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「ん⋯」
『どうして⋯許して⋯私の何が悪いの!』
苦しい、助けて─────
「ん、ん⋯⋯」
『うるさい、うるさい、うるさい!あんたは私の言うことだけ聞いていればいいの!』
なんで⋯なんで、殴るの?やめてよ─────
『私は⋯!』
『もう、あんたは私に構わないで!』
もう、やめ⋯て⋯!
「やめてっ⋯!」
はっ、と気がついた栞は頭をかいて周りを見渡した。汗でぐっしょりと濡れているシーツに触れて悪夢を見ていたことに気づいた。
栞はここで眠るとまるで母親の状況と酷似している体験を夢の中で行える。という仮説を立てているが、それはどれもこれも悪夢ばかり。このホテル以外にも家、会社、学校、結婚式、といった母親がいたであろう場所で物語は始まる。
その瞬間だけ、母親と繋がっているような感覚に陥り、自分が母親のように思えてくるのだ。栞は汗で濡れた下着を換えて、その部屋を出て家に帰った。あの場所でもう一夜過ごすことは苦痛に値する。いつか、母親に心も体も盗られるような気がしてそのホテルでみる悪夢のことはまだ言えていない。
その悪夢だけで、私の人生を壊そうとしていると感じてしまう。栞の家族への愛がその悪夢にも似た夢を産んだのかもしれない。
「ただいま⋯」
深夜三時、外の照明は完全に消灯している。だが、欠けつつ光り輝く月に助けられた。
気がつくと、栞はソファで眠っていた。
「んぇ?」
帰ってからすぐ意識を失って眠ってしまったのだろう。だが、スマホをみると
『栞、なんで帰ってきたの?隠すの大変だったのよ。今度から、寂しくても帰ってこないでね。私とあの人との問題だから、栞やアイツを巻き込んだことは悪いとは思っているけれど分かってちょうだい。それが愛の形なのよ。』
「⋯⋯愛の形ね。」栞は呟き、登校準備をした。
支度をし終わり、軽い朝食を作って食べる。そんな素朴な幸せでさえ今朝の出来事のせいで気分は全く優れない。
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