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あめ猫
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夕方。
ピザ屋は少し落ち着いた時間帯。
ピークは過ぎて、客の声もまばら。
セブンはいつもの席。
クールキッドは隣。
足をぶらぶらさせている。
「にいに」
カウンターの奥に向かって呼ぶ。
エリオットが顔を上げる。
「ん?」
「これ」
クールキッドがピザを指さす。
「うまい」
「だろ」
エリオットは少しだけ笑う。
「焼きたてだからな」
セブンは何も言わず食べている。
いつも通り。
ただ——
少しだけ、手が止まる回数が多い。
エリオットはそれを見ている。
「お前さ」
声をかける。
セブンが顔を上げる。
「ピザばっか食って、栄養大丈夫か?」
軽い調子。
いつも通りの雑な会話。
セブンは一瞬だけ考える。
そして。
「トマトが載ってるから大丈夫だ」
真顔で言う。
間。
エリオットが吹き出す。
「それで済ませるなよ」
「問題ない」
「いやあるだろ」
クールキッドが笑う。
会話の意味は半分も分かっていない。
でも、雰囲気が楽しい。
「にいに」
また呼ぶ。
「なんだ」
「これ、もう一こ」
皿を指さす。
「食いすぎだ」
「いいだろ、今日は」
エリオットが追加で一切れ置く。
「ほら」
クールキッドは満足そうに受け取る。
「……甘いな」
セブンが小さく言う。
「子どもには甘くていいんだよ」
エリオットは軽く返す。
それから。
ふと、視線が戻る。
セブンに。
「……どうした」
セブンは動きを止める。
「何が」
「さっきから」
エリオットは少しだけ顎で示す。
「顔」
セブンは無言。
自覚はある。
でも、言う気はない。
クールキッドは気づいていない。
ピザに集中している。
「……別に」
短く返す。
「別に、で済む顔じゃないだろ」
エリオットの声は変わらない。
軽いまま。
でも、引かない。
セブンは視線を落とす。
皿。
食べかけのピザ。
トマト。
「……店」
ぽつりと。
「ん?」
「この前の、システム」
エリオットの表情が少しだけ変わる。
「ああ」
「……また、起きるかもしれない」
静かな声。
断定じゃない。
でも、予感じゃない。
エリオットは少し黙る。
「外部って言ってたな」
「……ああ」
「対処できるか」
セブンは答えない。
代わりに。
ほんのわずかに、視線が横に動く。
クールキッド。
何も知らない顔で食べている。
「……」
エリオットはその視線を追う。
一瞬。
何かを察しかける。
でも、言わない。
「……まあいい」
軽く息を吐く。
「じゃあさ」
少しだけ声を変える。
「今日、家行ってもいいか?」
セブンの動きが止まる。
完全に。
「……何でだ」
「なんとなく」
「理由になってない」
「じゃあ理由つけるか」
エリオットは少しだけ考える。
「顔が気に食わない」
「……は?」
「そのまま帰すと、なんかやらかしそう」
軽く言う。
冗談みたいに。
でも。
外していない。
セブンはしばらく黙る。
断る理由はいくらでもある。
見せたくないものもある。
知られたくないこともある。
でも。
「……好きにしろ」
短く言う。
完全な許可じゃない。
でも拒否でもない。
エリオットはそれで十分だった。
「じゃあ決まり」
軽く笑う。
クールキッドが顔を上げる。
「にいに、くる?」
「ああ、行く」
「やった」
素直な反応。
それを見て。
セブンはほんの一瞬だけ目を閉じる。
小さく息を吐く。
——夜。
いつもと同じ帰り道。
でも、今日は一人じゃない。
隣にエリオット。
もう片方にクールキッド。
手を繋いでいる。
「パパ」
「……何だ」
「にいに、くる」
「……ああ」
「たのしい」
「……そうか」
短い会話。
でも、確かにある温度。
その中で。
セブンの表情だけが、少し重い。
考えている。
これから見せること。
隠しきれないこと。
そして。
“もし見られたら”のこと。
家の前。
扉の前で、ほんの一瞬だけ止まる。
「……おい」
エリオットが気づく。
「まだ迷ってる顔してるぞ」
セブンは何も言わない。
ただ。
ドアノブに手をかける。
「……入れ」
開ける。
光のない部屋。
静かな空気。
その奥にあるものを、
まだエリオットは知らない。
でも。
踏み込んだ。
——ここから、全部繋がる。
何もかも。
隠していたものも。
守ろうとしているものも。
全部。
同じ場所に。