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番外編103『蘇るトラウマ』
あくねこマイナス気味のお話です。
私は1年前、天使狩りの最中、百合菜を危険な目に遭わせてしまった。その時は執事達と私で天使を倒して事なきを得たけど…もしまた、あんなことがあったら私は――。
今でも私は夢に見てしまう。
バサッ。バサッ。
『知能、天使…。』
(怖い、身体が、動かない。逃げなきゃ、いけないのに。)
『ふふ、無力だね…麻里衣様は。』
『百合菜――!!』
『やめてっ!!』
私は夜中に目を覚ます。
『はぁ、はぁ……。』
(また、同じ、夢……。)
私は部屋の外に出る。
『この時間…誰か起きて…。』
私はフラフラとした足取りで屋敷を歩く。
と、その時――
『主様?』
『ミヤジ……?ご、ごめんなさい。』
『どうして謝るんだい?』
『物音がして、起きてきたんでしょ?起こして、ごめんなさい…。』
『……。』
主様の目は赤く腫れていた。
『怖い夢でも見たのかい?』
『え、っと、その…』
『……少し2人で話そうか。』
ミヤジは私の手を引く。
ドローイングルーム
ミヤジは私の前に紅茶を置く。
『ありがとう…。』
『主様がこんな時間に起きているなんてびっくりしたよ。』
『ミヤジの言う通り、怖い夢を見たの。
目の前で、百合菜が……天使に襲われる夢…。』
『!』
『あの時はみんなが来て、天使を倒したから良かったけど…もし、また同じようなことが起きて、守れなかったら、私は……っ。』
私は顔を抑えて泣き叫ぶ。
『下級天使だったからまだ良かったものの…もし、あれが知能天使なら…。』
考えただけでも嫌になる。
『また失うことになるのが怖くて、怖くてたまらないの。』
『主様…。』
『もう、あんな目にあの子を……危険な目に遭わせたくない……っ!』
私はミヤジにしがみついて泣いた。
数時間後――。
コンコンッ。
『ミヤジ。主様は大丈夫かい?』
ルカスがドローイングルームに入ってくる。
『泣き疲れたみたいで眠ってしまったよ。』
ミヤジの膝の上に主様は寝ていた。
『あの出来事が主様にトラウマを植え付けたようだな……。』
『…主様にとって百合菜様は大切な存在だ。そして、私達にとっても主様達は大切な存在だ。この命に替えても――護りたい。』
『あぁ。もうあんなこと起こさない。主様の為にも。そして、2人の笑顔の為にも。』
その日の午後――。
ヴーヴー
『天使の警報……。』
私は武器を手にする。
『エスポワールへ急ぎましょう。』
『はい、主様。』
『お姉ちゃん、私も……。』
『っ…。』
私はナックに目線を送る。
#ベリアン・クライアン
ぷち
276
『……。』
こくんっと頷く。
『主様は私たちと屋敷で待っていましょう。』
『でも…。』
ごめんね。百合菜。私は、もう貴方を危険な目に遭わせたくないの。
半ば強引に、百合菜を言い聞かせ私達はエスポワールへ急いだ。
ザシュッ!カキンッ!カキンッ!
『主様、無理をなさらずに!』
『分かってるわ!』
でも、怒りが、抑えられない。あの夢が…
脳内にこびりついて――!
『無力だね。麻里衣様は。』
『っ……!』
下級天使の顔がセラフィムと重なる。
『あぁ、ああああああっ!!』
グサッ!!
『しに、なさ、いのちの……っ。』
『『!!』』
主様が下級天使を滅多刺しにする。
『消えてしまえばいい。あの子に危険を及ぼす存在なんて、全部。全部!!』
『まずい、主様が――!』
一方その頃――
『お姉ちゃん、みんな…大丈夫かな…』
『今回天使狩りに行ったのはハウレスさんとボスキさん、ルカスさんです。それに主様もいます。必ず無事に帰ってきますよ。』
『お姉ちゃんはどうして私を連れていかなかったのかな。』
『!それは……。主様を…』
『っ、ラムリ…!』
『っ…』
『何か知ってるんだね?2人とも。』
『『……っ。』』
『主様の為です。』
『『ベリアンさん…。』』
エントランスの扉の前で座り込んでいた時、
階段からベリアンさんが降りてくる。
『私のためって、どういうこと?お姉ちゃんは何を隠してるの?』
『それは――。』
『っ、はぁ、はぁ……っ。消してやるわ。全部、全部……。』
『主様!もうおやめ下さい!これ以上無理なさるとお身体が…!』
『離しなさいルカス!私は、もう嫌なの!自分が弱いせいでまた同じようなことが起きて…守れなかったら…!』
(完全に我を失ってやがる、俺達じゃ止められない。どうすれば――。)
と、その時――
『お姉ちゃん――!!』
『『『……!!』』』
百合菜が遠くから走ってくる。
ギュッ。
『百合菜…?』
カランカラン…力が抜けて武器を地面に落とす。
『どうして、ここに…?』
『全部、聞いたから。』
『え…?』
数分前――
『1年前に私が天使に襲われそうになったこと…まだお姉ちゃんは気にしてたの…?だから、私のことを気にかけて…?』
『はい。ですから今回主様を天使狩りには連れていかず、主様だけ……』
『……お姉ちゃんはいつもそうなんだから。』
私はエントランスの扉を開ける。
『!主様!どちらへ!』
『決まってる。お姉ちゃんのところ!』
『で、ですが…』
『お姉ちゃんは私の為に一人でみんなと天使狩りに行った。私を危険な目に遭わせない為に。お姉ちゃんは私の為に戦いに行ってくれたのに。私だけ安全な場所で待ってるなんて出来ない!それに――』
私は3人に向き直る。
『離れたところでお姉ちゃんが居なくなったらなんて考えただけで私は嫌なの。』
私はエスポワールまで走る。
『はぁ、はぁ、主様…』
『ナックくん、ラムリくん…』
『申し訳ございません…口止めされていたのに…』
『いいや、いいんだよ。結果的に…』
私は2人を見つめる。
『お姉ちゃんはいつもそうなんだから。私の為に命を張って…』
『それは、私にとって貴方は大切な……』
『そんなの私だって同じだもん!私達双子なんだよ…?世界に一人しかいない私の大好きなお姉ちゃん…失ったら嫌なんて、私も同じだよ!』
『百合菜……っ。』
『お姉ちゃんだけにそんな思いさせない。私だって強くなる。お姉ちゃんを…守れるようにね。』
私の胸にあった不安も…頭の中にいた苦しみも、痛みも全てが浄化されるような心地になる。これは…愛だ。温もりという…愛の証。
あぁ、なんて、心地いい……。
ガクンッ。
『わっ、お姉ちゃん!大丈夫!?』
『気を失ってるだけのようですね…。主様は限界まで戦っていましたから。』
『我を失って天使を壊してたからな。ラトみたいに。』
『お姉ちゃん…。』
ルカスがお姉ちゃんを抱っこする。
『全く。私達執事の存在意義を忘れてしまうなんて。』
『ルカス…?』
『本当に頼ることを頼ることを知らない方ですね。』
『帰るか、主様。』
『ボスキ…。うん、帰ろっか。』
次の日――
『ん…あれ、私…』
ぎゅ。
(ん?なんか、手が…。)
左手を百合菜が握っていた。
『百合菜…。もしかして、ずっと…』
『すぅ、すぅ……』
『…クスッ。ありがとう。百合菜。』
私は、貴方がいるだけで強くなれるわ。
あんな悪夢ももう見る必要はない。
もう怖くないわ。私には貴方がいて、貴方にも私がいる。お互いが強くなってお互いを守ればいい。
『そうよね、百合菜。』
百合菜の頭を撫でる。
『むにゃ…お姉ちゃん…だいすき…』
『…!えぇ、私も。』
百合菜のおでこにそっとキスを落とす。
と、その時――
ガタンッ。
『!』
『あちゃ……見つかったか。』
『っ!みんな、いつから…』
『いや覗き見するつもりは……』
『そうそう。俺達は看病しにきたんだぜ?』
『ふふ、ご主人サマも可愛いところあるね。』
『っー!!』
ぼふっ!
私はクッションを投げつける。
『おっと。』
『早く出ていきなさいよ!このバカー!』
『あはは、照れた顔も可愛いよ。』
『きー!!』
めでたしめでたし…♡♡
コメント
1件
ああ、この話…泣けました🥀 麻里衣様のトラウマの重さと、それでも百合菜が「私だってお姉ちゃんを守る」って駆け寄るシーン、本当に心が震えました。 「失うのが怖い」って気持ち、痛いほど伝わってきて…でも最後に百合菜が手を握って寝てる姿で全部報われる感じがして、じんわり温かくなりました。 双子の絆、尊すぎます🤍