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4×15
「えっ?」
突然の出来事に思わず声を出してしまう。しまった、何でこんな大声を出してしまったのか‥
おかげで、何かを差し出していたはずの健人さんが途端に腕を引っ込めてしまう。
「いや‥ごめん‥///なんでもない‥///」
呼び止めて悪かったと 呟かれる。そして、そのま踵を返そうとするから‥今度は僕が慌ててしまう。
「ちょ、ちょっと、待ってください!何か‥用事だったんじゃないですか?」
引き止めるのに‥それでも去ろうとする健人さんの腕を無意識に掴んだ。
「あっ‥‥‥///」
「へ?‥‥‥あっ、すっ、すいませ‥ん///」
勢いよく掴んでしまった腕を見ながら、健人さんが赤面するから‥僕まで恥ずかしさが込み上げる。掴んでいた腕をパッと離すと‥
健人さんの表情が揺らいだ気がした。さっきまで赤面していたのに‥何か物足りない表情‥
何でだろう?‥顔を不意に覗き込むと、コホンと咳払いをしつつ‥無言で健人さんが目の前に差し出してきたのは‥
甲斐Side
「はっ?水族館?」
「わぁ!!シーー!!声が大きいですっ、」
‥ここは代表の合宿所。同部屋は藍さん。
隣のベッドで寛ぐ彼が、キラキラと眩いほどの笑顔を見せながらこちらを見つめる。
(ああ‥この顔はまだ‥弱い‥かも‥)
予想もしない不意打ちに戸惑い俯いてしまう。藍さんへの想いはもう断ち切ったつもりたが‥それでも時々こうして僕の胸を苦しくさせる。当の本人は気にもしていないだろうが‥
「声が大きいって‥甲斐と俺しかおらんやん、笑」
「誰が‥聞いてるか‥わかんないですもん‥」
「大丈夫やろ!それより‥この水族館のチケット‥2枚あるけど、何で?」
藍さんが僕から手渡された紙を眺めながら呟く。その手には水族館のチケットが2枚。
これは、ついさっき練習後に健人さんから貰ったものだ。
ちなみにもう1枚は健人さんが持っている。
理由を聞くと、知人から水族館のチケットを貰ったから、行かないか?というお誘いだった。顔を真っ赤にしながら‥
「宮浦さんから貰ったんやろ?1枚は甲斐って分かるけど‥後の1枚は何なん?宮浦さんも自分の分は持ってるんやろ?」
「それが‥健人さんが言うには‥藍さんを誘ったらどうかって‥」
「へ?なんで俺?」
キョトンとする藍さん。だが、理由は言えない。まさか、僕が藍さんに振られて健人さんの前で泣いたからだなんて‥口が裂けても言えない。
「さ‥さぁ、‥もしかしたら、藍さん前に水族館行きたいって言ってたからじゃないですかね?」
「ふーん、俺言ったっけ?覚えてないわ‥」
首をひねる藍さんを納得させようと必死で取り繕う。
きっと、多分‥健人さんが藍さんを誘うように言ったのは‥僕に未練があると思ったからだろう。
想いを寄せる藍さんが来れば‥僕が喜ぶと思って‥
“藍も呼んでいいから‥ねっ?“
そう呟いた健人さんの表情が‥何故か忘れられない。
優しく聡明で‥なのに‥なんだろう‥少し寂し気な瞳をしていた気がする‥
“好きだからかな‥お前の事が‥“
前に言われた言葉。あれ以来、特に何もなく過ぎ去ってしまったから‥気のせいだったんじゃないかと思えてならない。
一度だけ強く抱き締められた腕の強さだけは鮮明に残っているのに‥
しかし、そこでふと気付く。僕は確かに失恋したと告げたが‥その相手が藍さんだとは一言も言っていない。
なら、何故健人さんは知ってたんだろうか‥。
振られた相手が藍さんだと。
うーん。一通り考えてみるが、思い当たるふしは見当たらないな。うっかり口を滑らせてしまったのだろうか‥
そんな風に悶々とした中、合宿は無事終わり‥
オフの日。
それは、約束の日でもある。今朝から妙にソワソワする気持ちを落ち着かせようとするが、どうにもままならない。出掛ける直前になって昨夜決めた服のコーディネートが気に入らないし、段差のない所で転びかけるし‥
それでも、待ち合わせ時刻の1時間前には到着してしまった。
早く来すぎたかな。何度も時計を眺め少し珈琲でも飲みに行こうかと思うが、その前に健人さんや藍さんが来てしまったらと思うと一歩も動けない。
仕方なく、近くにあったベンチに腰掛ける。そして、目の前を忙しなく通り過ぎる人の群れをぼんやりと眺めていた。
平日だと言うのに相変わらず人で溢れかえっている。
こんなにも人がいたら、健人さんなんてわかんないかな‥自然と彼を探そうと子供のようにキョロキョロしてしまう自分自身に自嘲気味な笑いが込み上げる。
まだ約束の時間まで1時間以上もあるのに‥
僕は何をしているんだろうか‥
ふと下に目線を移す。足元に目をやると今日の為に新調した靴に目がいった。新作のスニーカーで、一目惚れというやつ。
と、そんな風に眺めていたら‥
「初めて見る靴だね、似合ってるよ」
頭上からよく知っている声が降りかかる。見上げると‥健人さんがそこにいた。
僕の方を見て‥照れくさそうに笑う。
「健人さん!?早いですね、」
「ははっ、それは甲斐の方だろ?笑」
驚く僕の顔を見ながら、ニコリと笑う笑顔に胸の奥で何か音がした気がした。でも、それはほんの一瞬で‥すぐに消え去ってしまう。
とても大切な‥何かのような気がしたのに‥
お互いに早く来てしまったからと、軽く珈琲を済ませ、再び約束の場所へと戻る。
すると、約束の時間ぴったりに藍さんが到着する。僕達を見つけると、満面の笑顔で近寄る。しかも、大きく手を振ってくるものだから、健人さんがやや困り果てている様子に思わず横で吹き出してしまう。
「なんだよっ///」
横でジロリと睨んでるつもりなんだろうが‥頬の赤さがそれを帳消しにしているものだから‥また不覚にも笑ってしまった。
「甲斐、いつもより笑うやん!楽しみやったん?」
携帯を弄りながら藍さんも上目遣いで見上げてくる。きっと、急いで来てくれたんだろう。少し汗ばんでいる額を何度も拭う仕草に密かに感謝する。
健人さんと2人だと‥きっと意識し過ぎてしまっていたと思うから‥
「それじゃあ、行こっ!」
ぴょんと軽やかにジャンプしながら、藍さんが先頭に立って歩き出そうとするが‥それを健人さんがやんわりと止める。
「あっ、待って‥まだ1人来てないから」
「1人?ほかにも来るん?」
健人さんの言葉に藍さんと同様に驚いてしまう。
誰か他にも来るなんて‥思ってもいなかった。
暫く待つ間、痺れを切らした藍さんがしつこいぐらいに”誰なん?“と健人さんに質問攻めにするのと同時に、
不意に後ろで声をかけられる。
藍さんと振り返ると、そこには‥
「ごめん、待った?」
無造作ヘアーが風にくるんと舞い、薄いサングラスの奥からは聡明な瞳が‥白のTシャツとジーンズいうラフな格好で彼はそこに居た。
そんな彼を見て‥驚きを隠せない藍さんが指を差す。
「なん‥で‥祐希さん?‥」
「俺も誘われたんだ♪よろしく」
いつまでも指をさす藍さんを見つめながら、悪戯っ子のように笑う祐希さん。
まさか、
健人さんが呼んでいたのが、
祐希さんだったなんて‥
コメント
2件
お?甲斐くんに新たな恋の予感?このシチュエーションはまさかのダブルデート!この組み合わせ楽しそう過ぎません?(笑) 次回も楽しみにしてます☺️
快楽に溺れてる。の続きになります。 4×15のその後が気になって‥♡♡