「う。やりにくい」
剣を構えるカデナさん。僕と対峙して冷や汗をにじませてる。
仕方ない、僕から手を出そう。
「バブ!」
「え?」
水の魔法で彼女の剣に穴をあけて見せる。まったく見えていなかったみたい。
というか僕の魔法が強くなりすぎてるな。もっと威力を調整しないと人を簡単に殺められる。
「か、替えの大剣が……剣を新調しないといけないじゃないか」
彼女は涙目で穴の開いた大剣を見つめる。早々に終わらせてしまった。僕の勝ちでいいのかな? でも、これじゃ、シディーさんは満足できなさそうだけど。そう思って彼女を見るとご満悦。誇らしげに胸を張ってる。
「ふふ、アルスはほんと天才、いや! 鬼才ね。もっともっといろんな魔法を教えて。ふふふ」
シディーさんがマッドサイエンティストみたいに笑ってる。どんな魔法を教えてくれるんだろう。僕はワクワクが止まらないよ。
「お楽しみの所申し上げにくいのですが。その子はルード様のお子様ですよね? なぜそんなにお強いのですか?」
ルミナさんが聞いてくる。彼女の問いかけにオリビアがクスクス笑ってルードを見つめる。
「何故かはわかりません。しいて言えば私とルードの子だからでしょうかね」
「そうだな! 俺に似て強くて、オリビアに似て可愛らしい」
「ふふ、ルードったら」
油断するとすぐにイチャイチャし始める二人。その様子にルミナさんは顔を赤くさせる。
「カデナさん。あんたの剣を親子で壊しちまった。お詫びに剣をやるよ。もちろん、大剣な」
「え!? あるのですか?」
「ああ、俺も昔は大剣を使ってた。魔物を一刀両断できるようにってな。今じゃそんな力は必要なくなって普通の剣になったけどな」
ルードは申し訳なさそうにカデナさんに声をかける。
オリビアと一緒に村の倉庫に向かう。カデナさんは嬉しそうに彼らの後を追いかけて行った。
「シディーさん。あなたはあの【シディー】さんでよろしいんですよね?」
「ん? あ~、多分あっているわ。王都の話でしょ?」
「バブ?」
カデナさん達を見送るとルミナさんがそう声をかけてくる。
彼女の言葉にシディーさんが恥ずかしそうに頭を掻いて答える。
「汚職貴族達を一掃した【妖精シディー】。魔法で右に出るものなしと言わしめた妖精」
「いくら金に汚い貴族を排他しても次々と湧いてくる。それから私は手を下さなくなった。まあ、目障りになったらすぐに消すけどね」
ルミナさんの声に彼女は恥ずかしそうに答える。
ゴキブリのように次々と湧いてくる。どの世界でも一緒なんだな。
「私は剣も魔法も上手くなりたいと思っています。よろしくお願いいたします」
深くお辞儀をしてそう言ってくるルミナさん。
上げた顔からは決意のようなものが見える。何か死に直結したような決意が。
「何か訳ありみたいね。そういう目をしている子は好きよ。どんな無茶な訓練も乗り越えてくれるから。じゃあ、アルスとフリルと一緒に走り込みから始めましょうか」
「バブ?」
シディーさんはそう言って村を見回す。
それから僕らは村の囲っている柵を走りこむ。シディーさんが良いというまで走った。
まあ、僕はハイハイだけどね。土魔法で膝をガードしながらだから痛くない。魔法球の応用で色々出来るようになった。
生まれたばかりの赤ん坊が筋トレなんてって思ったけど、シディーさんはそうは思っていないみたい。
「どんなに魔法を鍛えても。ルードみたいな剣士にあったらひとたまりもない。とにかく戦闘の勘っていうのを鍛えないといけないわ。それには筋肉。私には不要だけどね」
走りこむ僕らにそう言って聞かせてくるシディーさん。
彼女はずっと飛んでは僕の頭に乗ったり、フリルの頭に乗ったりしてくる。僕もこんなに自由に飛べるようになりたいな。
「ハァハァ……」
「ふふ。話す余裕もないみたいね。あなた何歳?」
「ハァハァ…12歳です」
「12歳ね。少し遅いわね。もう少し早ければもっと簡単に強くなれたかもしれないのに」
ルミナさんは12歳か。それにしては大人びた喋り方だな。
ゴールデンエイジとか言われる時代があるって勉強したことがある。確か9歳から12歳だったかな。
その時に筋肉が成長しやすいらしい。前世のその頃は必死だったな。あの地獄から早く這い上がりたくて勉強勉強。
先生に助けられて大学まで……小学校の頃の先生、中学校の時の先生。二人には感謝しかなかった。それなのに僕は死んじゃって……思い出すのはやめよう。
「ワンワン!」
「バブ!? バブバブ」
暗い顔でハイハイしているとフリルが顔を舐めてくれる。走りながら器用に舐めてくる彼女に少し和ませられる。
「アルス達は余裕ね。流石だわ。レベルがかなり上がってるみたいね。先に上がっていてもいいわよ」
しばらく走っているとシディーさんはそう言って僕とフリルを家に帰してくれる。
村は一周約500メートル。10周したから5キロくらい走ったかな? 夕日が落ちてきて辺りが暗くなってきてる。
ルミナさんは疲れ切っているけど、一生懸命走ってる。あの決意のこもった瞳は曇っていない。