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春の午後、トレセン学園の裏庭には、少し遅めの桜が風に揺られていた。
「、、、ふぅ」
タマモクロスはベンチに腰を下ろし、ふぅっと息をついた。今日のトレーニングは長丁場だった。軽い疲れを感じるほどには、全力で走った。
「タマモ、ここにいたのか」
声に振り返ると、そこにはオグリキャップがいた。片手には、例のごとくパンを2つ。そのうち一つを、タマモにそっと差し出した。
「、、、はい、これ。君の好きなやつだったはずあっているか?」
「おおきにな、オグリ、よう覚えてくれてたなぁ」
タマモは嬉しそうに笑って、それを受け取った。ふたりは並んでベンチに座る。風が静かに吹き抜ける中で、パンの甘い香りと、木々のざわめきだけが辺りに落ちていた。
しばらく黙って食べたあと、タマモがぼつりとつぶやいた。
「、、、オグリ、最近ちょっと優しすぎるんちゃう?」
「そうか?」
「なんや、こうして隣に来てくれたり、好みのパン持ってきたり、、、心配してくれてるんやろ?」
オグリは少しだけ目を伏せた。桜の花びらが、彼女の銀の髪にひとひら落ちる。
「、、、君が、頑張ってるのを知っているから」
「、、、オグリ」
タマモは照れくさそうに笑って、オグリの肩にもたれた。
「うち、昔は誰かに頼るの、ちょっと苦手やった。でもな、、、オグリの隣はなんや落ち着くんよ」
オグリは少しだけ顔を赤らめたが、タマモの頭をそっと支えるように。
「、、、君の隣も、私にとって、、、大事な場所だ」
言葉がなくても、心がつながる―そんな春の午後だった。