「えー!花芽ちゃんの部屋から最下層に続く通路を見つけたって?」
「まだ続くって決まったわけじゃないけど、ほぼ確定っぽいよな」
「花芽ちゃん何者なの……壁紙がはがれかけてたってことは、多分花芽ちゃんもその通路を使ってたんだよね。最下層にかなり初期から行けたってだいぶヤバくない?」
「かなりアドバンテージですよね。あの頃は最下層の存在すら知りませんでしたし、ネームドもhappyさんとbloodさんだけ知ってるみたいな状態でした」
「そもそもあいつらにネームドって名前があること自体知らなかったな」
「って、こんな思い出話してる場合じゃないの。私も小指君の部屋を調べてきたんだけど、色々収穫があったんだ。……てか、もしかしてみんな部屋すら見えない?」
「行ってみましょうか」
*
猫手に案内された場所には、確かに他の人と同じように、俺と同じかそれより下くらいの年齢の男の顔写真が貼られていた。
この部屋の主がこいつであったことは明確だ。
しかし、残念ながら俺と指揮はこいつと面識がなかった。
「え、ねえ本当に覚えてないの?だってみんな結構話してたくない?」
「さぁ、私は存じ上げないですね。そもそもこの方と話した、という記憶すらありませんし、何らかの重要人物なのでしょうが……」
「こいつに専用の部屋があったって時点で、俺らと同じ参加者だったのかもしれないけど、本当に覚えてないんだよなー。話しててもおかしくなさそうなポジションではあるけど」
「マジ?関わりえぐい持ってたよみんな」
「例えば、どのような会話をしていましたか?」
「そうだね……小指は中二病な奴だったし、暗黒騎士がどうのこうのってよく言っててさ、それをみんなでツッコんだり笑ったりしてた感じかな」
「あんこく……?」
「暗黒騎士はこの程度のことに屈しない、とかさ、暗黒ダークネスオーラを感じる、とか。……なんかこっちまで恥ずかしくなってくるわ、この話やめよ」
扉を開け、部屋の中に入った。
部屋には家具等は設置されておらず、人の部屋とは思えないほど物が散乱していた。
というより、倉庫のようになっていて、ここに人が住んでいたらホームレスレベルだろうな、なんて予想してしまう。
実際には、部屋の主は亡くなっているわけだが。
「んで、肝心の小指ってやつ本人には会えたのか?」
「もちのろんよ!でも何にも話してくれなくて。一応みんなに認知されてないってこととか、記憶がなくなっちゃってるかもってこととか、そもそも君は亡くなってるのになんでここに居れるの?とか、そういう話をしたんだけど、ずっとこっちにごめんごめんって謝ってきて、いや謝るなら答えろよ♡って言ったら一言も話さなくなっちゃった」
「ハートマーク設定残ってたんですか……」
「幽霊だしまともに話せないのか?」
「いえ、私の親戚にいる霊媒体質の方によれば、幽霊とは普通の生きている人間と大差ない会話が可能らしいです。死ぬ直前まで記憶が残っているのもあって、少し会話が難しい場合もありますが、一年も経てば普通に話せるらしいですよ」
「へー、じゃあ小指の状態はかなり特殊なのか?一年は経ってるらしいよな」
「小指が意図的に黙ってるってことなのかな。なんか複雑そうだったし。てかあのテンションと比べて、かなり落ち込んでるというか、結構暗くなっちゃったね」
「暗黒騎士らしいしいいだろ」
「確かに……って納得しちゃダメ!!」
「……もしかして今も部屋の中にいらっしゃいます?」
「いるよー。しばらくはずっとこの部屋にいるって言ってた。今は……あの変な参考書が積み上げられてる本棚の真ん前に立ってる」
「何か話していたりとかは」
「ガチで何にも喋ってない。てか話しかけるとごめんしか返ってこないから話しかけないようにしてる」
「いつか喋ってくれるのか?そう簡単にトラウマは消えないかもだけど」
「まあ根気強く話しかけてみるよ。いつか努力は花開くってナポリタンも言ってたし」「ナポリタンは人名じゃないですよ」
「そういえば、この部屋で何か見つけたんですか?」
「いやまあ、こんな倉庫みたいな場所があったんだよってことくらいだけどさ。でもここに来れば、知りたいことは大体分かるんじゃないかな?」
「小さいコストコみたいなレベルだしな」
「コストコ10分の1くらい?」「それコストコとは言えなくないですか?」
「小指ってやつには申し訳ないけど、ここを誰でも自由に使える調べものの部屋みたいにしよーぜ。何調べてもいいことにしてさ、プライバシーってやつ」
「さんせーい、どうせごめんしか小指も言わないよ」
「まあ、本人に確認を取れないのならば、致し方ありませんね」
「んじゃあ、一旦解散か?」
「あぁ、そういえば、貴志さんの部屋を私が調べた時に見つけたCDがありまして。皆様も良ければ一緒に見ませんか?」
「ここで見れそうなら見ようぜ」
「コストコ10分の1をなめないでよ」「お前はコストコのなんなんだよ」
体感10分くらい経った辺りで、CDプレイヤーは簡単に見つかった。
みんなコストコにビビりすぎて変なところばかり探していたが、結局入口のすぐそばにあった。
小指が指さしてくれていたらしく、それを見た猫手が発見してくれた。
「プレイヤーあったよー!」
「そんなそばにあったのか、やっぱ俺、物探すの下手だわ」
「今回はおあいこですよね」
「普段CDプレイヤーなんて使わないよー」
「では、再生しましょうか」
CDに映し出されたのは、セミナーとかでありそうなよくある会議室。
その中央に、とある女性が映し出される。
その女性に、俺、いや俺達は見覚えがあった。
「なあ、こいつって」
「貴志さん、ですよね」
「貴志の部屋にあったんだし、貴志が映ってるのは変じゃないけど……なんか雰囲気違くない?」
そう、貴志は前に出会った時よりも遥かに大人びている。
彼女は代償によって馬鹿になっていたとはいえ、ものすごくオーラを感じるというか、とにかく超絶頭いい人特有の何かを感じるような。
セミナーとか宗教にはまるやつってこんな感じなんだろうなーなんてぼんやり思っていると、貴志が話し出した。
”「皆さん、それでは神化人育成プロジェクトについて説明いたします。その名の通り、神化人を人工的に育成するプロジェクトとなっております。神化人とは、人間が100年生きた証であり、それになることができれば、まるで神様のように強力で未来永劫続くような強大な力を手に入れられる。そんなもの、全人類がなりたいと望んでいるでしょう」”
”「しかし、神化人になるには時間がかかりますから、なりたいと言って即なれるようなものではございません。なんせ、神化人の正体は古来日本神話に伝わる神様。一般人がなれるような物であれば、日本はより非情な国と化していたのでしょう。ですが、それでも我々は必死に、皆様に簡単に神化人になっていただくすべを考えました。そして、たどり着いたのです。
時間がかかると言うならば、時間の定理を捻じ曲げ、法則を逆転させ、時間を通常より早く進めればいいのではと」”
”「そんなこと可能なのか?いえ、可能なのです。何故なら、我々輝煌グループは、過去にマントルを再現する装置や月に一瞬で移動する装置、パラレルワールドを行き来する装置など、不可能を可能にする装置を製作してきました。ですので、我々にかかれば、世界の常識である『時間は均一で、止まったりすることなく一定の速度で動く』だなんていうちゃちな法則、簡単に破ることができるのです。ましてや、今回のテーマは神化人。つまり、現存の神化人に力を借りることもできるのです」”
”「ここでご紹介致しましょう。今回お力添えいただいた神化人の黄楽天様です。黄楽天様は直行を司る神。つまり、法則を逆転させることを願う我々にとって、真逆の存在です。しかしながら、黄楽天様を……ああいえ、これは機密情報でした。とはいえ、皆様にこのお方のお姿が見られる方もいらっしゃらないでしょうが。ですが、ここで皆様にご協力願いたいことがございまして、黄楽天様のお姿が見られる方をもしご存じでしたら、ぜひともご紹介願いたい。決してぎせ……いえ、力は無駄にいたしません」”
”「さぁ、それでは祈りましょう。今後の我々の更なる発展を。輝煌グループは常に未来に向かって進んでおります。では、プロジェクト担当のみーー」”
CDはここで途切れていた。
「うわー、みんなで話す感じだと思ってたんだけど途中から凄すぎて黙っちゃったわ」
「周回推奨すぎるな……」
「ふむ、一回で分かった所だけ簡単に整理しましょう。まず、このCDに映っている方は輝煌貴志さん。そして、話していることは、今の私達が巻き込まれている神化人育成プロジェクトでしょう。それは確かですよね」
「そして、神化人育成プロジェクトは、おそらく一般の人何人かを集めて、その人たちを人工的に神化人にする計画のこと。それに私たちが参加していると仮定すると、私たちは神化人になる予定なのでしょうか」
「で、でもそしたらネームドはなんなんだ?神化人になりそうな俺達を妨害してくるってことは輝煌グループの差し金でもないし」
「安全に神化人になれる、みたいなことを謳ってたくせに、本当はこんな人がバンバン死ぬようなやつとか聞いて無くない?」
「そもそも、私たちはなぜこのプロジェクトに参加したのでしょうか。その記憶すらありませんし」
「怪しいな……ネームドもプロジェクト創設側のグルだとしたら、相当な茶番劇に参加させられてるよな」
「確かに、元々ほぼ勝てない戦いにぶち込むために私達参加者を集めたんだとしたら、それこそ輝煌グループの思惑通りだよ。神化人にさせる気なんてなかったのかな」
「いや、それはないかもしれませんよ。なんせ、私含め神化人に関わることがある参加者はたくさん居ますし、猫手さんが神器にさせられたのも、プロジェクト側の仕業でしたよね」
「そうなのか……。そういえば、黄楽天ってやつがCDにいたけど、なんか聞き覚えあるんだよな……」
「え、マジ?それ絶対大事なやつじゃない?」
「CDで、俺の名前が書いてあるやつを見てそれで……あ、そうだ。確か、俺の兄ちゃんっぽい人が、黄楽天を手なずけてるみたいな事を、やけに丁寧な敬語で話してたな」
「木更津さんのお兄様ですか?」
「多分な。俺も記憶喪失してるから詳しくは覚えてないんだけど、俺には上に二人兄がいるらしくて、その下の方……俺もカウントしたら真ん中に当たる、切斗ってやつが黄楽天をなんちゃらかんちゃら」
「となりますと、切斗さんはこのプロジェクトに参加してるのでしょうか」
「ネームド側の可能性ない?」
「流石に同じ家庭で分けるというのは……」
「いや、そのCDに俺のかーちゃんが映ってたんだけど、かーちゃんはなんか意図的に分けてるみたいなこと言ってた。切斗と俺、そして上の方の兄ちゃんを一緒にするなっつってて」
「へー、なんか複雑そう……え、てことはもしかして木更津兄弟全員集結してんの???」
「中国語みたいだったな……まあ多分そうだと思う」
「ネームドにいらっしゃるのでしょうが……怪しい方って言っても難しいですね」
「隠すと思うけど」
「では、こう役割を分けましょうか。私は神化人について調べます。猫手さんはその体質をいかして、小指さんとの対話を試みてください。木更津さんは、お兄さんのことを調べておいてください。それぞれが何か収穫を持って帰り次第、最下層に行きましょう。では、一旦解散しましょうか」
「おっけー、私部屋戻って寝てくる。じゃねー」
「お、じゃあ俺も寝てこようかな」
「木更津さん、今夜の事忘れてないですよね。9時くらいに私の部屋の前に来てください」
「あーあの怪しいやつか。俺は女子殴れるタイプだから色仕掛けしてきても効かないぞ」
「信用されてなさすぎませんか、まあデリケートな問題なので別にいいのですが。なるべく猫手さんに見つからないようにお願いしますよ」
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