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Sara
220
シャルル ▹▸ kyus
※曲パロ(シャルル ▹▸ バルーン様より
※微🔞(キスのみ
※1万文字⬆
“ 笑いあってさよなら “
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……さよなら」
それは、貴方から言った。頬を濡らす俺を置いて、俺の目の前から消えようとした。
「……待って、うっし…ー_」
自分の呼び止める声だけが、やけに遠かった。
彼の声だけが、俺の耳に張り付いて剥がれない。
「じゃあ、撮り終わったなら切るわ」
「はいはーい。」
「またね〜」
「…ばいばーい」
今日は、4人実況の収録日。定期的に撮るようになって、俺は耐え切れるのかと思っていたがそこまで負担はなく、思っていたよりは平気だった。
……いや、平気だと思い込んでいるだけかもしれない。
「……外にでも、出ようかな」
続けられているとはいえ、あの日から、もう何ヶ月経っただろう。きっとどこかしら溜まっているものはあるのだと思う。だから、気分で外に出たり家に籠って好きなことをしたりと心を安らげている。もうほぼ4人実況の撮った日の日課なようなものだ。
外に出て数分。ギラギラと照らす太陽が暑くてたまらない。だけれど、風は優しく涼しい。風があるからこそ、俺は今の時間が好きなのだと思う。溜まっているものが風に流されるような気がするから。
「……気がするだけ、だけど」
何となく、気が向いて街を見下ろした。夜でもなく、昼間でもない。夕焼けに近い空と住宅街が風景として目に映る。その風景の中に、俺も溶けてしまえたら。と何故か、そんなことを思った。
「…」
そんなものは理想に過ぎなくて、ただ頭の中に置き去っていくことしか出来ない。
…まぁいいか、
いつしか空っぽになってしまった自分を見て見ぬふりをしていることには、もう気付いている。そうでもしないと、前を向けないから。
――それでいつか、彼ではない誰かで満たされる日が来るのだろうか。
そんなことを考えてしまう、そんな自分が嫌だ。
風が吹く。
俺の髪を攫って、何事もなかったように過ぎていく。
「…愛だなんて、くだらない」
なら、どうしてまだ…彼の_
俺は、どこまで行けば素直になれるのだろうか。
帰りは歩きじゃなくてバスにでも乗って帰ろうと思った。案外近くにバス停はあって、特に調べずに乗ってみてもいいなと思って自分の気の向くままに色々なバスに乗った。
金の無駄とかは、別にいいかな。
「……」
流れていく見慣れない風景を眺めながら、思うことをそのまま考える。
この世界には色んな人がいて、沢山の人がいる。
――なのに、それなのに
俺は諦めきれずにただ1人しかいない貴方を探してしまう。
そんな自分が、空の雲のように未だ消えてくれず濁っているように感じて嫌になる。
乗り換えを何度もして、ようやく見慣れた風景になったことに気付きバスを降りた。降りた場所は、
何度も歩いた道だった。
「……は、」
どうして。
無意識に、足がここを選んだのだろう。すぐに頭が真っ白になる。
「っ……」
見つかってしまえば、俺はどうなる?
また、期待をしてしまうんじゃないか、?
そんなことを考えているくせに、彼に会いたいと思う自分までいて頭を抱える。
自分の気持ちが分からない。
俺はどうしたい?
俺は逃げたいのか?
俺は、会いに行きたいのか、?
通り過ぎる赤色に、反射みたいに目が向く。
違う。
分かっていたのに、胸の奥だけが勝手に期待してしまう。
「……ばかみてぇ、」
また隣に、彼に似た髪色をした人が通る。それでも、身長や体型から違うことがわかる。
そりゃそうだ。家の近くに来たからと言って本当に会えるわけじゃ_
「……う、っ_」
その、聞き馴染んでしまった声が聞こえて一瞬、呼吸が止まる。
「うっしー、?」
「……きよ、」
最悪だ。
何ヶ月も見てこなかった彼の顔を見て、胸の奥がぐちゃぐちゃになる。
嬉しい。
会いたかった。
——でも、逃げたい。
また期待してしまいそうで。
嫌いになれなかった自分が、情けなくて。
色んな感情が混ざり合って、もう何色なのかも分からない。
「……最近どう、?」
「あぁ……うん、」
「…さっきまで、飯食っててさ」
「…そっか、」
「……最近、ちゃんと寝れてる?」
「…ぁ…うん…」
頭に内容が入らず曖昧な相打ちしか打てない。彼の顔も見れず、どんな感情を持ってるのか分からない。
「……何しにここ来たの?」
「え、っ……ぁ、〜…買い物、かな……」
「あ、そっか……なら引き止めてごめん」
「ぁ…ぇっと、大丈夫…」
「……バイバイ」
「…うん、」
彼もまた、何かを押し殺したような表情で笑った。ほんの少しだけ、笑いあって。それから、彼は反対方向へ歩いていく。足が、動かない。ただ歩いていく彼を見つめてしまう。
帰りたい。
もうこれ以上、苦しくなりたくない。
——でも。
呼び止めてほしい。
行かないでほしい。
また、一人にしないでほしい。
そんな自分が、酷く情けなかった。
「……バイバイ」
そう言って彼に背を向けた。互いに歩き出していた足音が遠ざかる。
——振り返るな。
振り返ったら終わる。
そう思ったのに、数歩進んだところで結局足が止まった。
「……はぁ」
息が、うまく吸えない。ただ重たい息だけが零れる。
なんであんな顔してんだよ。
忘れようとしてたじゃん。
ちゃんと、前も向こうとしてたじゃん。
なのに、
久しぶりに見た彼は、思っていたよりずっと痩せた気がして。
笑ってるくせに、全然笑顔って思えないくらい笑えてなくて。
『……最近、ちゃんと寝れてる?』
なんて、聞きたかったのはそんなことじゃない。
——会いたかった。
——今でも好きだよ。
——戻りたい。
そんなこと、言えるわけないのに。ポケットの中でスマホを強く握る。
『今から会えない?』
そんな、言って困らせる様な言葉を打ってすぐに消した。
「……俺も、何してんだよ」
外に出ると、小雨が降っていた。
家に着いて、何も考えずにソファになだれ込む。
最近、あの時の光景を夢に見るようになった。なんでかは分からない。時には、本当にあった過去の出来事がそのまま夢になって出たり、俺が引き止めて今でも幸せに2人で居る夢だったり。それでも、よく見るのは現実の出来事で、その時見える夢はいつも違う。今日の夢は、俺がしっかりと1番頭に残っている風景。
寝ぼけ眼に映る、彼はとても言葉では表せないほど辛く、苦しい顔をしていた。俺には、それしか覚えていない。
伸ばしかけた手が、止まった。
『引き止めたら、もっと苦しくなるかもしれない』
そんな言い訳をして、結局俺は何もしなかった。
ただ、目を閉じた。
彼が居なくなる音を、聞かないふりして。
なんで、俺はあの時腕を掴めなかったんだろう。なんで、そのまま目を閉じてしまったのだろう。
そんな後悔が、何ヶ月経っても泥のようにべとりと心を包んでいる。
「……これが、本当の痛みなら_」
「__俺はどうすればいいの、?」
そんな問いは、彼にも、誰にも届くわけがなかった。
それから、家に帰っても生きてる心地がしなかった。どうやって今ベッドの上に沈んでいるのか、なんでもうこんな時間なのか。それすら分からない。
「…う゛〜、」
なんで、あの時引き止めれなかったのか。呼び止めればよかった。たった一言だったのに。
『待って』
その言葉が、どうしても出てこなかった。
手元にあった携帯の電源をつけて、連絡ツールを開く。そして、そのまま何も考えず彼との画面を開いてしまう。
連絡が来てないことくらい、わかるのに。
こんなにも心が丸見えなら、なんで自分から離れてしまったのだろう。
そんな後悔が渦のように心に残り、指先に残る熱が妙に熱いように感じた。
「……」
開いたままの画面。最後のやり取りなんて、何ヶ月も前の彼の長い連絡で終わってる。またもや無意識に入力欄を押してしまう。
『久しぶり』
違う。さっき会ったばかりじゃないか。
『今日は、ごめん』
……違う、
『会えて嬉しかったよ』
そんなの、遅れるわけがない。
「……っ、」
結局、文字を打っては消してを繰り返して。気付けば、画面だけが虚しく光っていた。指では数えきれないほど話したいことがあるのに。実際に顔を見たら、何一つ言えなかった。
『待って』
その一言すら声に出せなかった。
「……くそ、」
ベッドへ沈むように目を閉じる。なのに、頭に浮かんで来るのは。
「……最近、ちゃんと寝れてる?」
あの声だった。
どうして、そんな風に聞くの。
どうして、まだ優しいの。
優しくされたら。
——まだ、期待してしまう。
また、元に戻れるなんていう叶うはずのない期待を。
何週間かした頃、また4人実況の収録日。特に予定もなく早めに通話に入っておこうとディスコードに入る。約束の時間より1時間も早いのだから一番乗りで、ただなんの音も無い時間が過ぎる。1人だと分かっているからなのか、溜まっているものが口から零れていく。
「……もっと話したかったな……」
「なんで、今更……」
「もう戻れねぇのに……」
「……忘れてーのに忘れらんねぇ……」
カーテンの隙間から振る太陽に照らされながら、溜息が次々と出ていく。
今日だって、2人の思い出が消えていくのに。
「……そうでしょ、?」
入室音がヘッドホンを通して耳に通る。
「……俺なんか、忘れるんでしょ、」
反応が遅れて、本音が零れてしまった。俺の次に入室してきたのは、彼だった。気まづくなったのか、数秒静かな時間が流れる。
「……や、ほ」
せめて、彼でなければいいのに。
——なんて。
本当は、少しだけ嬉しかった。
それでも、聞き慣れた声なのに、どうしてこんなにも遠く感じるのだろう。
「……ぉ、おはよ」
声がうまく出ない。
沈黙が、痛い。
いつもなら誰かが入るまで適当に話して、笑って、どうでもいい話をしていたはずなのに。
今は何を言えばいいのかも分からなかった。
「……今日、早いね」
「ぁ……まぁ、予定なかったし」
「そっか」
また、沈黙。
気まずい。
逃げたい。
なのに、切断ボタンを押す指が動かない。
「……」
「……」
「……あのさ」
「……なに、?」
「……さっきの」
心臓が、嫌な音を立てる。頭に響いて、耳を塞いでしまいたい。
「聞こえちゃった」
「っ、……」
終わった。
忘れてほしかった。
聞かなかったことにしてほしかった。
こんな未練がましいところ、知られたくなかった。
それでも、そんな願望は叶ってくれるはずがない。
「……ごめ」
反射みたいに口から出た謝罪。何に対してなのか、自分でも分からない。
すると少し間が空いて、疑問の声が飛ぶ。
「……なんで謝んの?」
思っていたより、ずっと優しい声だった。
「だ、だって…気分悪く_」
「ただの偶然でしょ?聞いちゃったのは仕方ないけど…大丈夫だよ」
優しい声だった。
だからこそ、苦しくなる。
あぁ、まただ。
そうやって、何も言わずに飲み込むんだ。
本当は、何か言いたそうなのに。
——また、あの時みたいに。
黙ったまま、終わるのだろうか。
……終わらせたのは俺なのに。
そんな考えが、じわりと胸の奥を濁していく。
「やほ〜」
「あ、ガッチさん」
「2人していつもより早いな〜、どしたの〜?」
「予定なかっただけだよ。俺、トイレ行ってくる」
「うん、行ってきな〜」
マイクをオフにし、立ち上がった瞬間少しだけ呼吸が浅くなる。
なんで、逃げたんだろう。
——いや、違う。
逃げないと、無理だったんだ。
洗面所の電気を付ける。白くて、妙に明るい光が目に痛い。
「……っ、」
冷たい水を掬って顔に当てる。心臓が、うるさい。
たった数分話しただけ。
それだけなのに。
どうして、こんなに苦しい。
「……何期待してんだよ」
まだ優しかったから?
あんな風に話しかけてくれたから?
もう戻れないと分かっているくせに。
——期待したら、駄目なのに。
鏡に映る自分の顔が、自分でも思う程酷いと思った。
「……はは、」
情けない。
何ヶ月も経って、
もう平気だと思って。
それなのに、2人きりで声を聞いただけでこれだ。
「……忘れらんねぇよ」
ぽつりと落ちた本音に、自分で息が詰まる。
その時。
いつの間にか持ってきていた携帯が、小さく震えた。その後に通知の音が洗面所に響く。画面に映った名前を見て、呼吸が止まる。
キヨ
『無理なら、少し休んでてもいいよ』
——どうして。
どうして、
まだそんなに優しいの?
優しくされる度に、
「……戻りたい」
そんな言葉が、喉まで出てきてしまうのに。
『ごめん』
『すぐ戻る』
それだけを返して、携帯の画面を伏せる。冷たい壁へ背中を預けると、ゆっくり息を吐いた。
……あと少し。
あと少しだけ、ちゃんと笑え。
瞳から落ちていく、水滴を無視しながら俺は部屋に戻った。
「…ぁ、何…レトルト来たの?」
「うっしー最後〜」
「あ、違うよレトさん。うっしーが一番乗りだったんだってさ」
「嘘!誰からの情報だ!」
「俺だよ。俺が来た時にはもううっしー居たの」
「えぇ〜俺最後なのぉ〜……?」
「レトさん遅すぎ」
「いやお前らが早すぎんの!」
いつも通りだった。
どうでもいいことで笑って、適当に話して。少ししたら収録が始まって、誰かがボケて、誰かが笑う。
「うわ、何してんのキヨ!」
「いやお前が邪魔したんだろ!」
「いやいやうっしーも大概だろ〜」
「俺!?なんで!?」
笑い声が、耳に響く。
いつもと変わらない、ただの日常。
ただ変わったのは、俺だけみたいだった。
何も変わっていないはずなのに。
前みたいに、すぐ隣で笑ってるはずなのに。
こんなにも、遠く感じるのはなんでなんだろう。
「……」
「あ、それちょうだい!」
「えー、取りに来てよ」
「えぇ〜」
「そう言いながら取りに来るな!」
ふと、キヨの声が耳に入る。
さっきまで優しかった声。
何事もなかったように笑っている声。
「うっしー、それ使うから欲しいかも」
「あ?あぁ……はい」
「ありがと」
——俺だけなのだろうか。
まだ、あの日を引きずっているのは。
まだ、戻りたいなんて思っているのは。
別れを選んだのは、自分なのに。
「……勝手に、不幸ぶってるだけか」
ぽつりと零れた言葉は、小さく、ただ息が漏れただけで誰にも届かない。
苦しいのも。
寂しいのも。
全部、自分で選んだことだ。
あいつはもう、前を向いているかもしれないのに。忘れられない俺が、勝手に苦しんでいるだけなのに。
「……うっしー?」
不意に名前を呼ばれて、肩が跳ねた。
「え、」
「さっきから静かじゃね?大丈夫?」
——あぁ。
どうして。
どうして、
またそんな風に心配するの?
「大丈夫だよ」
「え、何?迷子になったとか?」
「だぁいじょぶだって!迷子になんかなってませーん」
俺はただ、強がることしか出来ない。
――それしかできないんだ。
それからの収録は、あっという間だった。
笑って、騒いで。 ちゃんと、いつも通りを演じきった。
「お疲れ〜」
「また次な〜」
「レトさん最後まで迷子だったね」
「いやあれはマップが悪い!」
笑い声に、いつもの空気。それが時間がすぎる度に少しずつ遠ざかっていく。
「じゃ、俺飯だから抜けるわ〜」
「俺も〜、お疲れ〜」
一人、また一人と通話から名前が消えていく。静かな時間が、ただただ流れる。そして、気付く。
——しまった。
そう思った時には、もう遅かった。残った名前は、俺と彼の二つだけ。沈黙が落ちる。切断ボタンへ指を伸ばしかけて、押す手前で手が止まる。
逃げたい。
苦しい。
でも、
少しだけ。
もう少しだけ、声を聞いていたい。
そんな最低な気持ちが、指を鈍らせる。
「……うっしー」
先に口を開いたのは、彼だった。低くて、静かな声。実況中のテンションじゃない、フリーの時の声。
「今日、ほんとに大丈夫だったの?」
胸が、痛い。
「……だから、大丈夫だってば。心配すんなよ」
笑って、明るい声で返した。ちゃんと、いつも通りに。
「……そっか」
彼は小さくそれだけを落として少しだけの間が空く。その沈黙が怖くて、すぐ言葉を探す。
「じゃ、じゃぁ……俺も落ち_」
「……逃げんの?」
ぴたり、と退出の押す指が止まる。
図星を刺された。それだけの事なのに、指先は震えて上手くボタンを押せない。
「っ、」
責める声じゃなかった。
怒ってもいない。
ただ、
少しだけ苦しそうな声。
「……ねぇ、」
ヘッドホン越しに、小さく息を吐く音が聞こえる。
「…今は、二人だよ」
静かだった。
誰も笑わない。
茶化す人もいない。
聞こえるのは、お互いの呼吸だけ。
それだけなのに、なんでこんなにも俺は期待をしてるのだろう。
「……そうだね」
逃げ場がない。
分かってしまう。
『今だけは、誤魔化せない』と。
「……だったら、ちゃんと言って」
その言葉に、喉が詰まる。
何を、
何を言えばいい。
言えるわけない。
言ったら、
また、期待してしまう。
なのに。
「……っ、」
止めていたものが、殻を破るように少しずつ崩れていく。
「……優しく、しないでよ」
気付けば、そんな言葉が落ちていた。
「忘れようとしてんのにさ…」
「……期待、しちゃうから」
「もう戻れないのに」
声が、少し震える。
「……まだ、好きなのが…嫌でも分かっちゃうじゃん、」
言った。
言ってしまった。
終わった。
きっと、困らせた。
重いって思われた。
今更何言ってんだって、呆れられる。
そんな不安ばかりが蓄積していく。
そう思ったのに。
「……うっしー」
返ってきた声は、思っていたよりずっと静かだった。
「それ、俺もだよ?」
「……え、」
呼吸が止まる。
何を言われたのか、分からなかった。
いや。
分かりたくなかった。
期待したら、また壊れるから。
それがわかってるから、俺からは何も言えない。
「……だからさ?」
少しだけ、苦しそうに笑う気配。
「もう、優しくすんなって言われても無理だよ」
「……っ」
「俺も忘れようとしたよ」
ぽつり、ぽつりと言葉が落ちる。
「でも、無理だった」
少しの沈黙。俺の頭には先程の『俺もだよ』という言葉だけが頭に残る。
ヘッドホン越しに、小さな息遣いだけが聞こえる。
「……あの時」
低い声が、少しだけ震えた。
「本当は、行かないでって言ってほしかったんだよね」
頭が真っ白になる。
「……え、」
掠れた声しか出ない。
だって、
そんなの。
そんなの、知らない。
「俺ね」
ヘッドホン越しに、小さく笑う音。
でも、その笑い方は全然楽しそうじゃなくて。どこか、自嘲みたいで。余計に胸が締め付けられた気がした。
「ずっと待ってた」
胸の奥が、ぐちゃりと音を立てる。
「『待って』って言ってくれたら、戻ろうって思ってたよ」
「っ……」
呼吸が、少しの間止まった。
あの日、喉まで出かかって。
それでも、言えなかった言葉。
『待って』
たったそれだけだったのに。
「……言え、なかった」
気付けば、声が零れていた。目から落ちる雫までも、俺の気持ちを乗せていく。
「言いたかった……っ、でも、」
震える息。うまく言葉にならない。伝えたいのに、上手く言語化できなくて。
「引き止めたら、っ…お前が、苦しくなると思って……っ゛」
「……うん」
静かな相槌。
否定も、肯定もない。
ただ、聞いてくれている声。
俺の本心を、心から聞いて理解してくれる様な声。
「嫌われたく、なくて…」
自分でも、情けないと思う。
「…離れたく、なくって……゛」
今更。
何ヶ月も経って。
こんなことを言ったって、
もう、
手遅れなのに。
「……俺も」
ぽつり、と彼が落とす。
「嫌われたくなかったよ。離れたくもなかった。離れて欲しくなかった」
「……」
「だから、笑ったんだよ」
——笑い合ってさよなら。
あの時の、苦しそうな笑顔が頭を過る。何度も、何度も頭に浮かんだあの苦しそうな笑顔が。
「ほんとは全然笑えなかった」
沈黙が、また始まる。
その静けさが、痛いほど優しいと思えるのは、なんでなんだろう。
「……ねぇ、うっしー」
呼ばれた名前に、肩が揺れる。
「まださ…」
少しだけ、迷うような間。
「……戻りたいって、思ってる?」
息が止まる。
怖い。
ここで「うん」って言って、もし違ったら。
また壊れる?
でも。もう、誤魔化せなかった。
「……っ、」
気付けば、もう既に前が見えない程視界が滲んでいた。
「……戻りたい、よ」
声が、ぐしゃぐしゃになる。
「ずっと……戻りたかった」
沈黙がまた続く。その沈黙が数秒、数分にも感じるくらい長くて。
それから小さく、安心したみたいな息が聞こえた。
「……よかった」
その声が
少しだけ、泣きそうな声だった。
「……きよ、」
喉が、うまく動かない。戻りたいって言った。 言ってしまったんだ。
今更すぎるくらい、今更なのに。
「……俺、」
言葉が続かない。 何を言えばいいのか分からない。
謝りたい。
好きだと言いたい。
会いたかったと言いたい。
でも、どれも足りない。
「……ごめん」
結局、最初に零れたのはそんな言葉だった。
「……いっぱい、傷つけて…」
息が震える。
「離れたのは、俺なのに……っ」
「忘れようとしてるお前に、今更こんなこと言って……」
「……うっしー」
静かで、優しい声。でも、今までみたいに飲み込む声じゃなかった。
「俺さぁ、」
少しだけ、間を挟んで彼は言う。
「…忘れようとしてたって言ったけど」
小さく笑う音が混じった声が耳に響く。
「全然無理だったわ」
鼻の奥がつんと痛くなる。
「飯食ってても」
「動画見てても」
「収録してても」
少し苦しそうに息を吐く。
「ずっと、うっしーがいたから…それが日常だったからさ」
「……っ」
「だからさ」
少しだけ、声が近くなる。ヘッドホン越しなのに、不思議なくらい近く感じた。
「もし、まだ…」
彼の、少し迷うような沈黙。
「……まだ俺のこと好きなら」
心臓が、跳ねる。
怖い。
でも、聞きたい。
ちゃんと、彼の心を聴きたい。
「 もう1回、ちゃんとやり直さない? 」
息が詰まる。言葉が、出ない。
嬉しいのに。 苦しいのに。 信じたいのに。
また壊れたらと思うと、怖くて。
「……また、駄目になったら…」
ぽろ、と声が崩れる。
「俺、多分……耐えらんねぇよ、」
沈黙。でも、今度の沈黙は怖くなかった。
「……うん」
すぐ返ってくる声。
「俺も怖いよ」
少しだけ掠れた声。
「でも、」
小さく笑う。今度は、ちゃんと優しい笑い声だった。
「今のままの方が、俺はもっと無理」
「……っ」
「次はさ」
「『待って』って俺も言うし、うっしーも言ってよ」
喉が、目が熱い。
あの日。
あの日口に出来なかった言葉。
たった一言だったのに、どうしても出せなかった言葉。
「……っ、」
息が震える。
引いたはずの涙が波を返すようにまた視界が、もう何も見えないくらい滲んでいた。
「……待って、」
掠れた声。でも、確かに零れた。
「……もう、行かないで」
嗚咽が混じた声。
止めたかった。 ずっと、ずっと。
何ヶ月も言えなかった言葉が、ようやく喉を通っていく。
「……一人に、しないで……っ」
ヘッドホン越しに、小さく息を飲む音が聞こえる。
「……うん」
静かな声。だけど、彼の声はしっかり伝わるほど少しだけ震えていた。
「もう、どっか行かない」
その言葉だけで、張り詰めていたものが全部崩れた。
「……っ゛、」
声にならない。
泣くつもりなんてなかった。
ちゃんと話そうと思ってた。
なのに。
「……ごめ、っ」
「泣くなって」
少し困ったように笑う声。でも、その奥に隠しきれない優しさが滲んでいた。
「俺まで泣きそうになるじゃん」
「……っ、ぅ……」
鼻を啜る音すら情けない。
なのに、切られない。
急かされない。
ただ、待ってくれている。
——あぁ、
好きだ。
ずっと、好きなんだ。
嫌いになれなかった。
「……ねぇ」
「今から会いに行ってもいい?」
心臓が、止まりそうになる。
「……え、」
聞き間違いかと思った。
今から? 会いに?
「……嫌?」
少しだけ、不安そうな声。その声に、胸の奥がじわりと熱くなる。
……ずるい。
そんな声、されたら。
「……すきにしろよ」
精一杯、いつも通りを装った声。でも、少し震えたことと、嬉しいの気持ちはきっと隠せていない。
するとヘッドホン越しに、小さく笑う声。
「来て欲しいくせに、ね」
「……うるさい」
「今から出るから、」
少しだけ、優しい声。
「いい子にして待ってて」
「……」
返事なんて、できなかった。
ただ、小さく喉が鳴る。それから数秒して彼の気配が消えて、通話画面から名前が消える。静かになった部屋。それなのに、さっきまでよりずっと苦しくない。
気付けば、小さく息が漏れていた。
「……そーゆうとこ、だっての……」
好きになった理由。
嫌いになれなかった理由。
忘れられなかった理由。
全部が全部。
あぁ、ほんと。
「……ばかやろう」
ぽつりと落ちた声は、
少しだけ、笑っていた。
数十分後。
何度も時計を見ていた。落ち着かなくて、水を飲んで。またソファに座って。立ち上がって。
「……何してんだ俺」
会える。 また、会える。
それだけの事なのに、心臓がうるさい。
何ヶ月も会わなかったくせに。何ヶ月も逃げてたくせに。さっきまで声越しで話していたくせに。
今更みたいに緊張してる自分が馬鹿みたいだった。
そんなことを考えていると、突然インターホンが鳴り、肩が跳ねる。
「……っ」
早すぎるだろ。
慌てて立ち上がる。急いで洗面所に向かい、鏡に映った顔は酷いもんだった。泣いたせいで目は赤いし、顔もぐしゃぐしゃ。
「……最悪」
でも、待たせる方が嫌だった。
深呼吸を一つ。
震える手で、ドアノブを回した。
「……よ」
立っていたのは、 間違いなく、キヨだった。黒い帽子。 少し乱れた髪。 息が少しだけ上がってる。
……走ってきた?
そんなことが頭を過る。
でも、何より先に思ったのは。
——会いたかった。
「……っ、」
言葉が出ない。
久しぶりに近くでしっかり目を合わせて見る顔。画面越しじゃない。声だけじゃない。
ちゃんと、そこにいる。
「……うっしー」
キヨが、少しだけ困ったように笑った。
「そんな顔してたら、俺入れなくない?」
その声で、ようやく現実に引き戻される。
「あ……悪ぃ」
少し横に避け、キヨが部屋へ入る。扉が閉まる音が玄関に響く。その音だけで、逃げ場がなくなった気がした。
静かだった。さっきまであんなに話していたのに。実際に顔を見た途端、何も言えない。
「……」
「……」
リビングに入って、ソファに座る。
気まずい。いや、違う。気まずいんじゃない。
怖い。
また壊れたらどうしようって。 今が夢だったらどうしようって。そんな沈黙を先に壊したのは、キヨだった。
「……おい」
低い声。
「なんでそんな距離空けんの」
気付けば、ソファの端と端くらい離れていた。
「……いや、だって」
怖い。
なんて、言えるわけない。するとキヨが小さく息を吐いて。
「……こい」
「え、」
「来いって」
少しだけ照れ臭そうに目を逸らしながら、隣を軽く叩く。
「……今日くらい、甘えていいから」
その一言が、ずるかった。張っていた糸が、また簡単に切れる。
本当に、こいつは俺の糸を緩めるのが得意だ。
「……っ、」
足が、勝手に動いて、隣に座った瞬間ぐい、と腕を引かれる。
「わ、っ」
次の瞬間、肩に額が当たった。
「……きよ、?」
抱き締められてる。
理解した瞬間、息が詰まる。強すぎない。でも、絶対離したくないみたいな力。
「……会いたかった」
ぽつり、と横から落ちる声は少し掠れていた。
「……ずっと」
彼の一言一言に、胸の奥がぐしゃぐしゃになる。
「俺も……っ」
気付けば、服を掴んでいた。
「俺も、会いたかった……」
情けないくらい震えた声。でも、キヨは笑わなかった。
「うん」
ただ、背中をぽんぽんと撫でる。
あぁ、この感じ。
好きだったやつだ。
安心する。 苦しいくらい、安心する。
「……ねぇ」
しばらくして、キヨが少しだけ体を離した。それでも、肩は掴まれたままで。
近い、近すぎる。
泣いたせいで赤い目が、まともに見れない。
「……もう、どっか行かない?」
あの時と違う。今度は、ちゃんと聞いてくれてる。ちゃんと、引き止めてくれてる。
「……行かねぇよ」
鼻を啜りながら答える。
「お前も、ちゃんと言えよ」
「……うん」
小さく頷いたキヨが、少しだけ笑う。
ふと、視線が落ち、部屋は静かな沈黙。
でも、今度は嫌じゃない。
「……」
「……」
近い。お互いの呼吸が混ざって分からなくなるくらい。
「……キヨ」
名前を呼んだ声は、少し震えていた。
「ん?」
「……ほんとに、戻っていいの…?」
確認みたいな問い。すると、キヨは少しだけ眉を下げて。
「何回言わせんの」
困ったように笑った。その笑顔は、久しぶりに見た笑顔で、胸が締め付けられる。
「もう離す気ないけど?」
どくん、と心臓が跳ねる。
「……っ」
恥ずかしい。 嬉しい。 泣きそう。
全部ぐちゃぐちゃになったまま俯くと横から小さく優しい声が聞こえる。
「……顔、上げて」
ゆっくり視線を上げると目と目が合う。近かった。思わず息が止まるくらい。
「……嫌なら避けて」
その言い方が、あまりにも彼だった。
ちゃんと待ってくれるところ。
優しいところ。
そういうとこだって言ってんだよ。
ほんと、ばか。
「……避けねぇよ」
掠れた声でそう言えば、キヨが少しだけ目を細めて。
「……よかった」
そっと触れるみたいに、唇が重なった。長くもない。 激しくもない。
ただ、
『 おかえり 』
そう言ってくれたようなキスだった。
離れたあと、少し赤くなった顔でキヨがぼそっと言う。
「……これで、また恋人ね」
指を這わせられ、そのまま絡められる。その言葉に、思わず笑ってしまう。
「……なにそれ」
「うるせ」
照れ隠しみたいに頭を軽く小突かれる。
でも、その手を、今度はちゃんと掴んだ。
もう、離さないように。
「……待って」
あの日、言えなかった言葉。
あの日、飲み込んでしまった言葉。
今度はちゃんと、口にして言えた。
「もうちょい、一緒にいて……?」
一瞬だけ目を丸くしたキヨは、次の瞬間、少しだけ嬉しそうに笑う。
「……当たり前じゃん」
そのままもう一度、額がこつりと小さく音を立ててぶつかった。
でも今度は、
誰も、一人じゃなかったんだ。
もう、離れない。
あの日言えなかった言葉も、飲み込んだ気持ちも。
今度はちゃんと、隣で伝えていけばいい。
「……すきだよ、」
「俺は愛してる」
「……ばか」
「照れてるの可愛い」
「うるさい」
くだらないやり取りなのに、胸の奥が少しだけ熱かった。
窓の外では、夜風が静かに揺れている。
でももう、寒くなんてなかった。
これからも、きっと独りじゃない。
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頑張ったよ!!!!!!!!!3~4日で仕上げたよ。まだあるよ。描きたいのも書きたいのも。溜め込むなよ私😭
言っときますけど、もう来週再来週過ぎたらテスト期間ですよ。馬鹿なんかな私って。馬鹿か😇
元々6/10に投稿するつもりだったものが予定が狂って来週になりました。少々お待ちを😌
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