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目の前には武闘派で知られる族、「緋怒羅(ヒドラ)」のメンバー数十人が、バイクにまたがりながら威嚇するようにエンジンを吹かしていた。
「千葉あーー!!そのスカした金髪を丸刈りにしてネット配信してやるぜー!!」
総長の八坂が吠える。
でけえ声だ。
「てめえをぶっ潰して〝暴王″の称号は俺様がいただきだー!!」
暴王。
俺の通り名だ。
ここらでケンカが一番強い奴に贈られる称号。
ずいぶん御大層な名前で、正直拘りは無い。
欲しい奴がいたらあげたいくらいだ。
だがそれ以上にケンカで負けるのは我慢ならない。
だから勝ち続ける以上、この大層な名前は俺について回るわけだ。
「やる気満々だな。どーする?祐」
昌(アキラ)がやれやれといった感じで聞く。
宮路昌。
中学から一緒で、このメンバーでは一番付き合いが長い。
紫リーゼントパーマがトレードマークの寡黙にして屈強な男。
「俺が八坂と後ろの連中やるわ」
俺が答えると正美がため息交じりに言った。
「じゃあ俺らは雑魚狩りか」
国広正美。
黒髪を逆立てたイケメン。
かなりの遊び人で軟派だがキレると手が付けられない。
「おーっと!雑魚狩りも大事な仕事だぜ!地道なレベルアップは必要」
清助がガッツポーズをしながら言う。
高浜清助。
黒髪オールバックに髭を生やしたメンバーのムードメーカー的存在。
少々うるさくてお調子者だがケンカの腕はたしかだ。
「なんのゲームだよ」
正美のツッコミで全員が笑った。
「なに笑ってんだ!てめーら!!」
キレる八坂。
「ぶち殺せー!!」
「おおーっ!!」
八坂の号令で鉄パイプを振りかざした数十人が怒声とともに押し寄せる。
「行くぜ」
俺達はそれぞれパッとバラけて突っ込んだ。
俺の真正面に八坂がいる。
「死ねやー!千葉ー!!」
八坂が鉄パイプを振り上げる。
しかし振り下ろすより俺のダッシュの方が早かった。
ガシッ!!
懐に入り、振り下ろしかけた鉄パイプをつかむ。
「ああっ!!」
驚く八坂の顎めがけて、思い切りスイングしたパンチを叩きこんだ。
グシャアッ!!
「うわー!八坂さん!!」
「八坂さん!!」
周りの手下が叫ぶ中、八坂はバック宙が失敗したみたいに空中で半回転して頭から地面に落ちた。
「てめえー!!」
「やりやがったな!!」
手下連中が俺に殺到してきた。
手足の届く範囲の奴らから見境なくぶっ飛ばす。
全員叩きのめすのに5分もかからなかった。
「終わったか?」
「ああ。なんとかな」
「けっこう気合入ってたな」
「こっちもばっちり終了―!!」
まともに立ってるのは俺達だけだった。
「それじゃあ行くか」
俺が言うと全員バイクにまたがった。
俺も愛車のシャドウクラッシックにまたがるとエンジンをかけた。
俺達はバイクを走らせて大きな公園の横にある空き地に集まった。
いつもここに来る。
お気に入りの場所ってやつだ。
空き地と言っても芝生がきれいに刈られていて、手入れも行きどどいている。
市の土地とかなんとか聞いたが、細かいことは知らない。
「そろそろ花火の時期じゃん?」
「コンビニで買ってくるか?」
「まだ売ってねーよ」
みんなの会話を聞きながらタバコを吸っていると、道路を挟んだ向かい、何件か並ぶ建売住宅の前に車が一台停まった。
細身でスラッとした男と、少しそれより低い男が出てきてトランクから荷物を取り出す。
「どうした祐?」
「あれ」
「あ~引っ越しか」
「こんな時間にか?」
「夜型なんじゃねえの」
俺は引っ越しとかは昼間だろうと思ってたが、人それぞれ事情があるか。
後部ドアからもう一人降りてきた。
「うわっ…綺麗」
「すげえ」
俺も一瞬、吸い寄せられたように見入った。
降りてきたのは女、俺達と変わらない年格好の女だった。
肌は雪のように白く、黒く長い艶やかな髪、猫のような目に、唇は血のように赤い。
俺は降りてきた女を見て、なにか胸の奥がざわつくような感じがした。
「だれだれ?だれ?」
「知るかよ」
一緒にいる男二人も街頭や車のライトで、その容姿が見えた。
若い男の方は俺達より少し年上に見えた。
くせっ毛のミディアムで、色白で美形というのは女と一緒だ。
兄妹?あんま似てねえな。
そして父親、長身でスラッとした痩せ型。
黒い髪を上げていて、知的というか品がある。
これも同じく美形で色白。
「すげえ…美形家族」
「だな」
女がドアを押さえていて、男二人が荷物を運び込む。
大きなキャリーバッグが三つ。
運び終わったときに女がこちらに顔を向けた。
風がヒューっと吹き、女の黒髪が顔を隠すようになびいた。
手を振る玉木には無反応で女がドアを閉める。
「無視されてやんの」
「うるせえ」
「それにしても荷物が少ない引っ越しだな」
「昼間に運んだんじゃね?」
「ああ、それだな」
しばらくして二階の部屋に灯が点いた。
俺達もお開きになった。
それにしても……
さっきこちらを向いた女の顔が妙に頭に残ったな。
寂しそうな、悲しそうな、儚げな、なんともいえない表情だった。
そして胸がざわつくような感じ。
あの家族を見たとき、なにか言い様のない違和感を抱いた。