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「おお……女子だ……」
「やっとチームZに女子が来たぞぉぉおおお!」
知里はただ呆然としていた。蜂楽と潔に連れられ案内された食堂に入った瞬間その場にいた者たちからいっせいに目を向けられた。そこまではまだいい、当然で突然仲間が見知らぬ小娘を連れてきたのだから警戒するに決まっている。そう思っていたのだが、今知里の前で号泣しながら声高らかに歓喜の叫びを上げている男達に目眩がした。
「えっ……」
「まあ、こうなるよな」
「アウトサイダー倒した時みたいな喜び具合だね」
すると、雄叫びを上げていた1人、坊主頭が特徴の人物が知里の前に立つ。
「俺は、五十嵐栗夢っていうんだ!君、名前は?こんなむさ苦しい男ばっかりのところだけどよろしく!」
「はい、ストップ」
「いがぐり通行止め」
知里にさらに近づこうとしたイガグリの間に潔、蜂楽が壁のように立つ。
「お前はぐいぐい行き過ぎるから、知里が困るだろ……!」
「はあ!?潔だって、女子とお近付きになれてはしゃいでんだろうがよ!」
「は、はあ!?そ、そんなんじゃないからな……!?」
イガグリの言葉に顔が赤くなった潔は、思わず大きな声で反論する。すると、2人をよそに茶髪にピアスをした人物が知里の手を取る。
「俺、今村遊大!ブルーロックにわざわざスレイヴとして来るなんてめちゃくちゃ勇敢でかっこいいじゃん!でも、大丈夫チームZに来たからには俺が守ってやるか……うわ!」
知里へと顔を近づけようとした今村の首元を突如として大きな手が掴み知里と距離を離した。
「お前!どさくさに紛れて口説くな!困ってるだろ!」
「伊右衛門邪魔すんなよ!」
伊右衛門と呼ばれる顎髭が特徴的な大きく筋肉質な体躯を持つ男は、今村から知里へと視線を移すと申し訳さそうに眉を下げる。
「悪い、こいつ結構女好きで……俺は伊右衛門、チームZの副隊長みたいなとこだ」
「篠崎知里です。よろしくお願いします」
「ここはいかついやつばかりだからな、潔や蜂楽……あとは千切となら篠崎も接しやすいはずだ」
「……千切?」
どこかで聞いたことのある名前に知里は首を傾げる。イガグリをいなした潔が知里の言葉に、ある人物へと視線を動かす。
「あいつ、あの赤髪。千切豹馬っていうんだ。俺らチームZの1人」
「あの人……」
そこには1人席に座り食事を摂る赤髪の人物がおり、知里は見覚えのあるその姿に記憶を手繰り寄せる。昨夜病室を抜け出した際に、中庭で出会った人物である。
「じゃあちぎりんのとこで俺らも食べよ!ちぎりんー!そこ3人座るねー!」
「……ん?ああ、まあ別に」
千切は蜂楽の声に素っ気なく返す。
「あの、千切さん」
「ん?あ、あんた昨夜の」
「あれ?2人とも知り合い?」
知里はハッと抜け出したことは秘密にしていたことに気づき、弁解しようにも千切が、昨夜中庭で会った、と暴露したため知里は諦めて項垂れる。しぶしぶ事の顛末を話す。
「なるほどね〜まあ、ずっと寝てばかりじゃ体がなまるもん知里の気持ちもわかるよ〜でも!こんな男だらけの場所を1人女の子が出てきちゃ危ないよ!パクって食べられちゃうから!」
そう言いながら蜂楽は両手を前に出し襲いかかるようなポーズをする。蜂楽の言う通りであるため、知里もごめんなさい、と謝罪する。
「でも、出会ったのが千切さんで良かった」
「ん?どうして?」
「え、女の子同士だったからまだそういう目に合うようなことが起きなかったから……」
知里の発言に潔、蜂楽そして食堂にいた全員が固まる。彼らの反応に知里も困惑し、自分はなにかとんでもない事を言ってしまったのではないかとおろおろし始める。
「……あの、私なにか失言を……」
「……ぷっ」
「あはははははははは!」
「おい!お嬢!お前やっぱり女に見えるみてぇだぞ!」「女から見ても女ならもう女じゃん!」
金髪にギザ歯の男が千切を見ながら大笑いし、他にも所々で笑っている者が何人もいた。
知里はおそるおそる千切に顔を向けると千切の顔は髪で見えず、それが逆に怒っているのではないかと思いビクビクしながらも慌てて、体を千切に向ける。
「ご、ごめんなさい!その、綺麗な赤髪とお顔だった、ので、えと…ごめんなさい!」
自分の言っていることが支離滅裂でさらに謝罪の言葉を掛けることしか出来ず震えながらも頭を倒す。すると千切の口からはぁとため息が聞こえ、知里は肩を震わせる。
「別に、誤解されるのには慣れた。それに、どうせすぐに気づかれるような事だからそんな謝んな」
「す、すみません…」
謝んなって言ってる、と言い千切はそのまま食事へと戻ってしまう。知里は申し訳なくなるも潔と蜂楽が気を利かせてか席へと促される。先程のこともあり千切の隣には蜂楽が気遣ってか分からないが座り、潔と知里で座る。気まずい空気の中、知里はデリバリーロボットが持ってきた食事に手を伸ばす。
***
スレイヴの訓練は知里にとって想像以上に過酷なものだった。基礎トレーニングは、プランク1時間×2、腹筋×100、スプリント走×100、ランニングマシーン10kmと初日とは思えないほどのメニューであった。また、知里は元の世界でも運動は苦手な分類であったことから休憩時には手洗いに駆け込み嘔吐するほどのものであり途中ではスポドリさえも飲めず脱水症状を起こし、潔らに無理やり休まされるような状態であった。
「気分はどうだ?」
現在チームZがそれぞれトレーニングをする中、知里の様子を交代で診ており橙色の髪をした筋肉質な体躯をした彼、國神錬介はタオルを持ち覗き込む。
「大分……よくなりました………ありがとう、ございます、國神くん」
「おう……無理すんな」
國神はそう言うと知里の横に壁によりかかりながら座る。首にはタオルが掛けられ汗を吸ってか少し萎んでいる。しばらくすると國神が、なあ、と声を出し知里へと呼びかける。
「お前、ここがどんな場所かおおよそ話されたか?」
「え、あ……うん、ファンムアーブ外のアウトサイダーや危険区域の浄化をするスレイヴが集まった施設だとは……」
「まあ、だいたいそんな感じ……だが、そうか……やっぱりそこは伏せられてるな」
「え?」
國神はスポドリに口をつけて間を置きそして重そうな顔つきで口を開く。
「ここはなにも一般市民達や自分たちの故郷守るために入ったやつらの施設じゃねえ……「己が生き残るために入ってきているヤツらの巣窟だ」」
國神が告げた言葉がわからず彼の横顔をただ見つめることしか出来なかった。自分が生き残るため、というにはなぜ危険な場所にわざわざ飛び込むのだろうか、その矛盾が生まれる。
「これだけ言ってもたしかに納得できるわけねえだろう?だから、説明する。お前だけ知らないというのは正々堂々としてねえ」
そう言うと國神は淡々と聞かせた。この場所が一般市民を故郷を守るためなど正義感でできた施設ではないことを。
【単刀直入に言うとここはランキングで分けられてる。実力が上なスレイヴほど日常生活で贅沢できるようになっている。逆に実力が低いスレイヴは日常生活を最低限のものしか保証されない。生き地獄な状態だ。そして、これが1番スレイヴ達の生き残るというエゴを育てる原因でもある。「月1で出されるランキングで最下位に近い10名のスレイヴは、問答無用でいらない産物ということでアウトサイダー達を引きつける餌、つまりは囮として丸腰で危険区域に放り出される」スレイヴになるということは、それも覚悟の上でなっているってことだ。ランキングを付ける理由は、まず実力が可視化されることで部隊を組みやすくする。それに、実力が高いもの達を1部で集め精鋭部隊として組んでイカれた同胞を処理したりもするからな】
「イカれた同胞……?」
「敵は……なにも知性のないアウトサイダーだけじゃあねえ」
「え?敵って……人もいるってこと?」
おそるおそる問いかければ当たりとでも言うように國神の顔が歪む。
「ああ……ウイルスは世界をリセットするためにばら撒かれ、アウトサイダーは神の使いだとかほざきやがるカルト集団だ。そいつらの名前は、「テミス」秩序の女神の名前だがやっていることは秩序を壊してるに過ぎないけどな」
汚ぇ手しか使わない……俺はそいつらがいけ好かない。そういい持っていたスポドリの容器を無意識に潰す國神を見て震え上がる。アウトサイダーだけじゃなくて人とも戦わなければいけない時がくるのか、その時自分は戦えるのか……そう悶々と考えているとトレーニングルームのモニターの画面が起動し、絵心が映る。
「やあやあ、才能の原石共トレーニングは順調かい?」
「絵心……」
「ふざけんな、マジでこんなんで生き残ることできんのかよ」
「そうだよ!もっとちゃんと飯食いたい!」
小柄な少年、成早の言葉に知里は朝食を思い出す。目の前で食べていた潔と蜂楽の食事にあまりにも差があることに気づいていたが彼らが好んで食べているものだと思っていたが違うようだ。
「環境がクソなのは、お前らがよええからだろ。雑魚共、まあそれも次の訓練で変動するかもしれないから待て」
そう告げた絵心の横に文字が浮かび上がる。そこには、シュミレータートレーニング(模擬訓練)という文字だった。
「これからチーム内でシュミレータートレーニングをする」