繁華街の雑踏の中、ネオンの明滅が歩道を照らす。新宿駅近くの路地裏。賑やかな音楽と人々の声が遠くから聞こえる場所で、二人の男が静かに向かい合っていた。
「久しぶりだな、渋谷。」
港は壁にもたれ、気怠げに言った。だが、その目は鋭く、相手を試すような光を宿している。
渋谷はそれに対し、軽く肩をすくめた。
「そうでもないさ。前に会ったのは、確か…2ヶ月前だろ?」
「2ヶ月でも十分だ。あの時から色々動きがあったみたいだな。」
「まぁな。」
渋谷はポケットから煙草を取り出し、火を点ける。煙がゆらゆらと夜の闇に溶けていく。
「どうだ、港。お前もだいぶ面倒な役目を背負わされてるようだが。」
「お互い様だろう?」
港の声には皮肉が混じっていた。だが、渋谷はそれを軽く受け流す。
「確かに。だが、俺はそっちの『温厚な狩り手』みたいな綺麗事はやらない主義だ。」
渋谷の口元には笑みが浮かんでいるが、その目は笑っていない。
港は少し沈黙した後、話を切り出した。
「君があの場で『般若』を止めなかった理由を聞きたい。」
渋谷の動きが一瞬止まる。だが、すぐに肩をすくめて答えた。
「止める必要がなかったからさ。俺の管轄外だ。」
「管轄外…か。」
港は眉をひそめた。
「お前は何かを知っているはずだ、渋谷。」
港の声に少しだけ圧力がこもる。
渋谷は煙を吐き出しながら、静かに答えた。
「俺が知っているのは一つだけ。『般若』は君の手に負える相手じゃないってことだ。」
「そうか…だが、俺は諦めるつもりはない。」
港の声には、確固たる意志があった。
渋谷は苦笑いを浮かべる。
「お前らしいな。そういうところが、俺には真似できない。」
二人の間に沈黙が訪れる。だが、それは気まずいものではなく、どこか理解し合った者同士のものだった。
やがて渋谷が立ち上がり、煙草を地面に押しつけた。
「港、助言を一つしてやるよ。」
「なんだ?」
渋谷は振り返りながら言った。
「次に会うときは、きっと俺たちは敵だ。それを覚えておけ。」
その言葉を残して、渋谷は雑踏の中に消えていった。
港は彼の背中を見送りながら、静かに呟いた。
「敵か…悪いが、その時も俺は君を救うつもりだ。」
夜の闇に、港の誓いが静かに消えていった。