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「真奈美さん、忙しそうですね……キッチンにお願いがあって行こうかと思ったところだったのですが……」
書斎から出て来たのはご主人様でなく篤久様で、私の後ろから声が掛かる。
「御用でしたら伺っていきます」
「それは?」
「あぁ……遥香様の…です。ランドリーへ行ってから、すぐにキッチンへ戻ります」
「池田が来ていただろ?それでシーツをわざわざ真奈美さんに変えさせた?」
そういうことなのですが……人に言うのも気持ち悪いし、聞くのも気持ちのいいものでないよね。
「池田様をご存知ですか?」
知っているに決まっているけれど、篤久様が池田にどういう印象を持っているか、出来れば聞きたい。
私はここで偶然池田と会ったので、池田がどんな人間かを知らないから。
前回と今日の感じじゃ、遥香とお似合いの感じだけれどね。
「知っている。それ、先に持って行って」
やっぱり気持ち悪いよね。
「はい」
「それから、冷たいアイスティーを4つ用意出来ますか?先に2つを書斎へ、残り2つは俺の部屋にお願いします。叔父も一緒に食事をするので、少し多めに食事の用意をして欲しい。きちんと一人分が増やせなくてもいいので、つまみながら飲めるように用意を」
それをキッチンで言いたかったのね。
今日は、中園篤志社長、篤久副社長、それから篤志社長の弟の三人が、地下と書斎を行ったり来たりしているからだね。
「承知いたしました。アイスティーは、4つですか?」
「そう」
誰か他にも来ているのかもしれない。
「ちょっと池田に、あまり勝手を言うなと伝えてくる」
「ああぁぁ……っと、それは……ですね、またいつか……って感じでいいかと」
遥香の部屋に向かおうとする篤久様を慌てて止めた私は、どうして?という風に見つめられて、ドキッとした……気がする。
気のせいだけど……
「今ですね……あの……お二人ご一緒にシャワー室をお使いなので……行かない方が……」
「……そこで、この作業をさせた?」
「大丈夫です…!たった2分で完了ですから。少々お待ちくださいね」
ダメだ……篤久様はいい人だと思うけれど、私のやりたいペースが狂いそうで厄介だよ。
私は急いでシーツをランドリー室へ放り込むと、手を……半袖ワンピースから出た腕まで全部きれいに洗ってキッチンへ戻る。
そして、広瀬さんに食事を増やすことを伝えてから、一晩かけて水出しした紅茶をグラスに入れ、ストローやシロップなどを揃えて二階へ上がる。
書斎のドアは開いたままだったので、廊下から
「失礼します。アイスティーをお持ちしました」
と声を掛けると
「ありがとう、どうぞ入ってください」
ご主人様が私を手招きした。
「夕食のこと、無理を言って申し訳ないですね」
「いえ、今からでしたら大丈夫ですので」
「平日の昼に人と会って外食になることがほとんどだからね、ここで冷奴を食べる必要のある年齢なんだよ、私たち兄弟は」
「そう、そういうのが一番落ち着く」
違うタイプではあるけど、二人ともメガネを掛けた顔をこちらに向けて微笑んでおられるので
「お豆腐ありますから、土生姜をたっぷりとすりおろしてお出ししますね」
と書斎を出た。
おにぎりランチじゃなく、お仕事を兼ねた豪華ランチが多いってことだね。
だから、中園父子は21時頃の帰宅でも外食して来ないのかな。
コンコンコン……
「真奈美です、失礼します」
「どうぞ」
篤久様の声がして、ドアを開けてワゴンを押すけど、部屋には篤久様しかいない。
「ここ、座って。池田のこと聞いていただろ?」
「え……もしかして……これって、私のアイスティーですか?」
「そう。5分くらい座れば?いつも、動き過ぎに見える」
コメント
9件
とりあえず今日は篤久さんの好意を受け取って次の作戦に生かして行ったら?悪い人では無さそうだけど
うんうん!私も篤人様は池田に嫌悪感しかないと思う。とくにあれの婚約者だからね。ただのヒモ男かしら? とにかく今は篤久様から目が離せない!それにしても…優しいのよね、無表情のクールイケメン…
篤久さんも池田をよく思っていなそうだね。池田が遥香がいない隙に真奈美ちゃんにちょっかい出してきそうで怖い💦