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#高校生
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第30話 「福岡の頂点」
夏季県高校野球大会決勝。
柳城高校 ― 西陵学園。
因縁の相手だった。
一年夏。
秋。
何度も立ちはだかった壁。
その相手と、最後の夏にもう一度戦う。
試合当日。
球場の空気は、これまでで一番重かった。
静かなスタンド。
鳴り響く蝉の声。
観客は少ない。
だが、福岡中の高校野球関係者が注目していた。
「今年の柳城は本物か」
その答えが、今日出る。
試合前。
福間監督は短く言った。
「楽しめ」
選手たちが少し驚く。
「お前ら、ここまでよう来た」
「最後、全部出せ」
整列。
礼。
――プレイボール。
初回から激しい攻防だった。
西陵学園のエース。
重い直球。
柳城のエース。
気迫の投球。
両校、一歩も引かない。
三回。
西陵が先制。
1対0。
だが柳城は崩れない。
五回。
二死二塁。
打席には小早川啓介。
初球。
外角。
逆方向へ叩く。
――カキン!!
ライト線。
同点タイムリー。
1対1。
ベンチが沸く。
中盤以降。
完全な総力戦になる。
守備で飛び込む。
体で止める。
声を切らさない。
福間監督が三年間で作り上げた柳城の野球だった。
七回。
一死満塁。
柳城最大のチャンス。
打席は五番。
初球スクイズ。
転がした。
ホーム際、際どいタイミング。
――セーフ!!
勝ち越し。
2対1。
球場の空気が揺れる。
西陵も反撃する。
八回裏。
二死二三塁。
打席は四番。
小早川はマウンドへ向かった。
「絶対、守れます」
エースが頷く。
戻る。
ミットを低く構える。
初球。
ストライク。
二球目。
ファウル。
追い込む。
三球目。
外角低め。
振った。
――空振り三振!!
柳城ベンチが総立ちになる。
そして九回。
最後の打者。
打球は高く舞い上がる。
センター。
落下地点へ入る。
捕った。
ゲームセット。
柳城高校 2―1 西陵学園。
優勝。
その瞬間。
柳城ナインがマウンドへ駆け寄る。
泣き崩れる者。
叫ぶ者。
空を見上げる者。
舞はベンチで涙を流していた。
おっちゃんも、おばちゃんも泣いていた。
立花理事長は帽子を取り、静かに拍手する。
福間監督は輪の外で、ただ選手たちを見ていた。
ついに。
柳城高校は、福岡の頂点へ立った。
だが――
甲子園は、ない。
優勝旗はある。
メダルもある。
新聞にも載る。
それでも。
誰も、心の底から笑えなかった。
もし普通の夏だったなら。
このチームは、甲子園へ行けた。
全国へ挑めた。
夢の続きを見れた。
帰りのバス。
優勝したはずなのに、静かだった。
小早川は窓の外を見る。
夕焼けが滲んで見えた。
福間監督が前を向いたまま言う。
「お前らは、日本一の景色を見るはずやった」
誰も返事できない。
悔しい。
悲しい。
でも――
誰を責めればいいのか分からない。
コロナを恨むのか。
時代を恨むのか。
答えは、どこにもなかった。
ただ一つ確かなのは。
この夏が、二度と戻らないということだった。
水郷の町へ戻るバスの窓から、静かな夜空が見えていた。