テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第10話 覚められない悪夢
腕についた点滴の針、バイタルモニター。
激しい頭痛、倦怠感。
全て見覚えがある。
「お前は可哀想だよなぁ〜」
ふざけた笑みを浮かべたあいつ。
息が、苦しくて仕方が無い。
「…せんせぇ…」
「どうしたの?おらふくん」
「おにいちゃんが…どっかいっちゃった…」
身体に繋がる無数の管が、彼が少し体を動かす度に小さく揺れる。
「すぐ探してくるよ」
そう告げて、僕は病室を飛び出した。
柵を掴む指は細くて、冷たくなっている。
雨が降って、閉鎖されている屋上庭園。
ここには、誰もいないんだ。
足をかけて、上に登ろうと試みる。
でも上手くいかなくて、途中で柵から落ちてしまう。
「痛い…」
僕は、生き続けないといけないんだ。
僕は、ここで自ら人生を終わらせることはできないんだ。
少なくとも、この建物に囚われている間は。
「おんりー君‼︎」
先生が、力強くドアを開け、こっちに向かってくる。
「先生…」
思わず、一歩引いてしまった。
「先生は…医者ですよね」
「そうだよ…どうしたの?」
「助けて…僕、悪夢から覚めたい…」
「悪夢?」
「毎日毎日、僕を昔いじめていたあいつが…夢の中に出てきて…」
「…僕を…虐めてくるから」
「…夢から覚められなくて…怖くて…」
静かな病室。
あの子の隣のベットは、きっちりと布団が整っていた。
「おらふ…」
「おかぁさん‼︎」
「…最近、どう?どっか痛い?」
「あのね、おかぁさん、ぼく…」
我が子には沢山の管が繋がっている。
それでも、笑顔で私にこう言ってきた。
「おにいちゃんのおかげでいたくないんだ‼︎」
「…お兄ちゃんのおかげ?」
思わず訊き返してしまった。
「うん‼︎おにいちゃんが『いたいのいたいのとんでけ』って、ぼくのことをなでてくれるの‼︎」
「…お兄ちゃんは、優しいんだね」
あの子は、本当に優しい子に育ったのだろう。
「…おかぁさん、おにぃちゃんは、なんでいまもにゅういんしてるの?」
肌は以前より青白く、管が繋がれた腕はとても細い。それでも、おらふは明るく振る舞っている。
「…あの子の病気は、治らないの」
「…そぉなんだ…おにいちゃん、いたいのがんばって、いいこだね‼︎」
ニコニコ笑顔でそう言うおらふ。
おんりーが聴いたら、きっと喜ぶだろうな。
「…そうね、14年間も頑張ってるなんて、いい子だよね」
「…先生…僕、もう…」
「もう、無理なんです」
次回 おそらく今月中