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おまる
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「……わ、私…っ、高瀬君が心配してくれてたのに…ぜんぶ、無視して…なのに、なんで……」
言葉とは裏腹に、私の身体は素直だった。
彼の腕の中であたたまる体温が心地よくて、離れたくないと叫んでいる。
「関係ないです。そんなの」
「でも、凛さんがあんなに苦しんでいたって知ってたら……俺だって、何かできたかもしれないのに」
「そ、その優しさが苦しいの…っ」
「もしかして、俺が男だから…信用できませんでしたか……?」
彼の声は低く掠れていて、どこか悔しさを滲ませていた。
私は彼の肩口に顔を埋めながら首を振る。
「……違う、迷惑かけたくなかっただけで。…っ、勝手でごめんなさい」
「凛さん…って、不器用ですよね」
彼は苦笑しながら言った。
「俺が今、どれだけ嬉しいか、わかんないでしょ。凛さんが全部曝け出して、こうやって泣いてくれること……俺じゃなきゃ駄目だって言ってくれたのと同じなんですからね」
私は驚いて顔を上げる。
高瀬君の瞳は真剣だった。
冗談など一つもない。
「とりあえず…話戻しますけど。帰っていいって言われても凛さん…今俺の服ずっと掴んでますし…」
彼は小さく笑って自分のシャツを見せた。
確かに、無意識に彼のシャツの裾を握り締めていたことに気づいて、恥ずかしさで頬が熱くなる。
「こ、これは……っ」
「俺が帰りたくないです。こんな状態の凛さんのこと放っておけないですし、家だって特定されてる可能性あるじゃないですか」
淡々とした口調で語られる恐怖。
「な、なんでいちいちそういう怖いこと言うのよ…さらに離せなくなるじゃない」
私はゾクリとして、無意識に高瀬君にしがみついていた。
「…あっすみません!でも今夜は俺がここにいます。俺がいる間は、絶対に凛さんに指一本触れさせないって約束しますから」
「そ、それって…一緒に寝るってこと……?」
「え、床で寝ようかと…」
「か、風邪ひくし背中痛くなるでしょ!」
「…じゃあ適当に布団借りてもいいすか?」
「う、うん」
「俺、凛さんが眠るまで起きてますから!」
それはまるで、騎士の誓いのように力強い言葉だった。
私の心を縛り付けていた不安の鎖が、音を立てて外れていく。
「……あ、ありがとう…っ」
涙と一緒に零れたのは、ほんの小さな呟き。
それでも高瀬君は聞き取ってくれたようで、嬉しそうに微笑んだ。
彼の指がそっと髪を梳く。
優しい温もりが、私の全身に広がっていく。
今夜はもう何も考えなくていい。
高瀬君の側にいれば、きっと悪夢も遠ざかるだろう。
その確信が、疲れ切った私を深い眠りへと導いていった。