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翌日。
空は少し曇っていた
愁斗は朝から落ち着かなかった。
ひでくんが話したいことがある。
その言葉がずっと頭から離れない。
「……。」
怖い。
でも。
逃げたくなかった。
いつもの公園。
二人で並んで座る。
しばらく、誰も話さなかった。
先に口を開いたのはひでだった。
『愁斗。』
「うん。」
『俺さ。』
『最近、昔のこと調べてた。』
愁斗は黙って聞く。
『5歳より前の記憶がないこと。』
『施設にいたこと。』
『それで……。』
MORRIEは一度、深く息を吸った。
『一緒にいた子がいたこと。』
愁斗の指が少し動く。
「……。」
『男の子。』
『名前は……愁斗。』
時間が止まった。
風の音だけが聞こえる。
「……え。」
声が出ない。
『俺と愁斗は。』
『同じ施設にいた。』
『同じ時期に。』
『そして……。』
ひでは震える手で書類を出した。
『兄弟だった。』
愁斗は何も言えなかった。
頭の中が真っ白になる。
「……嘘。」
やっと出た言葉。
『……。』
「だって。」
「そんなの。」
「急すぎる。」
声が少し震える。
「俺。」
「兄弟なんて。」
「いたことないって思ってた。」
ひでは何も言わず聞いていた。
「ずっと。」
「一人だと思ってた。」
愁斗は自分の手を見る。
「 なのに。」
「急に。」
「兄がいましたって言われても。」
「どうしたらいいか分からない。」
ひでの胸が痛む。
嬉しいはずなのに。
愁斗の表情は苦しそうだった。
⸻
「……ひでくん。」
『ん?』
「もし。」
「本当に俺の兄だったら。」
少し間を置く。
「なんで。」
「俺を置いていったの。」
責める声ではなかった。
ただ。
ずっと聞きたかった言葉。
ひでくんは俯く。
『……ごめん。』
「違う。」
「ひでくんが謝ることじゃない。」
「分かってる。」
分かっている。
でも。
小さい頃の自分が。
ずっと聞きたかった。
「俺。」
「ずっと思ってた。」
「俺が悪かったのかなって。」
「いい子じゃなかったから。」
「必要なかったから。」
ひでの目が揺れる。
『愁斗。』
『それは違う。』
「……。」
『絶対に違う。』
『愁斗が悪いことなんて、一つもない。』
その言葉。
何度も欲しかった言葉だった。
しばらく沈黙が続く。
愁斗は俯いたまま、小さく呟く。
「……嬉しい。」
ひでを見る。
「本当は。」
「ずっと。」
「嬉しかった。」
「兄ちゃんって呼べる人がいるって思った時。」
「すごく嬉しかった。」
でも。
すぐに目を逸らす。
「でも怖い。」
『……。』
「またいなくなるんじゃないかって。」
ひではゆっくり首を振った。
『もういなくならない。』
「……。」
『約束する。』
『俺は、愁斗を置いていかない。』
目が潤う。
でも。
まだ落ちない。
ずっと我慢してきた涙なはずなのに。
でも、流れない。
「……お兄ちゃん。」
その一言。
ひでの胸がいっぱいになる。
『……うん。』
「呼んでいいのかな。」
『当たり前だろ。』
「……にぃに。」
『…っ…』
もう一度。
今度は少しだけ強く。
『うん。』
ひでは笑った。
『やっと呼んでくれた。』
帰り道。
二人はいつもと同じ道を歩いた。
でも。
何かが変わっていた。
友達じゃない。
ただの知り合いでもない。
失った時間は戻らない。
でも。
これから作る時間はある。
愁斗は小さく呟く。
「……俺。」
「幸せになってもいいのかな。」
ひではすぐ答えた。
『いいに決まってる。』
『誰よりも幸せになれ。』
愁斗は少し笑った。
まだ完全な笑顔じゃない。
でも。
初めて未来を見た顔だった。
二人の止まっていた時間が。
今、もう一度動き始めた。
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コメント
1件
うわあ……第26話、すごく重くて、でも温かい回でしたね。愁斗くんが「なんで置いていったの」って聞くシーン、責めるんじゃなくて、ただずっと抱えてきた孤独がにじみ出てて胸がぎゅっとなりました。ひでくんの「もういなくならない」は、短いけどすごく力強い約束で。最後の「にぃに」って呼ぶところ、涙が出そうになりました。まだ完全に笑えないけど、初めて未来を見た顔っていう描写が本当に好きです。二人の時間がもう一度動き始めた——これからが楽しみです🌷