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#高校生
第29話 「あと二つ」
夏季県高校野球大会準決勝。
柳城高校は、ついにベスト4まで勝ち上がっていた。
あと二つ。
その言葉が、現実味を帯び始める。
相手は――
大牟田商業。
秋にも戦った古豪だった。
試合当日。
空は快晴。
蝉の声が響く。
無観客に近い球場。
だが、空気は重かった。
準決勝。
負ければ終わり。
試合前。
福間監督が全員を見る。
「ここまで来たら、技術より気持ちや」
静かな声。
「苦しい時、前向ける方が勝つ」
全員が頷く。
整列。
礼。
――プレイボール。
初回。
柳城はいきなりチャンスを作る。
一死一二塁。
打席には四番。
だが――
併殺。
流れを掴めない。
その裏。
大牟田商業が先制。
長打。
送りバント。
スクイズ。
0対1。
嫌な空気。
さらに三回。
また追加点。
0対2。
柳城ベンチが静かになる。
小早川啓介はマスク越しに空を見る。
(まだ終わってない)
五回。
試合が動く。
二死一塁。
打席には小早川。
初球。
高め。
振り抜く。
――カキン!!
打球は左中間へ。
フェンス直撃。
タイムリー二塁打。
2対1。
柳城ベンチが一気に盛り上がる。
「流れ来たぞ!!」
さらに六回。
一死満塁。
スクイズ。
完璧に決まる。
同点。
2対2。
福間監督が初めて声を張る。
「攻めろ!!」
柳城が前へ出る。
だが大牟田商業も粘る。
八回。
二死三塁。
相手四番。
小早川はマウンドへ向かう。
「勝負しましょう」
エースが頷く。
初球。
ストライク。
二球目。
ファウル。
追い込む。
三球目。
低め。
振った。
――空振り三振!!
柳城ベンチが吠える。
そして九回裏。
2対2。
二死二塁。
打席には――
小早川。
球場が静まり返る。
舞が祈るように見つめる。
福間監督は腕を組んだまま動かない。
初球。
ボール。
二球目。
外角。
見送る。
三球目。
真ん中。
振り抜く。
――カキン!!!
打球はセンター前へ。
二塁走者がホームを狙う。
送球。
クロスプレー。
セーフ!!
サヨナラ。
柳城高校 3×―2 大牟田商業。
決勝進出。
その瞬間。
柳城ナインが一斉に飛び出した。
涙。
歓声。
叫び声。
舞も泣いていた。
小早川はホームベース付近で仲間に囲まれる。
そして、その輪の外。
福間監督が静かに空を見上げていた。
あと一つ。
失われた甲子園の夏。
だが柳城高校は今、“福岡の頂点”まであと一歩の場所に立っていた。
第29話 終
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