テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あめ猫
3,650
夕方。
部屋は静かで、柔らかい光だけが差し込んでいる。
床には積み木。
色も形もバラバラ。
セブンはその前に座っている。
「……こうか」
一つ置く。
その上に、もう一つ。
さらに重ねる。
ぐらつく。
「……」
少し角度を調整する。
安定する。
塔ができる。
それを見ている小さな影。
クールキッド。
じっと見ている。
目が追っている。
セブンの手。
積み木。
動き。
「……触るな」
先に言う。
クールキッドは一瞬止まる。
そして——
手を伸ばす。
「……おい」
止める前に。
崩す。
全部。
一瞬で。
カラカラと音を立てて、床に散る。
沈黙。
セブンは動かない。
クールキッドは、少しだけ笑っている。
悪気はない。
ただ、起きたことが面白いだけ。
「……」
セブンはゆっくり息を吐く。
怒らない。
怒る理由はある。
でも、それを使わない。
もう一度、拾う。
一つずつ。
「……またやる」
小さく言う。
クールキッドは頷く。
分かっていない頷き。
また積む。
さっきより少し高く。
慎重に。
バランスを取る。
完成。
「……」
見せる。
クールキッドが、また手を伸ばす。
「待て」
一瞬だけ止まる。
けど——
やっぱり崩す。
音。
崩壊。
同じ繰り返し。
セブンの眉がわずかに寄る。
「……何が面白い」
問いかける。
答えはない。
ただ笑っている。
楽しそうに。
それだけ。
三回。
四回。
同じことを繰り返す。
積む。
壊される。
積む。
壊される。
「……」
セブンは手を止める。
少しだけ考える。
そして——
スマホを取る。
メッセージ。
エリオット。
『積んだものを壊す。何回もだ。理由は』
数秒後。
返ってくる。
『普通』
「……」
『それだけか』
『それだけだな』
『意味は』
『ない。面白いからやる』
セブンは画面を見る。
それから、床を見る。
散らばった積み木。
クールキッド。
また一つ拾っている。
「……壊すためにやるのか」
ぽつりと。
独り言。
そのとき。
クールキッドが一つ積む。
不安定。
すぐ倒れる。
自分で崩した。
そして笑う。
「……そういうものか」
セブンは小さく言う。
納得はしていない。
でも、理解はする。
——その夜。
ピザ屋。
クールキッドは、店の隅の小さなキッズコーナーで遊んでいる。
セブンはいつもの席。
「で、どうだった」
エリオットが聞く。
「……壊す」
「うん」
「何回もだ」
「うん」
「意味がない」
「あるだろ」
セブンが少しだけ顔を上げる。
「何だ」
「“壊れる”って知る」
エリオットはピザを置きながら言う。
「あと、“もう一回できる”ってのも」
セブンは黙る。
「お前さ、壊すのは慣れてるだろ」
「……ああ」
「でもそいつは違う。
遊びで覚えてる途中」
セブンは視線を落とす。
指先。
積み木を持った感覚が残っている。
「……」
そのとき。
店の奥で音が鳴る。
「ん?」
エリオットが振り向く。
レジ。
タブレット。
注文画面。
表示が乱れる。
文字化け。
勝手に切り替わる。
「……は?」
エリオットが近づく。
操作する。
反応しない。
「なんだこれ……」
セブンの視線が変わる。
一瞬で。
空気が変わる。
「触るな」
低く言う。
「え?」
「そのままにしろ」
セブンは立ち上がる。
ゆっくり近づく。
画面を見る。
ログ表示。
異常な入力。
外部アクセス。
でも。
やり方が——
「……違う」
小さく呟く。
自分のものじゃない。
でも似ている。
荒い。
未完成。
なのに、通っている。
「おい、これ直るのか」
エリオットが少し焦る。
「……一旦落とせ」
「いいのか?」
「今はそれしかない」
エリオットが電源を落とす。
画面が消える。
静かになる。
「何だったんだよ今の」
「……干渉だ」
「は?」
セブンは少し黙る。
言葉を選ぶ。
でも。
「……誰かが触った」
それだけ言う。
嘘じゃない。
でも全部でもない。
「外部か?」
「……ああ」
短く答える。
その間にも。
頭の中では別のことを考えている。
今日。
家で。
積み木。
壊す。
繰り返す。
“面白いからやる”。
「……」
帰り道。
クールキッドはセブンの手を握る。
いつも通り。
「パパ」
「……何だ」
「つむ」
「……ああ」
「また」
「……やる」
短いやり取り。
でも。
セブンの中で、何かが繋がる。
積む。
壊す。
もう一回。
繰り返す。
それが、もし。
積み木じゃなくて——
「……クールキッド」
名前を呼ぶ。
クールキッドが見上げる。
無邪気な顔。
「……今日はやめろ」
何を、とは言わない。
でも。
クールキッドは頷く。
「うん」
分かっているかは分からない。
でも、約束はした。
——その夜。
セブンはPCを開く。
ログを追う。
ピザ屋のシステム。
侵入経路。
痕跡。
そして——
見つける。
極小のシグナル。
弱い。
不安定。
でも確実に存在する。
「……遊びか」
ぽつりと呟く。
怒りはない。
ただ。
理解してしまった感覚。
「……壊れるのを、見てるだけか」
画面を閉じる。
振り返る。
ベッド。
クールキッドは寝ている。
何も知らない顔で。
でも。
その手は、小さく動く。
夢の中でも何かを“なぞる”ように。
セブンはしばらく見ている。
長く。
静かに。
「……教えるか」
低く呟く。
止めるか。
教えるか。
どちらにしても。
もう、関わらないという選択肢はない。
守るためには。
理解しないといけない。
その“壊し方”を。
自分よりも未完成で、
でも確実に進んでいるそれを。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!