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皆さんごきげんよう、レイミ=アーキハクトです。私は所用で帝都郊外にある『ライデン社』の出張所を訪れています。
ここ、迂闊に帝都へ入れない私達姉妹に対する配慮のために作られたのだとか。私を、いやお姉さまをそれほど重視しているのが分かります。この場所は街道からも外れている森の中にあるため、『ライデン社』の社員でもごく一部しか知らないのだとか。
「やぁ、レイミ嬢。良く来てくれたね」
「ご無沙汰しています、ライデン会長。お元気そうで何よりです」
私は出張所にある応接室でライデン会長と再開を果たしました。
同郷人であると言うのは、お姉さまとは違った安心を感じさせてくれますね。
「今回の来訪は鉄道についてだね?」
「ええ。現在六番街まで延びている路線を十六番街、更に港湾エリア、『黄昏』まで延伸して欲しいのです」
「ほほう、『黄昏』までかね」
以前は、十六番街まで。港湾エリアまでは時期を見てと言う話でしたからね。驚くのも無理はありません。
「港湾エリアに駅を作れば、更に交易を活発化させられるのは言うまでもありません。更に『黄昏』まで伸ばせば『暁』と、お姉さまとの交易をより円滑に進めることが出来ますよ」
「それは魅力的な話だが、他の組織が黙っていないだろう?」
そう、港湾エリアに届く交易品は陸路で輸送されます。その際『ラドン平原』を避けるためにシェルドハーフェン内部を通過するのですが、各区画を支配する組織が通行料を徴収するため利益の大幅な低下を招いているのが現状です。下手をすれば赤字ですね。
しかし鉄道を使えばその心配は無用になります。六番街も十六番街も『オータムリゾート』の支配地域ですからね。もちろん『海狼の牙』のサリア代表とも話が付いています。
ただ、そうすれば当然これまで通行料を科していた組織の収入が無くなるわけで、それに対する反発は当然起きるでしょう。が、問題はありません。
「心配はご無用です。間違いなく不穏になりますが、それでもこの計画は確実に実行します。シェルドハーフェンに新しい風を吹き込むためには、多少強引な手段を行わなければいけませんから」
「改革には苦痛が伴う、であるな?」
「その通りです。ライデン会長、腹を括ってください。シェルドハーフェンを革命の起点とするのですから」
「革命と来たか。確かにあの街ならば圧力は掛からぬが」
「数年経てば、シェルドハーフェンはお姉さまが手中に納めます。これは希望ではなく確実に起きる未来です」
「断言か、レイミ嬢」
「はい、断言します」
「我が社の社員の安全を保障してくれるかね?」
「確実とは言いませんよ。その代わり『オータムリゾート』が給与とは別に特別手当てを出します」
「よし分かった、志願者を募ろうじゃないか」
「お願いします。それと、これから話すのは別件となるのですが」
私が緊張を解くと、それを見たライデン会長も緊張を解いてリラックスしてくれました。
「なんだね?」
「お姉さまより、シスターカテリナの新しい銃の提供を依頼するようにと言われていまして」
「ふむ?シスターカテリナにはMP40を提供しているはずだが」
「あれも悪くはありませんが、シスターはライフルの方が馴染むそうで」
「ふむ。MP40はサブマシンガンと言えるか。ふぅむ」
「それにしても、良くあんな銃を作れましたね?『ライデン社』の工場は見学しましたが、サブマシンガンを開発できるようには見えませんでしたが」
「それはもちろん、あれは一点モノだからね」
……はい?
「は?一点モノ……?」
「言っていなかったかね?我輩は趣味が高じて学者になったのだよ。当然銃器の詳細な設計図も研究していたのだよ。もちろん、うろ覚えの部分は代用品を用いてトライ&エラーを繰り返したがね」
「だから一点モノなのですか?」
「当然だよ。ドワーフ達とパーツを一つ一つ製作して組み上げた代物だ。今の工業技術力では量産なんて不可能だよ」
「なぜそんなことを?」
「愚問だよ、レイミ嬢。趣味だからね」
ああ……そうでした。彼は日本人でしたね。
「……そうでしたね、貴方は趣味に生きる人でした」
「うむ。さて、ライフルか。ちょっと待ちたまえ。おーい!アレを持ってきてくれ!」
ライデン会長が命じると社員が大きな包みを抱き寄せて持ってきました。
「我輩としてはM16カービンも捨て難いものがあったが、技術的に無理があってね。だがこちらを選んだのもまた趣味である」
そして包みを解いて現れたそれは。
「分かるかね?レイミ嬢」
それは前世で何度も目にした……。
「カラシニコフ……」
「そう、1949年ソ連で正式採用された突撃銃。AK47と言った方が有名かな?世界でもっとも使用されている銃としてギネス記録になったね」
「そして、もっとも人を殺した銃でもあります」
高い生産性はもちろん、劣悪な環境でも問題なく扱える頑丈な作りに高い信頼性、整備性、貫通力を誇る東側の傑作突撃銃。つまりアサルトライフルですね。私も何度も傭兵時代に目にしました。
「その通り。残念ながらいくつかのパーツ、特にボルト回りは技術が足りずオリジナルに些か劣るが、この世界では間違いなくオーパーツだよ」
「それは間違いないでしょう。それを頂けるので?」
「うむ、代金は無用だ。銃弾も小銃のものと同じだから、弾薬は気にしなくて良い。オリジナルに拘りたかったが、互換性を失えば実用性を失うからね」
私はライデン会長から差し出されたAK47を受けとり、更に予備のマガジンをいくつか頂きました。
「使い方についてのレクチャーは必要かね?マニュアルを用意するが」
「オリジナルと相違点があるなら、頂きたいです」
「うむ、すぐに用意しよう。何なら、君が馴染み深いであろう64式も作ってみようかな?」
「私は銃よりこちらの方が馴染みますから、お気になさらず」
私は腰に差した刀を指しながら苦笑いを浮かべる。この世界で魔法が使える私には銃より刀の方がやり易い。
「それは残念だ。シャーリィ嬢によろしく伝えてくれたまえ」
「はい、必ず。ありがとうございました」
私は立ち上がって一礼し、背を向けました。
「ああ、そうだ。伝え忘れていたよ」
ライデン会長の言葉に足を止めて振り向きます。
「なにか?」
「現在我が社は新式の小銃の開発を完了させてね、試験的に先行量産型を百挺ほど生産したのだよ。調整を済ませて本格的な量産に取り掛かるつもりでね」
「購入依頼ですか?お姉さまに伝えておきますね」
「いや、新型を開発中であることは既に伝えてある。ただし、熱心な出資者が現れてね。彼等の資金提供で開発が捗ったから、先行量産型百挺は全て彼等に提供したよ。それを伝えておこうと思ってね」
「その新型とは?」
「あれだよ」
ライデン会長が指差した先には、壁に飾られた試作品がありました。あれはっ!
「M1ガーランドっ!」
「うむ、アメリカの開発した傑作小銃だよ!」
「一体誰にこれを渡したのですか!?」
「残念だが、顧客の情報までは教えられないのである。販売情報を教えただけでも譲歩だと考えて欲しいのである」
「っ!」
『暁』が装備している小銃より高性能な小銃を、どこかの組織が手に入れた!それも百挺と言う纏まった数を運用するなら、間違いなく脅威になるっ!直ぐにお姉さまに伝えないとっ!
焦りを押さえつつレイミは姉と連絡を取るために『ライデン社』を後にするのだった。