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第六十九話 交わる道
「別々の道を歩いていても、同じ場所にたどり着くことがある。」
六月。
梅雨の季節。
湊の毎日は、少しずつ忙しくなっていた。
写真の撮影を頼まれることも増えた。
まだ大きな仕事ではない。
小さなイベントや、知り合いから頼まれた撮影。
それでも、
誰かに「撮ってほしい」と
言ってもらえることが嬉しかった。
その日も、撮影を終えた湊は写真を整理していた。
何十枚もの写真を一枚ずつ確認していく。
その中に、一枚だけ手が止まった写真があった。
会場の隅で、一人の女の子が笑っている写真。
誰かと話しているわけでもない。
ただ、楽しそうに会場を眺めている。
湊はその写真をしばらく見つめた。
「……こういう瞬間なんだよな。」
人が気づかないような瞬間。
本人さえ忘れてしまうかもしれない時間。
それを残す。
それが自分のやりたいことなのかもしれない。
一方、紬も新しい生活の中で
少しずつ行動範囲を広げていた。
大学で参加している活動の中で、
海外から来た学生と話す機会が増えた。
最初は言葉がうまく出てこないこともあった。
伝えたいことがあるのに、上手く説明できない。
そんなことも何度もあった。
それでも、話してみる。
分からなければ聞く。
相手の話を聞いて、自分のことも話す。
そうやって少しずつ距離が縮まっていく。
ある日の活動終わり。
友達から言われた。
「紬って、人の話聞くの上手だよね。」
「そうかな?」
「うん。相手が話しやすそう。」
その言葉に、紬は少し考えた。
昔は、将来何をしたいのか分からなかった。
海外へ行けば、何か見つかると思っていた。
そして一年間の留学を経験して、
日本に戻ってきた。
そこで気づいたことがある。
世界には、
自分がまだ知らない人や場所がたくさんある。
だからこそ。
人と人をつなぐことがしたい。
そんな気持ちが、少しずつ強くなっていた。
その日の夜。
紬からメッセージが届いた。
『今日ね、ちょっと面白い話を聞いた。』
湊は返信する。
『なに?』
『海外の学生と日本の学生が一緒に参加するイベントがあるんだって。』
『写真とか動画を使って、それぞれの文化を紹介するらしいよ。』
湊の手が止まった。
写真。
文化。
海外。
自分が最近考えていることと、
紬が進もうとしている道。
その二つが、ほんの少しだけ重なった気がした。
『それ、面白そう。』
『でしょ?』
少しして、紬から続けてメッセージが届く。
『湊も写真で参加してみたら?』
湊は画面を見つめた。
「写真で……。」
今まで自分は、写真を撮ることばかり考えていた。
でも、写真を使って何かを伝えることもできる。
誰かの生活。
知らない文化。
そこで暮らす人たち。
写真一枚で、
知らない世界を知るきっかけを作れるかもしれない。
『ちょっと調べてみる。』
そう返信した。
数日後。
湊はイベントの詳細を確認していた。
開催されるのは夏。
参加者が撮影した写真を展示し、
それぞれの国や地域について
紹介する企画もあるらしい。
湊は募集要項を読みながら考える。
自分にできるだろうか。
まだ経験は少ない。
でも——
やってみたい。
その気持ちは、はっきりしていた。
応募フォームを開く。
名前を入力する。
そして、最後に送信ボタンを押した。
「……送った。」
送信完了の画面を見て、湊は小さく息を吐いた。
数日後。
結果のメールが届いた。
湊は緊張しながら開く。
そこには、
「参加をお願いしたいと思います」
という文字があった。
「……よし。」
思わず笑ってしまう。
すぐに紬へ報告する。
『参加することになった。』
既読がつく。
そして——
『やった!』
続けて、
『私も運営側のお手伝いすることになったよ。』
湊は驚いた。
『え?』
『この前話してたイベント。私も参加することになった。』
画面を見たまま、湊は笑う。
別々の場所で、それぞれの道を歩いていた。
写真を続ける湊。
人や文化について学ぶ紬。
それぞれ違う方向を向いていると思っていた。
でも。
その二つの道は、思っていたより近くにあった。
窓の外では、雨が降っている。
湊はカメラを手に取った。
まだ先のことは分からない。
イベントで何を撮るのか。
どんな人と出会うのか。
どんな写真が生まれるのか。
何も決まっていない。
ただ一つ分かっていることがある。
夏。
もう一度、紬と同じ場所に立つ。
今度はただ会うためだけじゃない。
それぞれの夢を持って。
湊は窓の外を撮った。
雨粒がガラスを伝っていく。
——カシャッ。
その一枚は、
まだ見えない夏への最初の一枚になった。
📷 Photo.069「交わる道」
撮影日:6月21日
別々に歩いていた二つの道が、
少しずつ近づいていく。
それは偶然なのか。
それとも、必然なのか。
まだ分からない。
ただ、夏にはまた、
二人で同じ景色を見る。
都築七美
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花月夜れん
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コメント
1件
第六章って書いてあるけど本文は六十九話なんだね、ちょっとだけ混乱した(笑) でも読んでてじんわり温かくなった。 湊が「こういう瞬間なんだよな」って気づく場面と、紬が「人と人をつなぐこと」を意識し始めたところ。別々に歩いてきた二人の道が、写真と文化のイベントでふわっと交わったのが素敵だった。 雨粒を撮るラストのカットも、映像が浮かぶようで好きです。この夏がどうなるか、楽しみだなあ。