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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。マナミアさんとの対談を継続して行っています。マナミアさんの正体も分かりましたし、次はマナミアさんが持つ情報を収集することにしました。
ちなみにマスターは紅茶を楽しみつつ思索に耽っています。多分天使族の生き残りであるマナミアさんの事を考えているんだと思います。
こんな時は邪魔をしないで放置するに限ります。どうせ話しかけても反応は期待できませんからね。
「では改めてお尋ねしますね、マナミアさん。貴女のクライアントはどなたで?」
「今さら隠すつもりはないわ。リンドバーグ・ファミリーよ。ある程度は予想していたでしょう?」
「はい、予測はしていました。けれど、三者連合とは?」
「簡単な話よ。シダ・ファミリー、荒波の歌声、リンドバーグ・ファミリーが結託した連合ね。知ってると思うけど、各自の事務所は引き払われて藻抜けの殻よ」
「ええ、ですから折角なので解体して資材にさせて貰いました」
「あらあら、手が早いのね?」
「不法投棄されたのものは自由に扱いますよ?文句があるならどうぞ『暁』へ、です」
当たり前ですよね。この街で所有物だと主張されていない物は全て不法投棄扱いです。だから皆看板を掲げて紋章なんかを描くんです。
それがなかったから、解体しただけですよ。もちろん空き家なんかも同じような扱いです。
「まあ、酷い話ね?」
マナミアさんは笑いながら聞いてくれます。あっ、あの事を謝らないと。
「それよりマナミアさん、襲撃に参加した一人を射殺してしまいました。大切な仲間を……」
「ああ、彼等なら仲間じゃないわよ」
「はい?」
「リンドバーグってお爺さんはね、ケチなのよ。そして、出来るだけ関わりが薄い組織を選ぶ程度の慎重さもある。あの日参加したのは全員別々の組織。当然初対面だわ」
「それはまた、よく警戒網を突破できましたね?」
「私が認識阻害の魔法を使っただけよ。ただし、あの騒ぎで意味がなくなったけれど。なにより、火をつけた瞬間無効化されたから」
「無効化された?」
『港に住まう魔女の仕業であろうな。あの騒ぎを受けて結界を発動させたのであろう』
「サリアさんが?」
「知り合い?」
「『海狼の牙』の代表で、魔女さんです」
「魔女かぁ……それなら仕方ないわね。魔法の扱いじゃ魔女には敵わないもの」
「捕まえた相手がマナミアさんで良かった。他の人なら繋がりを見付けるのに苦労しましたよ」
「私だって証言だけよ。それに今回が始めての依頼だったから、組織のは内面とか分からないわ。もちろん三者連合の本拠地なんてね」
「構いません。それについてはうちの諜報部門が調査を始めていますから」
ラメルさんにはこれまで独立していた偵察部隊をまるごと預けて、諜報部門として再編。三者連合についての調査を依頼しています。
「そう、心配は無用だったわね。諜報機関があるならあとで挨拶をしないと。破壊工作に情報は必要不可欠だから」
「それなのですが、考えたくない事態ですけど『暁』内部にスパイが潜り込んでいる可能性があるのです。心当たりはありませんか?」
「悪いけど、無いわね。確かに具体的な指示ではあったから内部にスパイが居るとは思うけど」
「やっぱり……魔法で見付けたり出来ないかな?」
『難しかろう。読心術は闇の魔法。そなたが唯一扱えぬ魔法である。そして闇の魔法は魔族しか扱えぬものよ』
「当然私も無理よ、主様」
「残念です、地道に探すしかありませんね」
『暁』が新しい戦力を加えている頃、帝都にある『聖光教会』大聖堂では。
神官達や修道士達が慌ただしく行き交う。何故ならば、突如として第三皇子ユーシス=フォン=ローゼンベルクが単身来訪してきたのである。彼はそのまま聖女との面会を望み、半ば強引に貴賓室の一つを占有した。
大聖堂にある貴賓室の一つ。そこでユーシスはソファーに腰掛けて待ち人をしていた。しばらくすると目的の人物が現れ、表情を柔らかくする。
「マリア=フロウベル侯爵令嬢がユーシス=フォン=ローゼンベルク第三皇子殿下へご挨拶申し上げます」
慌てていたためか、いつもの修道服姿のまま深々と一礼するマリア。
それを笑顔で見つめるユーシス。
「やあ、マリア。急に済まないね。久しぶりに顔を見たくなってお邪魔したよ」
「先触れを頂ければお出迎えしましたのに。こんな服のままで失礼します」
「構わないよ、それに君にはいつもの格好が似合う」
「ありがとうございます、殿下」
「さて、長居すると君も困るだろうから手短に話そう。その前に、人払いを頼めるかい?」
「分かりました」
マリアは腹心であり『聖女親衛隊』と揶揄されている『蒼光騎士団』を率いるラインハルトを見る。
それに対して胸に手を添えた騎士の礼で答えたラインハルトは、室内に居た騎士達と一緒に退室する。
「相変わらず良く鍛えられているね。流石は『聖光教会』有数の騎士団だ」
「皆、大切な理解者達ですから。それで、ご用件はなんでしょう?殿下」
マリアはゆっくりとユーシスの向かいに座る。
「二人きりだ。堅苦しいのは無しにしよう、マリア」
笑みを浮かべるとマリアも恥ずかしそうに頬を赤らめながら答える。
「……はい、お兄様……」
奇しくも相反する二人の少女に兄と慕われる第三皇子。
「うん、それで良い。さて、早速本題に入ろう。シェルドハーフェンへ赴くのだと聞いたよ」
「お耳が早いですね、お兄様。その通りです。あの街には救うべき弱者が溢れていますから」
「まあ、帝国で一番弱肉強食を体現してる街だからなぁ。マリアならいつか行こうとすると思っていたよ」
「お兄様は反対ですか?」
不安げに問い掛けるマリアに、ユーシスは真剣な表情で返答する。
「いや、むしろこの時期に君は帝都に居るべきじゃない。どうにか帝都から離そうと考えていたから、ちょうど良かった」
「……皇帝陛下の事ですか?」
探るように問い掛けるマリア。
「知っていたか。いや、話が早くて良い。父上の容体は良くない。今すぐにどうなるとは思えないが、兄上達は水面下で動き始めている。気の早いことにね」
うんざりするように答えるユーシス。
「帝位継承の準備ですか。教会上層部に出入りする貴族が増えたと思っていましたが……」
「その通りだ。特に君を取り込もうとしている動きもある。自覚があるか分からないけど、マリアは国民から絶大な人気がある。君を自分の陣営に取り込めば国民からの支持を得られるからね」
「権力闘争ですか……そんな余裕があるなら、内政に力を入れて欲しいものです。『ライデン社』の技術を普及させて欲しい」
「はははっ、君も『ライデン社』に注目していたね」
「君も……ですか?」
「ああ、もうひとり『ライデン社』の有用性に着目している妹分がいてね。いつかマリアと会わせたいよ。仲良くなれるはずさ」
「それは楽しみです」
「とにかく、シェルドハーフェンでは気を付けてくれ。何かあったら知らせてくれよ?」
「はい、お兄様。行って参ります。お兄様もお元気で」
後にユーシスの願いは叶うこととなる。だがそれが友好的なものでないことを彼は知らない。