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昼休みの教室。
ざわついた空気の中で、ローレンはため息をついた。
『…だから、なんで俺なんだよ』
「他にちょうどいいやついねぇから」
あっさり言い切る葛葉。
ローレンは机に肘をついて、じとっと睨む。
『それ理由になってねぇだろ』
「なるだろ。お前、顔いいし」
『褒めてんのかそれ』
「褒めてる」
即答。
——話は少し前に遡る。
葛葉が女子にやたらと絡まれるようになって、それを断るのが面倒になった結果。
「彼女いるってことにすればよくね?」
という雑な発想から始まった。
そしてなぜか、その“彼女役”に選ばれたのがローレンだった。
『普通に断ればいいだろ』
「めんどい」
『最低』
「だから頼んでんじゃん」
『頼み方雑すぎだろ』
しばらく睨み合ったあと、ローレンは大きくため息をついた。
『……期間限定な』
「お、まじ?ありがと」
『その代わり、変なことすんなよ』
「しねぇよ」
——そのはずだった。
*
放課後の廊下。
「なあローレン」
『なに』
「ちょっとこっち来い」
手を引かれて、壁際に寄せられる。
『は?なにしてんの』
「静かにしろ」
小声で言われて、ローレンは一瞬黙る。
視線の先には、さっきまで葛葉に話しかけていた女子たち。
(…あー、そういうことか)
理解した瞬間。
葛葉がぐっと距離を詰めた。
「彼女なんで」
そのまま、肩に腕を回される。
『……』
一瞬、思考が止まる。
女子たちは「えっ」と小さく声を上げて、そのまま去っていった。
静かになった廊下。
ローレンはゆっくり葛葉を見上げる。
『…今の必要あった?』
「あるだろ。効果あったし」
『距離近すぎ』
「恋人設定だぞ」
当然のように言われて、ローレンは少しだけ言葉に詰まる。
『…だからって』
「嫌だった?」
その一言に、なぜか心臓が跳ねた。
『別に、そういうわけじゃ…』
「じゃあいいじゃん」
軽く笑う葛葉。
そのまま腕を離さない。
『…もういいだろ、離せ』
「もうちょい」
『なんでだよ』
「なんとなく」
適当な理由。
でも、その“なんとなく”がやけに引っかかる。
*
それから数日。
偽装交際は、思ったよりも“それっぽく”なっていった。
隣で弁当を食べるのも。
一緒に帰るのも。
当たり前みたいになっていく。
『なあ、くっさん』
「ん?」
帰り道。
並んで歩きながら、ローレンはぽつりと呟く。
『これ、いつまでやるんだっけ』
「飽きるまで」
『曖昧すぎだろ』
「じゃあお前がやめたい時」
そう言われて、ローレンは少しだけ黙った。
本当は——
もう十分、目的は果たしてる。
女子も寄ってこなくなったし、噂も広まった。
終わらせようと思えば、いつでも終わらせられる。
『……』
なのに、言葉が出てこない。
「どうした」
『いや、別に』
誤魔化すように前を見る。
その横で、葛葉がふと立ち止まった。
「ローレン」
『なに』
名前を呼ばれて、振り向いた瞬間。
ぐっと腕を引かれる。
距離が、一気に縮まる。
『…っ、くっさん?』
「これさ」
真剣な声。
さっきまでと違う。
「偽装じゃなくてもよくね」
『……は?』
一瞬、意味が分からない。
「普通に付き合えばよくねって話」
心臓が、大きく跳ねた。
『それ、どういう…』
「そのままの意味」
葛葉は視線を逸らさずに言う。
「俺、お前といるの普通に楽しいし」
『……』
「わざわざ嘘にしとく意味なくね?」
あまりにも自然に言うから、逆に困る。
ローレンは少しだけ目を逸らした。
『…俺は、その』
言葉が詰まる。
本当は、とっくに気づいていた。
一緒にいる時間が、ただの“設定”じゃなくなってること。
「嫌ならいいけど」
少しだけトーンが下がる。
その声に、ローレンは反射的に顔を上げた。
『嫌じゃねぇ』
思ったより強く出た声。
一瞬、空気が止まる。
『…嫌じゃない、けど』
言い直すように、少しだけ視線を逸らす。
『そういうの、急に言うなよ』
「急じゃねぇだろ」
『急だろ』
小さく言い合って。
それでも、どこか笑いそうになる。
「じゃあ、どうすんの」
葛葉が一歩近づく。
ローレンは少しだけ迷ってから——
『…付き合うなら、ちゃんとしろよ』
「ちゃんとって?」
『そのままの意味』
少しだけ睨むように言う。
葛葉は一瞬きょとんとしてから、ふっと笑った。
「了解」
そして、そのまま手を取る。
さっきまでの“演技”とは違う、自然な動き。
『……』
ローレンは少しだけ照れたように目を逸らした。
「これで偽装じゃねぇな」
『…そうだな』
小さく頷く。
繋いだ手は、もう離さなかった。
コメント
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甘噛みさん、第47話読ませていただきました! もう、最後のシーンで胸がぎゅっとなりました…。「偽装じゃねぇな」って、あんな自然に言えるものなんですね。最初は雑な頼み方だったのに、いつの間にか“当たり前”みたいに隣にいる関係になっていく過程が、すごく丁寧で心地よかったです。ローレンが「嫌じゃねぇ」って反射的に言っちゃうところ、めちゃくちゃときめきました。このまま二人の距離が縮まっていくの、ずっと見ていたいです🌷