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千原城市役所の中、豪田が廊下を歩いている。市役所の幹部が一人、ペコペコしながら豪田を案内している。
豪田「ん?」
ドアが開けっ放しの小会議室の中にいるチバラキVのメンバーの中にいる玲奈に気づく。
豪田「おい、あの女どもは何だ? 職員じゃねえみたいだが」
幹部「ああ、あれは例のご当地戦隊のメンバーですよ。今日は打ち合わせか何かなんでしょう」
豪田の心の声「そういう事なら、この前恥かかされた落とし前つけてもらおうか」
幹部「この後はどうなさいますか?」
豪田「今日はもういい。見送りはいいから」
幹部「は、そうですか。ではお気をつけて」
廊下の端から北野が書類の束を抱えて急いで歩いてくる。
北野「いけない、遅くなっちゃった。もうみなさん着いてるだろうな」
廊下の途中で豪田とすれ違う。
北野「あ、どうも、失礼します」
豪田はギラリと北野の顔をにらむ。北野もそれが豪田である事に気づき、立ち去ろうとする幹部を呼び止める。
北野「ちょっとすいません。あの方はどなたで?」
幹部「はあ? 知らんのか? うちの市長の息子さんだよ」
北野「え! じゃあ、あの大手の介護サービス会社の御曹司ですか?」
幹部「十五年後の市長かもしれんよ。くれぐれも失礼のないようにな」
幹部が立ち去った後、廊下に立っている北野の眉が曇る。
北野「よりによって、あの時の男だったとは」
場面転換。
市役所内、まちづくり振興課のオフィス。北野がドアを開けて部屋に走り込み、課長席に駆け寄る。
北野「課長、どういう事なんですか? チバラキVの活動予算が無期限凍結って」
課長「いやあ、私も詳しい事は何も聞かされていないんだよ。ただ、上層部からの指示だとしか」
北野の心の声「嫌な予感が当たってしまったか……」
場面転換
閉店直前の特産品ショップFortress の店内。北野とチバラキVの5人が沈んだ顔で話し合っている。
瑠美「なんだよ、そりゃ? ご当地戦隊としての活動できなくなるって事じゃないか」
北野「事実上そういう事になります。すみません、僕もあちこちかけあってはみたんですが」
沙羅「もしそいつの差し金だとしたら、公私混同ってやつじゃねえのか? なあ倫さん、どうにかできねえのか?」
倫「市役所内部の決定だとしたら、あたしらが直接どうこうは出来ないねえ」
智花「やっと市民の間でも名前知られるようになったのに」
乱暴に店の扉が開いて豪田が勝ち誇った顔でずかずかと入って来る。
玲奈「あ、あの時の」
豪田「よう、たそがれてるみてえだな。権力持ってる人間に逆らったら、どうなるか分かったかよ?」
北野「やっぱりあなたが指図したんですか?」
豪田「俺は直接は何も言ってねえよ。ご当地戦隊を解散させろとか、そんな風にはな。ま、今流行りのアレなんじゃねえ? 忖度(そんたく)ってやつ」
玲奈「あなたが腹を立てているのは、あたしに対してでしょう? 他の人たちまで巻き込まなくても」
豪田「おめえが素直に俺の物にならねえから、大事な仲間が困ってんだよ。どうだ? 今からでも俺の女になるか? そしたら考え直してやってもいいぞ」
玲奈「あたしが……」
倫「玲奈ちゃん、耳を貸す必要はないよ。大事な仲間を人身御供にしてまで、続ける仕事じゃないだろ」
智花「もともとアルバイトですしね」
瑠美「庶民にゃ庶民の意地があんだよ」
沙羅「まちづくり振興だっけ、それが上手くいかなくなって困るのは市役所の方じゃねえの?」
豪田「へへへ、いつまでその意地張ってられるか、ゆっくり見物しといてやるよ。ま、せいぜいあがきな!」
豪田が店から出て行く。
玲奈「みなさん、ごめんなさい! あたしのせいでこんな事に」
沙羅「だから玲奈のせいじゃねえって」
瑠美「とは言え、チバラキVもこれで終わりか」
再び店のドアがガラッと開いて10人の大学生が駆け込んで来る。
倫「おや、芸大の学生さんたちじゃない。どうしたのさ、血相変えて」
男子学生「チバラキVが解散って本当なんですか?」
北野「まだ正式決定ではありませんが、いずれそうなるかと」
女子学生「そんなの横暴よ! 市長の息子の個人的な恨みとかが原因だって聞きましたよ」
倫「おやおや、もうそんな噂が広まってんのかい。狭い世界だからね、地方都市は」
男子学生「僕たちに署名活動をさせて下さい。チバラキVの存続を求める市民の署名を集めて市役所に突きつければ」
倫「話はありがたいけど、無関係の学生さんを巻き込むのはねえ」
女子学生「無関係じゃありません! あたしはチバラキVの衣装の一部をデザインしました。チバラキVは、部分的だとしても、あたしたち芸大生の作品でもあるんです」
倫「そこまで言ってくれるなら、止めはしないよ。北野君、いいかい?」
北野「そうですね。万が一という事もある。じゃあ、お願いします、芸大のみなさん」
一週間後、Fortress の店内。チバラキVと芸大の学生たち。
男子学生A「すいません、大した数の署名集められませんでした」
倫「ま、そうだろうね」
男子学生B「特に商店街の人たちが非協力的で。何なんですか、あの人たちは! 今までずいぶんチバラキVの世話になってきたくせに」
倫「こう言っちゃ悪いが、よそ者のあなたたちとは事情が違うんだよ」
女子学生「よそ者って! あたしはここの市民です。住民票も移してるんですよ」
倫「卒業後はどうすんだい? ずっとこの市に住み続けるのかい?」
女子学生「そ、それは……」
倫「在学中に一時的に市民でいる学生さんは、これが正義だ、でいいかもしれない。でも、代々市内で商売してきて、これからもそれで生きていかなきゃならない人たちはそうはいかないんだよ」
男子学生A「商売のために、ですか?」
倫「ここに限らず、地方の小都市で一番金を使うのは誰か知ってるかい? 公務員なんだよ。民間の会社だって、役所が発注する公共事業とかがドル箱なんだ。商売やっている人たちにとって、地元の公務員を敵に回すのは自殺行為なんだ。そこを分かってあげなよ」
男子学生B「あきらめるしかないのか?」
女子学生「そうだ! クラウドファンディングやってみたら?」
男子学生A「それがあるか」
玲奈「何ですか、それ?」
倫「インターネット上で不特定多数から寄付を募る事だよ。けど、市役所からチバラキVの道具一式と権利を買い取るには、これだけは必要だよ」
倫が指を2本立てて見せる。
男子学生B「2百万円! そんなに!」
倫「違う、一桁上」
男子学生A「2千万!」
女子学生「とにかくやってみようよ。ダメでもともと。やってみなきゃ何も始まらない」
倫「まあ、無理だと思うけどね。でもその気持ちはありがたく受け取っとくよ。学生さんが世間の現実知る機会にするのもいいだろう。やるだけやってごらんよ」