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ある朝――
誰もいない病室で、
涼ちゃんはそっとベッドを降り、窓際に立った。
外は曇り空、遠くの景色はぼんやりと見えるだけ。
窓の鍵を震える手で外して、ゆっくりと窓を開ける。
冷たい空気がふっと部屋に入り込んできた。
涼ちゃんは、窓の桟に両手をかけ、
おそるおそるその上に立つ。
(もう、全部……終わらせてしまいたい)
悔しかったことも、苦しかったことも、
伝えられなかった想いも、
全部この高い窓の外に放り投げるような気持ちで――
涼ちゃんは、そっと目を閉じた。
飛び降りようとしたまさにその瞬間――
「おい!」
男の先生の大きな声が、部屋に響いた。
涼ちゃんが窓の外へ身を投げると、
先生は一瞬の迷いもなく駆け寄り、ぎりぎりのところで涼ちゃんの腕をつかんだ。
「待ってろ!頑張れ――!」
先生は必死の形相で叫び、
ほかの看護師たちも慌てて駆けつけ、窓から落ちかけた涼ちゃんの体を必死で引っ張りあげる。
なんとか無事に、涼ちゃんを病室の中へと引き戻すことができた。
でも、救われた涼ちゃんの瞳には、生きている実感はなかった。
「……ああ、また死ねなかった……」
ただ、悲しそうにそう呟いた。
その姿を見た看護師は、いてもたってもいられなくなり――
𓏸𓏸へと急いで連絡を入れた。
(――𓏸𓏸さん、涼ちゃんが……!)
𓏸𓏸は、病院からの連絡を受けてすぐに駆けつけた。
慌てて病室の扉を開ける。
最初に目に入ったのは、
ベッドにうなだれて座る、涼ちゃんの虚ろな目だった。
骨ばった細い体は、以前よりもずっと小さく見える。
「……ありがとうございます」と𓏸𓏸は看護師たちに深々と頭を下げた。
そして、そっと涼ちゃんのそばに座る。
気配を感じて涼ちゃんが顔を上げ、𓏸𓏸のほうを見た。
「……また死ねなかった……」
かすれた声だった。
生気のないまなざしで、絞り出すようにそうつぶやく涼ちゃん。
𓏸𓏸は、何も言わず、ただその横で静かに寄り添った。
言葉も慰めも、今は何もいらない――
ただ隣で、小さな体のぬくもりを感じていてくれることが、
涼ちゃんにはどこか救いだった。