「なんだかんだで、父は人がよかったので。
頼まれて嫌と言えなかったのかも……」
いろいろ考えた末に、冨樫はそんなことを言い出した。
いや、まだあれが冨樫の父だとは決まっていないのだが。
映像を見た冨樫の心になにか引っかかるものがあったようなのだ。
「待て。
頼まれたの、銀行強盗だろ?」
人がいいをこえてるぞ、と倫太郎は言う。
「でもまあ、これが冨樫さんのお父さんなら、とりあえず、生きてることは確定なわけですよね?」
その方がいいんですかね? とスマホでニュースの映像を見ながら壱花は言った。
「よくないだろ」
と倫太郎が言う。
「結局、強盗失敗して逃げてるから、何処にいるのかもわからないしな」
「そっかー。
じゃあ、早く強盗たち見つけて匿わないとね」
と人間界の犯罪などどうでもいいらしい高尾が呑気に言う。
どうなんだろう。
困ったな、と思う壱花の視界に入り口の安倍晴明が目に入った。
だが、その晴明はいつものように、近づくと、
「私は安倍晴明である」
と言うだけだ。
壱花はゴソッとポケットから折りたたんだ式札を出してみた。
残り四枚。
そのうちの一枚に命じる。
「式神。
冨樫さんのお父さんを探してきて」
折りたたんだ十字のあとのついたまま、ふわりと浮いた白いヒトガタは、わかった、というように、ぺこりと頭を下げると、床に下り、普通に歩いてあやかし駄菓子屋から出て行った。
とてとてと歩いていくそれを見送ったあとで、
「あれ、いつたどり着くんだろうね」
と高尾が笑う。
壱花の頭の中で、小さなヒトガタがボロボロになりながら、街を彷徨い、崖を転がり落ちていた。
壱花はもう一枚の式札を出した。
「式神、さっきの式神、止めてきて」
「壱花、無駄遣いは……」
と倫太郎が言うのと、高尾が、
「でもさあ、葉介のお父さん探せっていうより、銀行強盗探せって行った方が早かったんじゃない?」
と言ったのが同時だった。
壱花はもう一枚、式札を出して命じようとする。
「式神、銀行強盗を――」
だから、無駄遣いすんなーっ、と倫太郎に怒鳴られた。
だが、そこでいつもなら、一緒に怒鳴ってくる冨樫は今日は沈黙したままだった。
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