春の陽気に誘われて、トレセン学園では年に1度のお花見会が開かれた。
そんな賑やかな中―少しだけ離れた場所に、二人の姿があった。
「こっち、人少ないな。オグリ、ええ場所をつけてくれたなぁ」
「、、、桜がよく見える、静かな場所を探したかったんだ。タマモと一緒に、ゆっくり見たくて」
タマモクロスの頬がふわっと赤らむ。桜の下、レジャーシートの上に座るふたり。腰に置かれたお弁当には、タマモの手作りおにぎりが並んでいる。
「ほんま、うちのことよく見ててくれるんやな、、、そない言われたら、なんや照れるわ」
「、、、私も、君といると嬉しい気持ちになる。だから自然と、目が行ってしまうんだ」
白銀の髪と、ふわふわの白い耳に、ひとひらの花びらがひっつく。
「、、、あ」タマモがそっと指を伸ばして、オグリの耳の花びらを取る。
その距離、指先がふれるほどに近い。2人の目が合う。
「、、、きれいやな桜」
「、、、ああ。けど、、、」オグリがふと目を逸らし、少し照れくさそうに言葉を続けた。
「タマモの方が、、、きれい、だと思った」
一瞬、枕黙。タマモの顔がばっと真っ赤のなる。
「なっ、、、な、なにゆうてんの、ほんまにもうっ、、、!そ、そない直球で言われたら、、、」
その中で、ふたりはほんの数秒だけ、黙って顔を見合わせた。
けれど―どちらも、そっと笑い合う。
「、、、オグリ、うち、今すっごい幸せやで」
「私もだ。、、、ずっと、こうしていたい」
春の、日差しの中、静かに、ゆっくりと育っていく想い。ふたりの桜は、今まさに咲き始めたばかりだった。