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その晩の宴がはけた後。オゾンは何がどうというあてもなく、ドロージを連れて中庭を散策していた。ちなみにドロージはもう牢番の仕事はやめている。今の彼は、オゾンに仕える『従卒』という身分になっている。不案内な異世界なので、まだ一人歩きは何かと不便であるからそういうものに居てもらった方が都合がいい。で、異世界の庭園の花などをのんびり眺めていたら、やっぱりのんびりとそのへんを散歩している、赤い髪の少女がいた。前にも見たことのある顔ではあるが、服装がだいぶ違うのですぐには分からなかった。それはテトラであった。
「何やってんだ。テトラ」
「いや、久方ぶりの自由の身が楽しくてな。この城に来て、デデストのやつに捕まっていたのはたかだか二十年ほどのことであったとはいえ」
「たかだか? 二十年が?」
オゾン様オゾン様、とドロージに耳打ちをされ、この世界のドラゴンというものがどれくらいの寿命を持った存在であるかを教えられた。
「というわけですだ。テトラ様にしてみれば、まあ十年や二十年なんてのは、おらたちにとっての先月とか先週とか、といったくらいのことに過ぎません」
そういうことらしい。
「ふーん。でも、自由の身にはなったんだろ。なんでまだこの城に居るんだ?」
と言ったら、テトラは鼻を鳴らした。
「いや、別に慌てて行かなければならない事情のあるようなどんな場所もないし。今はオゾン、そなたの力と未来とが、少し気にかかっておる。である故、二、三十年ばかりはそなたの人生に付き合ってやってもよいぞ。特別にわが背に乗ることも許そう」
「そりゃどうも」
まあ、せっかくあんな強そうなドラゴンが自発的意思で味方をしてくれるというのなら無下にすることもないか、とは思うオゾンである。どうも、この世界言うほど平和でもなんでもないらしいし、近々他所の国の軍隊がこの国に押しかけてくるみたいなことが言われている状況らしいし。
「どうだ、せっかくだから今からでも。夜間飛行と洒落込もうではないか」
「そうか。そうだな。じゃあ、せっかくだから乗せてもらうよ」
「では、おらはここでお部屋の留守番を勤めておりますだ。お気をつけて」
中庭のいちばん広いあたりでひょいとテトラは変身し、背中にオゾンを乗せた。飛びあがる。どうも、翼の力ではなくて魔法のような力で飛んでいるらしいのだが、すごい速度である。
「どこへ向かう?」
「地球だと、こういうときの定番は山か海なんだが」
「山ならあるが、海は遠いぞ。ずっと北の方だ。その手前にはノブリア王国が広がっている」
「あー。じゃあ、その国との国境あたりまで飛んでみてくれ」
「相分かった」
というわけで、飛んでいく。ザウアシュ侯国とノブリア王国の国境近くには、相手方の砦があった。そこには煌煌と、かがり火が焚かれていた。軍勢が集結させてあるのが分かる。
「うーん。なんとも、穏やかじゃないな」
「そうとも。あたり前だ。いきなり一国の主が死んで、その姪風情がろくな手続きも踏まずに跡を継ぐなんて騒ぎになれば当然そうなるさ」
「異世界ってのも、世知辛いんだな」
「いずこであろうと変わらんよ。人の営みなんてものはな」
龍が宙を舞う。その下には、人の営みばかりがただただ広がっていた。
■第二話はここまでです