、依頼を受けて、殺しをする仕事だ。給料が高く、私のこの目と力を活かせる仕事なんて、これ以外には思いつかなかった。
私が働くところは、なにやら大きな組織らしい。私に押し付けられるのは雑用や後始末などの面倒事ばかり。
それでも、段々と力をつけ、まともな依頼を受けられるようになったころには、私の中のなにかが壊れてしまっていた。
依頼を受けて、殺す。その繰り返し。
そんな毎日の憂鬱を癒やすために、いろんな男と遊ぶこともしばしば。
この組織では、仕事をやめたいなんて言えばすぐに処分される。利用価値がなくなったから。みんなはそれが怖くて働く。わたしもそうだ。
これが、今までの私の人生。そしてこれからも、こんなふうに不幸が積み重なっていくのだろう。
もうどうでもいいんだ。
「あまね、今回の依頼はこれだ」
「…分かりました」
今日も働く。
「今回のターゲットは…呪術師か」
そう、一般人だけでなく、呪詛師が呪術師を殺すために依頼をしてくることも多々ある。
「給料…8000万」
やけに高い。それほど強いのか。
「よし。やるか」
ターゲットは、なにやら黒いカラスを操る呪術師だった。なかなかの強者だった。
私が攻撃を放つたびに、カラスがそれを突き破り、どんどん私を追い詰めていく。
気がつけば、私は地面にへたり込んでいた。大量に出血をしていて、頭がもうろうとしていた。
…終わったな。私の人生。
死を覚悟して、私は目を閉じようとした。
その時。
「いいねえ…。君、呪術師になる気はないかな?」
「…へ…?」
「私がもともと通っていたところでね、そこは呪術師について学ぶところなんだけど…」
「えっと…」
なにを言ってるんだ、この人は。
「どうする?行きたいかい?」
「そんな急に…」
「うーん。じゃあ、こうしようじゃないか。」
「……」
「どうする?選ぶのは、君の自由だよ」
…死にたくない。でも、ここで裏切ったら、組織がどんなことをしてくるか分からない。
でも…でも…。
私が今まで、どんな想いで働いてきたと思ってる…!
こんなところで死んでたまるか…。
「……行きます。」
「そうかい。なら、殺さないでおくよ」
「…ありがとうございます。」
「私の名前は冥冥だよ。君はなんて言うのかな?」
「…櫻井愛茉音です。」
「…櫻井?櫻井って…。まあ、とにかく、これからよろしく頼むよ、愛茉音。」
「…はい」
それから、私は呪術専門学校に編入した。
これから私は教室に入る。
中から、「入れ」と聞こえてきたので、扉を開けようとする。
そうだ、その前に。
私は深呼吸して、とびきりの笑顔を作った。
ガラッと扉を開けて、教室に入る。
「…はじめまして!今日から転入してきた
友葵樹あまねといいます!よろしくお願いします‼」
もちろんこれは仮面の顔だ。名前だって本名じゃない。あまねは本名だけど。冥さんに、苗字は言うなと言われたから。どうしてかは、私にも分からない。
ちらっと前を見てみる。
茶髪のボブと、黒髪のロン毛と…
その中に一人、見たことのある顔がいた。
うちの組織で有名だった…。その男を殺す依頼は、数え切れないほど来る。でも、毎回返り討ちにされていたのだ。
名前は…なんだったっけ。たける?いや違う。
…ああ、そうだ。五条悟だ。あの、有名な。
ガラの悪いグラサンの人が、
「空いているところに座れ」
といったので、私はなんとなく、五条の隣の席に座った。
白い透き通る髪、青いきれいな目、六眼か。
試しに話しかけてみる。
「えっと、これからよろしくお願いします」
「…おお」
あれ、いがいとチョロい?
ちょっと距離を詰めて下から除いてみる。
「綺麗な目をしてますね」
そしたら
「だろ?六眼なんだぜ?おれ」
距離の近さに動じることもなく、サラッと答える。
ああ…こいつも私と同類だ。
何となく分かる。私と同じ顔をしてる。きっと、こいつは数々の女を弄んできたのだろう。苛立ちは感じない。私も同じことしてるし。口説かれないように気をつけよう。
それにしても、こいつには私と同じものを感じる。
“孤独” ”孤立” ”偽り” ”寂しさ”
まるで自分を鏡写しでみているみたいだ。
そんなことを思っていると、五条がさらに距離を詰めてきた。なるほど、こいつ顔が良ければ誰でもいいタイプのやつか。そんなので私が落とせると思ってんの?
本当は私の心臓は微動だにしていないが、一応恥ずかしがっている演技をする。
それが面白いのか、こいつはさらにニヤニヤしながら、私の後頭部に手をまわして私の表情を見ている。それが演技だなんてお前には分かんないだろ。
すると、誰が後ろからトントン、と肩を叩いてきた。振り返ると、そこには茶髪で、ボブのタバコをくわえている女子がいた。
「私、家入硝子。そいつは五条悟。よろしく〜」
ご丁寧に自己紹介までしてくれた。
「私は夏油傑だ。よろしくね、あまねさん」
今度はロン毛…というか髪をまとめている黒髪の男子がいった。
こいつは…微妙。五条よりはクズじゃなさそう。でも絶対遊んでるな。
「悟、あまねさんを離してあげなさい」
「そーだぞ悟。いくら美人だからって初対面でそれはまずいだろ」
「うっせ!俺の勝手。」
そう言い私を支える手を少しきつくする。
こいつまじで離すつもり無いだろ…。
そんなことを思いながらも、久しぶりの和やかな雰囲気に、私は少し安堵のため息を漏らした。
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