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僕とラズールとゼノは、一晩宿に泊まった後に王都に入った。

でもすぐに王城へは向かわない。ゼノに案内されて、小さな雑貨屋に入った。

そんなに広くはない店内に、美しい陶器や宝飾品と小さな机や棚、カバンや傘が、所狭しと置いてある。

僕が首を|巡《めぐ》らせて見とれていると、奥で店の人と話していたゼノが、傍に来て笑った。

「様々なものが置いてあるでしょう?なにか気に入ったものがありましたか?」

「あっ、ごめん。こういう店、初めて来たから楽しくて見とれちゃった。僕の好きなものばかりだよ」

「では後日、リアム様にお|強請《ねだ》りなさい。喜んで買い占めてくれますよ」

「えっ…」

ここでリアムの名を出していいの?店の人に聞かれても大丈夫なの?

そう思い、僕は焦って店の奥を見た。

ゼノは僕の気持ちを察して「大丈夫です」と店の人を手招きして呼ぶ。

店の人は、ゼノの隣に並ぶと軽く頭を下げた。

「俺はここの店主のクレンと言います。ゼノとは子供の頃からの友達です。リアム様のこともよく知ってます。今回のこと、俺も協力させてください」

僕がゼノを見ると、ゼノが微笑んで頷く。

僕は安心して口を開いた。

「…ありがとう。でも危険が伴うかもしれないよ。いいの?」

「大丈夫です。それに協力といっても、場所を提供することくらいしかできませんが…」

「それでも、バレたら店を壊されるかもしれない…」

「壊されたらまた作ればいい。だから大丈夫です。なんでも命令してくださいな」

「うん…ありがとう」

僕は震える胸を押さえて声を絞り出した。

たくさんの仲間がいて嬉しい。

しばらく俯いていたけど、名乗っていなかったことに気づいて、僕から離れようとしていたクレンさんを、慌てて呼び止める。

「クレンさん待って!僕のこと、ゼノから聞いてるだろうけど、名乗らなくてごめんっ。僕はフィルと言います。リアムの…恋人です」

「ああ。前もってゼノから聞いてたから、俺も聞くの忘れてました。すいません。フィル様ですね。聞いていた通りの美しいお方だ。それにクレンでいいですよ」

「僕の素性も知ってる…?」

「いえ、そこまで詳しくは知りません。ただリアム様の恋人で高貴なお方だとだけ」

「そう。僕も様はいらないよ」

「いやいや、そういう訳にはいきません。リアム様の恋人なのですから。呼び捨てになんてしたら、リアム様に首をはねられかねませんよ」

「ふふっ、まさか」

「いえほんとに。なぁゼノ」

「そうだぞ」とゼノが頷き、僕の後ろに目を向ける。

「リアム様が怒らなくとも、ラズール殿が恐ろしい目をしているぞ。だからクレン、くれぐれもフィル様に粗相のないようにしろよ」

「うへぇ、ホントだ。お付きの方の顔が怖い」

僕が勢いよく振り返ると、僕と目が合ったラズールが、一瞬で優しい顔に変わった。


クレンさんの店の二階で、用意されていた服に着替えた。バイロン国の青い軍服だ。

ジルやユフィやテラは、黒い軍服を着ていた。この国では王都を守る騎士は青で、王都以外の騎士は黒なのだそう。

そういえば、前にリアムは黒の軍服を着ていた。あれはラシェットさんの所の軍服だったのか。金髪が映えてとても素敵だった。リアムは黒でも青でもどちらを着ても似合ってしまうのだけど。

僕は青の軍服に袖を通しながら、不安を口にする。

「ゼノ、王都軍の軍服を着ていても、僕とラズールは怪しまれるんじゃないかな」

僕を手伝ってくれながら、ゼノが優しく笑う。

「大丈夫です。王都内の騎士は、入れ替わりが激しい。優秀な者はずっと王直属の軍にいますが、それ以外はすぐに王城を出される。王は、常に優秀な人材を求めていますので」

「では、見慣れぬフィル様と俺がいても怪しまれないのか」

すでに着替え終わったラズールが、腰に剣を差している。

「そうだ。だが派手な動きはしてはならない。慎重に動こう。王は用心深いからな」

「わかった。フィル様、俺がついてますのでご安心を」

「うん、頼りにしてる」

僕が頷くと、ラズールが僕を椅子に座らせて髪を結い始め、カツラをかぶせた。

クレンさんの店を出る時に、クレンさんが僕に腕輪をくれた。きれいな緑色の石がはめ込まれた腕輪だ。

「腕を出してください」と言われて素直に出した僕の腕に、クレンさんがつけてくれたんだ。

「えっ、これは?」

「美しいでしょう。あなたの瞳と同じ色の石です。必ずあなたを守ってくれます。どうかもらってください」

「でもっ」

「俺があなたに持っていてほしいのです。そしていつか、リアム様と一緒に店に来てください。待ってますから」

「うん…必ず。ありがとう」

僕は腕輪の石に触れて、心の中で何回目かの誓いを立てる。

僕は必ずリアムを牢から出して、毒からも回復させる。もしも上手く解毒できなければ、残り少ない僕の命をリアムに移す。姉上にはできなかった魔法を使って。

「クレンも気をつけて」

「俺は大丈夫です」

僕が頷いて外に出ると、ラズールとゼノも順番に出てきた。そして道がわからないからとゼノに先頭に立ってもらい、僕、ラズールと後に続く。

「王都は人が多い。離れずについて来てくださいね」

「わかった」と返事をしたものの、賑やかな様子が気になって、キョロキョロとよそ見をしてしまう。

歩みが遅くなるたびにラズールに背中を押され、王城の前まで来た。

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