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#見捨てられた
リコりす@コメントくれ
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夕方。
部屋は静かで、柔らかい光だけが差し込んでいる。
床には積み木。
色も形もバラバラ。
セブンはその前に座っている。
「……こうか」
一つ置く。
その上に、もう一つ。
さらに重ねる。
ぐらつく。
「……」
少し角度を調整する。
安定する。
塔ができる。
それを見ている小さな影。
クールキッド。
じっと見ている。
目が追っている。
セブンの手。
積み木。
動き。
「……触るな」
先に言う。
クールキッドは一瞬止まる。
そして——
手を伸ばす。
「……おい」
止める前に。
崩す。
全部。
一瞬で。
カラカラと音を立てて、床に散る。
沈黙。
セブンは動かない。
クールキッドは、少しだけ笑っている。
悪気はない。
ただ、起きたことが面白いだけ。
「……」
セブンはゆっくり息を吐く。
怒らない。
怒る理由はある。
でも、それを使わない。
もう一度、拾う。
一つずつ。
「……またやる」
小さく言う。
クールキッドは頷く。
分かっていない頷き。
また積む。
さっきより少し高く。
慎重に。
バランスを取る。
完成。
「……」
見せる。
クールキッドが、また手を伸ばす。
「待て」
一瞬だけ止まる。
けど——
やっぱり崩す。
音。
崩壊。
同じ繰り返し。
セブンの眉がわずかに寄る。
「……何が面白い」
問いかける。
答えはない。
ただ笑っている。
楽しそうに。
それだけ。
三回。
四回。
同じことを繰り返す。
積む。
壊される。
積む。
壊される。
「……」
セブンは手を止める。
少しだけ考える。
そして——
スマホを取る。
メッセージ。
エリオット。
『積んだものを壊す。何回もだ。理由は』
数秒後。
返ってくる。
『普通』
「……」
『それだけか』
『それだけだな』
『意味は』
『ない。面白いからやる』
セブンは画面を見る。
それから、床を見る。
散らばった積み木。
クールキッド。
また一つ拾っている。
「……壊すためにやるのか」
ぽつりと。
独り言。
そのとき。
クールキッドが一つ積む。
不安定。
すぐ倒れる。
自分で崩した。
そして笑う。
「……そういうものか」
セブンは小さく言う。
納得はしていない。
でも、理解はする。
——その夜。
ピザ屋。
クールキッドは、店の隅の小さなキッズコーナーで遊んでいる。
セブンはいつもの席。
「で、どうだった」
エリオットが聞く。
「……壊す」
「うん」
「何回もだ」
「うん」
「意味がない」
「あるだろ」
セブンが少しだけ顔を上げる。
「何だ」
「“壊れる”って知る」
エリオットはピザを置きながら言う。
「あと、“もう一回できる”ってのも」
セブンは黙る。
「お前さ、壊すのは慣れてるだろ」
「……ああ」
「でもそいつは違う。
遊びで覚えてる途中」
セブンは視線を落とす。
指先。
積み木を持った感覚が残っている。
「……」
そのとき。
店の奥で音が鳴る。
「ん?」
エリオットが振り向く。
レジ。
タブレット。
注文画面。
表示が乱れる。
文字化け。
勝手に切り替わる。
「……は?」
エリオットが近づく。
操作する。
反応しない。
「なんだこれ……」
セブンの視線が変わる。
一瞬で。
空気が変わる。
「触るな」
低く言う。
「え?」
「そのままにしろ」
セブンは立ち上がる。
ゆっくり近づく。
画面を見る。
ログ表示。
異常な入力。
外部アクセス。
でも。
やり方が——
「……違う」
小さく呟く。
自分のものじゃない。
でも似ている。
荒い。
未完成。
なのに、通っている。
「おい、これ直るのか」
エリオットが少し焦る。
「……一旦落とせ」
「いいのか?」
「今はそれしかない」
エリオットが電源を落とす。
画面が消える。
静かになる。
「何だったんだよ今の」
「……干渉だ」
「は?」
セブンは少し黙る。
言葉を選ぶ。
でも。
「……誰かが触った」
それだけ言う。
嘘じゃない。
でも全部でもない。
「外部か?」
「……ああ」
短く答える。
その間にも。
頭の中では別のことを考えている。
今日。
家で。
積み木。
壊す。
繰り返す。
“面白いからやる”。
「……」
帰り道。
クールキッドはセブンの手を握る。
いつも通り。
「パパ」
「……何だ」
「つむ」
「……ああ」
「また」
「……やる」
短いやり取り。
でも。
セブンの中で、何かが繋がる。
積む。
壊す。
もう一回。
繰り返す。
それが、もし。
積み木じゃなくて——
「……クールキッド」
名前を呼ぶ。
クールキッドが見上げる。
無邪気な顔。
「……今日はやめろ」
何を、とは言わない。
でも。
クールキッドは頷く。
「うん」
分かっているかは分からない。
でも、約束はした。
——その夜。
セブンはPCを開く。
ログを追う。
ピザ屋のシステム。
侵入経路。
痕跡。
そして——
見つける。
極小のシグナル。
弱い。
不安定。
でも確実に存在する。
「……遊びか」
ぽつりと呟く。
怒りはない。
ただ。
理解してしまった感覚。
「……壊れるのを、見てるだけか」
画面を閉じる。
振り返る。
ベッド。
クールキッドは寝ている。
何も知らない顔で。
でも。
その手は、小さく動く。
夢の中でも何かを“なぞる”ように。
セブンはしばらく見ている。
長く。
静かに。
「……教えるか」
低く呟く。
止めるか。
教えるか。
どちらにしても。
もう、関わらないという選択肢はない。
守るためには。
理解しないといけない。
その“壊し方”を。
自分よりも未完成で、
でも確実に進んでいるそれを。