コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「今日も寒いねー」
ぶるぶると体を震わせながら、購買で買ったパンをかじる。
「そうね。まぁたまにはいいじゃない」
「うん。この景色とももうすぐお別れだしね」
中庭。いつもの場所で。
雪乃と美希とミナミはお昼ご飯を食べていた。
「ミーナのお菓子ともお別れ…」
「あんたやっぱりミナミじゃなくてお菓子との別れを惜しんでるでしょ」
「だ、だから違うって!ミーナのお菓子=ミーナでしょ!?私は純粋に友人との別れを惜しんでいます〜」
「ふふっ。私も2人に食べてもらえなくなると思うと悲しいな」
ミナミの隣で今日もペロッパフがふわふわと揺れていた。
「それにしても、凄い体験をしたわよね、私たち」
美希が思い出すように話す。
「そうだね。まさかセレビィに会えるなんて」
「ええ。しかも時渡りまでしちゃうなんて」
確かにあの出来事は不思議で、夢だったのではと思わずにはいられない。
でも確かに、私たちは時をかけた。
瞼の裏に焼き付けた美しい景色を、今でも思い出せる。
「おかげでムウマも一歩踏み出せたし。ほんと、セレビィには感謝しかないわね」
「うん。きっとムウマのことを助けに来てくれたんだよ。ね、雪ちゃ…雪ちゃん?」
突然立ち上がる雪乃を、不思議そうに2人は見上げる。
雪乃は大樹に近寄り、その大きな幹にそっと手を置いた。
「…多分、違うと思う」
雪乃の発言に2人は顔を見合わせる。
「どういうこと?」
美希が尋ねる。
雪乃は瞼を閉じ、そしてゆっくりと開く。
「…この木だよ。セレビィを呼んだのは」
雪乃は木を見上げた。
悠然とそこに立つ大きな木。
「セレビィを、呼んだ?」
「そう。セレビィにお礼を言った時、去り際にこの木を叩いて行ったの」
そういえば、ポンポンッと軽く触っていた気がする、と2人も思い出す。
「ムウマのピンチに、この木が力を貸してくれたんじゃないかな。ほら、この木はずっとムウマのことを見てきた、言わば母のような存在だし。ムウマに勇気を出してほしくてセレビィを呼んだのかも」
ざわざわと木枯らしが吹く。
雪乃は微笑んだ。
「だから、ありがとう。力を貸してくれて」
そう言って木の幹を撫でれば、どこからか声が聞こえてきた気がした。
『ありがとう』
雪乃は木を見上げる。
…きっと木枯らしの音のせいだろう。
「うん。私もなんだかそんな気がする」
「そうね。あんたにしては良い事言うじゃない」
「もっと褒めてもいいんだよ?」
「うるさい」
そのいつもの光景に、ミナミはクスクス笑う。
「…2人とも、本当にありがとう。2人に相談して良かった。これで心置きなく、夢に向かって歩き出せるよ」
ミナミの言葉に、2人は嬉しそうに笑う。
友人の背中を押せて良かった。
少し冷たい風が頬を撫でる。
風に乗って枯葉が落ちる。
雪乃は風に揺れる黒いリボンのヘアクリップで留めた後ろ髪に触れる。
…来年も綺麗な桜が咲くだろうか。
雪乃は大樹を見上げて微笑む。
それから3人は仲良く昼食を食べた。
最後のデザートも忘れずに。
その様子を、大樹は見守っていた。
…もうそこに、啜り泣く影はいなかった。