さのじん
距離感、というものは大切だ。
自分も相手も居心地のいい距離感。
そしてその距離は親密度によって変わってくる、と、思う。
対太智。
言わずもがな近い。寮で培った関係性もあるだろうけど、もはや近すぎてちょっとは離れろよって思うくらい。
対柔太朗。
いい意味でフラット。近すぎず遠すぎず、はたから見ているとなんだかんだ1番自然体でいるような気がする。
対舜太。
べたべたしてるわけじゃないけど、たまに甘えられてまんざらでもなさそうだし、マジで血を分けてるんじゃねえかって感じの兄弟感。
そして一方、対俺はというと。
「勇斗?」
打ち合わせを終え、楽屋に入って相方の背に声を掛ける。
けど、返事は返ってこない。
勇斗は台本に目を通していて、イヤホンをしているようで俺の声は聞こえていないみたいだ。
ふうと息をついて、よしと気合いを入れ、畳スペースで座り込んだ勇斗の背後まで近寄り、その肩に手をかける。
「勇斗、」
「うぉ!?」
掛けた手は瞬く間に振り払われて、オーバーに体をのけ反らせ、びっくりした顔の勇斗と目が合う。
「なに?」
「…いや、もうそろリハ時間だって」
「あ、そ?悪りぃ、気付かんかった。ありがと仁人」
そう言いながら、勇斗は気まずそうに視線を泳がせる。
…ほら、こんな感じ。
対俺に関しては、いつもそう。
こっちから触ったり近くに寄ったりすると、必要以上にオーバーに反応してるように感じる。
まるで、俺に近寄られたくないし、早くどっか行って欲しいみたいな。
…昔はさ。
昔は違ったのに。
いつからだっけ、お前がそんな反応するようになったの。それから、
それがこんなに気になるようになったのも。
静かに勇斗の前に膝をつき、イヤホンを外しながら何事だと身構える勇斗に声をかける。
「…あのさぁ、」
「ん?」
「なんで俺にだけそんなんなの、お前。」
「…そんなん?って…どんなん?」
「距離とんじゃん、対俺にだけ」
「たいおれ?」
言われた意味が分かってないようで、きょとんと首を傾げる勇斗。
「なんか、避けんじゃん。勇斗って俺のこと」
「はぁ?別に避けてな、」
「…それさぁ、なんか、結構傷つくんだけど。」
傷つく。
そっか、俺傷ついてたんだなぁ。
自分の気持ちにいまさらながら気付いて、思わず俯く。
そしたら頭の上ではぁーとため息が聞こえて、次の瞬間大きな手にわしゃわしゃと頭を撫でられた。
「う、え?」
「…なんつー顔してんだよ。別にマジで避けてねぇって」
「じゃあ、なんで」
「…前にどっかで話したんだけどさ、仁人だけ違うんよなぁ」
「…おれだけ…」
やっぱり。じわりとなんでだか涙が滲みそうになる。
そんな俺の顔を見て、勇斗は慌てて両手をぶんぶんと振った。
「あ!?あー!あー!あー!悪い意味じゃなくて!悪い意味じゃなくてよ?!」
「じゃあ、どんな」
「は、えぇ〜…?」
勇斗はなんとも言えない顔をしながら、しぶしぶ口を開く。
「なんつーかさぁ、俺と柔は男子校で、太智と舜太は共学っぽくね?で、仁人は女子校。」
「はぁ?」
なんだそれ?
「なんだそれみてぇな顔すんなや。俺だってよくわかんねぇよ。でもそんな感じすんだからしゃーねぇだろ」
「そんな、俺にあたられましても」
「とにかく!最近お前の近くにいると、どうしたらいいか分かんなくなんだよ」
「それって…」
「あ?」
「それってさぁ、勇斗が俺のこと意識してる、ってことになる、け、ど」
言いながらなんつーことほざいてんだよと我に返って、でも勇斗は図星をさされたような何とも言えない顔で不貞腐れていて。
「…そーだよ悪りぃかよ。」
「……なに。勇斗って、俺のことどうしたいわけ?」
「…いまさら、それ聞きますぅ?」
「う…お、おわ!?」
唇を尖らせた勇斗から腕を引かれ、膝立ちの格好だった俺はバランスを崩して、そのまま後ろから勇斗に抱き止められる。
「あ、の…距離感、はいったいどこにいったんでしょうか?」
「知らねぇよお前がヘンな勘違いすっからしょうがねぇだろ」
「しょうがねぇだろってお前、」
「うるせぇ黙ってろ」
だだっ子みたいに言って、ぎゅっと後ろから力を込めて抱きしめてくる勇斗の腕をぽんぽんと叩きながら、笑う。
なるほど、そういうことね。
そういうことならまぁ、悪い気はしないわな。
→メンバー合流後
「おはよぉ〜…って、え”。」
「…は?マ?」
「えぇッ!?なになに、おふたりさん何してんのぉ?なにごと??」
「何事なんでしょうねぇ」
「………。」
「ちょっと待ってちょっと待って!とりあえず何があったかだけ聞かせて欲しいんやけど」
「別に対して何も」
「いや、対して何もなくバックハグはせんのよ」
「それはもう、このひとに聞いてもらわんことには」
「えぇ〜?どしたんはやち〜ん、じんじんに甘えたくなっちゃったのぉ〜??」
「………。」
「はやちゃん?おーい、何でなんも喋らへんの?」
「アレじゃない?俺ら来ちゃって一旦引き際わかんなくなってんじゃない?」
「あ、そうなの?」
「……(こくん)」
「そうなんかい。」
→まずはおめでとう(?)
end.
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