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(みさきくん……本当にかっこいいな)
改めてそんなことを思う。
背も高くて、スタイルもよくて、顔立ちだって整っていて。
髪もふわりと柔らかそうで綺麗で……。
どこをとっても完璧な人だ。
そんな彼と過ごせるのが夢みたいで。
でも、同時に、こんな僕で本当にいいのだろうか
という不安も、心のどこかに常にあった。
「ねぇ朝陽くん」
「なに?」
急に名前を呼ばれて顔を上げる。
すると目の前に岬くんの顔があって、思わず息を呑んだ。
こんなに近くで顔を見つめられると、また心臓が暴れ出す。
「体調大丈夫?」
「え?」
「いや、さっきから緊張してるっぽいから、もしかして気分悪いのかなって思ってさ」
そう言いながら岬くんが眉尻を下げて心配してくれるので、僕は慌てて否定する。
岬くんは、本当に僕のことをよく見てくれている。
僕が少しでも無理をしていると、すぐに気づいてくれるんだ。
「ううん全然!そういうんじゃなくて、岬くんと初めてのデートだから…緊張、しちゃって…」
語尾が小さくなる。
でも正直な気持ちだ。
初めての恋人とのデート。
完璧にこなしたい
パニック発作を理由に迷惑をかけたくない
そう思うほど、体が固まってしまう。
すると岬くんは微笑みを浮かべて僕の頭を撫でてくれた。
その大きな手が、僕の髪を優しく梳く。
「朝陽くん……可愛すぎ」
その表情があまりに優しくて、胸がキュンとなった。
僕が可愛いなんて、そんなことないのに。
「…っ、か、かわいくないし、また岬くんに迷惑かけたらどうしようって思っただけ、だから」
「迷惑って…発作のこと?」
岬くんの言葉に、僕は小さく頷く。
「そ……う」
「迷惑なんて思ったこと一度もないよ?」
真っ直ぐな瞳で、岬くんはそう言ってくれた。
その言葉に、僕の目頭が熱くなる。
「…み、みさきくんは優しいからそう言ってくれるけど……僕、みさきくんのことすぐ頼っちゃうし…初デートぐらいちゃんとしたくて…っ」
「そう思えば思うほど緊張しちゃうんじゃない?それこそ、発作に繋がりそうっていうか…」
岬くんの指摘に、ドキリとした。
確かに、そうかもしれない。
完璧に、ちゃんとしなきゃ、と思うほど
プレッシャーになって、それが発作の引き金になることもある。
「それは……そうかもしれないけど……」
「だったら、そんな気負わなくていいよ」
「え?」
「朝陽くんが発作起こしちゃうのは仕方ないし、好きな人が辛い思いしてたら助けてあげたいって思うのは普通じゃないかな」
「っ……」
「それに俺たち恋人同士なんだからもっと俺に甘えたっていいんだよ?」
岬くんの言葉が、僕の心の奥底に染み渡る。
こんなにも僕のことを理解して、受け入れてくれる人がいるなんて。
「そ…っ、そんなの……迷惑じゃない?本当に?」
震える声で、もう一度確認する。
「もちろんだよ」
岬くんは、僕の頭をもう一度優しく撫でてくれた。
「そ、そっか、ありがとう…っ、みさきくん……」
僕は涙が出そうになった。
いや、もう、目尻にはうっすらと涙が滲んでいたかもしれない。
こんなに幸せで良いんだろうかと思うくらい幸せだ。
岬くんの隣にいると、僕の抱える不安や弱さが
少しずつ溶けていくような気がした。
それから数日後───…
2回目のデート中。
今日は少し遠出して、郊外の大きな公園に来ていた。
初夏の陽射しが心地よくて、鳥のさえずりが聞こえる。
ベンチに並んで座って、他愛もない話をしていると、ふいに岬くんが僕の方に顔を向けた。
「ねぇ、キスしていい?」
「へぇっ?!」
いきなりの岬くんの問いに、僕の思考は完全に停止した。
こんなにも変な声が出てしまったのは、きっと僕の人生で初めてのことだ。
顔が熱い。きっと真っ赤になっているはずだ。
「あっあのっ…でも……ここ外だし……」
慌てて周りを見渡す。
確かに、僕たちが座っているベンチの周りには誰もいないけれど、公園の奥には家族連れが見える。
「公園に俺たちだけだし誰も見てないって」
岬くんは、僕の視線を追って、にこやかにそう言った。
「そ、そういう問題じゃなくて…っ、初めて、だし…心の準備が…」
キスなんて、まだ考えたこともなかった。
というか、考えられないくらい、僕にとっては遠い話だった。
「はは、焦らせちゃったね」
岬くんは、僕の反応を見て、少しだけ眉を下げた。
優しくそう言ってくれるけれど、僕の心臓はまだバクバクと音を立てている。
「い、言っとくけど違うよ、!岬くんのこと嫌とかそういうんじゃなくて……ほんとに突然だったからびっくりしただけで……」
誤解されたくない一心で、必死に弁解する。
僕が岬くんとキスしたくないわけじゃない
むしろ、好きすぎてどうにかなりそうなのに。
慌てる僕を見て、岬くんはおかしそうにくすくす笑う。
「分かってるよ。慌ててる朝陽くんも可愛いなって思っただけ」
「〜っ!」
もう、ずるい。
岬くんは本当にズルい。
いつも余裕綽々で、僕がドキドキさせられっぱなし……なんて悔しいし。
僕だって少しは岬くんのドキドキするようなことがしたいのに……。
僕の顔は、きっとトマトみたいに真っ赤になっているだろう。
岬くんのその言葉に、僕はもう何も言えなくなってしまって
ただ顔を伏せることしかできなかった。