「わたくしは【ルミナ・クレイトン】と申します。あなたがルード様でいらっしゃいますか?」
「あ、ああ。そうだが……」
綺麗な女性がルミナ・クレイトンと名乗ってお辞儀をする。ルードの返事を聞くと赤髪の騎士が怪訝な表情に変わる。赤髪の騎士の様子に気が付いたルミナさんが彼女の肩を叩きいさめる。やっぱり不敬とかそういうものがあるんかな?
「あなたに直接依頼を頼もうと思いモンドルに来ました」
「依頼?」
「はい」
ルミナさんは手紙を差し出す。ルードはそれを受け取って手紙を読んでいく。
「はぁ? ここに住み込みで? それも訓練をしてくれって? ど、どういうことだ?」
ルードが驚いて声を上げる。するとオリビアも困惑している様子。
「見せて。ふむふむ、魔法で隠れている文字があるわ。えっと? 『ルミナは命を狙われている。信頼のおけるルードに娘を守ってほしい。願わくばレベルを上げてくれ。クレイトン家当主、【オベリスク】』」
「信頼って……。オベリスクなんて知り合いいないぞ」
シディーさんが隠された手紙の内容を話す。ルードはそんな人知らないみたいだな。
「お父様は名高い冒険者であるルード様のお話が好きで信頼しているのです。それでわたくしを強くしてほしいと。依頼料も沢山持ってきています。どうかよろしくお願いいたします!」
「……と言われてもな~」
ルミナさんはそう言って深くお辞儀をする。急にそんな話をされても困るのは分かる。流石に事前に連絡はよこしてもらわないとな~。
「ルミナ様。このような者達に頼むことはありません。私が指導すればいいだけのことです」
「カデナ。あなたは強い騎士だと思います。ですがルード様よりは弱く、経験も浅い。お父様はそう言っていました」
「くっ。それならば……」
赤髪の騎士の進言にルミナが素直に答える。すると彼女はルードに手袋を投げつける。彼はそれをキャッチして首を傾げた。
「決闘を申し込む! 勝ったものがルミナ様を指導する」
「え? 俺になんの得が?」
「き、貴様。先ほどからクレイトン家への敬意が欠如しているぞ! クレイトン家は代々この領土を守っていただいておられる家。忠義というものを持っていないのか!」
「ん~、俺って田舎出身だし。それに冒険者になってすぐに強くなって貴族よりも有名になっちゃったからな~」
カデナさんの声に首を傾げっぱなしのルード。天才っていうやつはこんな感じなんだろうな。肩書じゃ止められないよな。強いんだもん。
「まあ、とりあえず面白そうだ。女だてらに騎士なんてやってるんだ。それなりに強いんだろあんた? やってやるよ決闘」
「くっ。吠えづらかくなよ」
ルードはそう言って上着を一枚脱いで剣を抜く。
「ルード。手加減してあげてね」
「いいのよオリビア。こういう手合いは少し手荒にしてあげないと分からないんだから。腕の一本でも切り落としてあげなさい」
「ちょっとシディー! ルード! そんなことしたら一緒に寝てあげないからね!」
オリビアとシディーさんの声にルードは顔を歪める。
カデナさんはかなり不服な様子で、その声を聞いてる。顔が髪の毛みたいに真っ赤になってるよ。
「先手はやるよ。かかってきな」
「後悔しなさい!」
騎士でありながら大剣を扱うカデナさん。大きく振り下ろしてくる大剣をルードは軽くいなしてさばく。
「もう一度!」
「この!」
鋭い打ち下ろしをいなすルードの腕は確かなものだった。カデナさんも素人目に見て凄い。
自分と同じくらいの大きさの大剣だ。かなり重いはずなのに軽く扱ってる。大振りなのは軽すぎるからか? もっと小刻みに扱えば手ごわそうだけど。
鉄と鉄がぶつかり合い、焦げ臭いにおいが漂ってくる。何度も何度も打ち合う剣が火花を散らす。
ルードの剣は細く弱弱しかった。しかし、カデナさんの大剣は傷だらけになってく。ぶつかり合い剣がまるで悲鳴を上げているように聞こえてくる。
そして、決着の時が来る。カデナの刀身が真っ二つに切れて地面に突き刺さる。
「はぁはぁ……」
「ありがとうございました。中々よかったよ。あんたについてこれる人はあんまりいないんじゃないか?」
「はぁはぁ」
切れた大剣を見つめながら息を切らせるカデナさん。ルードは剣を鞘にしまい声をかける。彼女はそれを聞いても切れた剣を見つめる。
「凄い! お話で見た技をここでもみられるなんて! 鉄をも切り裂く剣技。素晴らしいです!」
「はは、お恥ずかしい。若気の至りですよ」
ルミナさんの声に恥ずかしそうに頭を掻いて答えるルード。カデナさんはその場から動けずにいる。
「く! まだだ! まだ私は戦える!」
叫びにも似た声を上げるカデナさん。それを聞いてシディーさんがヤレヤレと首を横に振る。
「ほらね。プライドの塊みたいな子。あ! そうだわ! アルス。相手してあげなさい」
「バブ!?」
僕の頭に乗ってきてポンポンと叩いてくるシディーさん。僕がカデナさんの相手をするの?
「プライドが高いならぶっ壊しちゃえばいいのよ。底まで落ちたらあとは這いあがるだけでしょ。強くなりたいなら私が面倒みるし」
「バブ……」
シディーさんがそう言って嬉しそうに彼女を見つめる。それを聞いてカデナさんが僕を睨みつけてくる。
「なにを勝手なことを! 私はルードと!」
「あんたとルードじゃ次元が違うって言ってるのよ。あなた、彼の手元がみえていなかったでしょ? 剣がどこにあるのかもわからなかったみたいじゃない。そんなだから簡単にいなされるのよ」
「あ、う。だ、だからってそんな言葉も話せないような赤ん坊と! というかどうやって意思疎通をしてるの!」
シディーさんの言葉に言いくるめられそうになってごもっともなことを言ってくるカデナさん。
シディーさんはどうしても僕とやらせたいみたいだな。でも、正直勝てるな~。だって、ゴブリンロードの攻撃よりも全然遅かったしね。
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