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『またね』と短い会話を交わして喫茶店の前で水沢さんと別れた。
縫うように人の間をすり抜けて閑散とした路地裏に入った。建物によって日差しを遮られ、薄暗く湿った場所。
予想通り近づいてくる足音に口元が緩む。
「どういうつもりだ」
「今日は怖いね、武蔵」
振り返るとそこには珍しく真剣な表情の武蔵と、明らかに不機嫌そうな潤が立っていた。
まるで昔みたいだ。子どもの頃の潤はいつもしかめっ面だった。実里の件があってから人が変わったみたいになったけれど。
「あれ、もう一人いたと思ったんだけどな」
「……アイツなら向こうに行った」
意外だな。この中なら真っ先に行くのは潤かと思っていた。潤は特に僕から水沢さんを奪いたいだろうに。願いを叶えたいんだから。
少なからず僕が自分の家を壊したって思っているから、僕のことを嫌がっている。
そう思う気持ちもわからなくもない。僕が――僕の父が原因なんだから。
実里にあんなことをしたのは、紛れもなく僕の父だ。あの事件の直後潤の家は大変だったって聞いている。
「どうせなにか彼女に言ったんだろ」
武蔵の言葉に、思わず苦笑してしまう。
「そう思うなら、なんで水沢さんのところに一人だけ行かせたの?」
海の紅月くらげさん