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一方その頃、本拠地を含め地盤を引き払った三者連合が何処に潜んでいるか『暁』は様々な角度から情報を集めていた。
その三者連合の幹部達の姿は、十五番街にあった。『血塗られた戦旗』の支配地域である十五番街の路地裏にひっそりと存在する酒場『ブラッド』の地下に彼等は潜伏しているのである。
「戦車……ですか?あの鉄の箱。それまで港湾エリアに投入されました。倉庫群への更なる破壊工作は絶望的ですね」
ため息混じりに語るのは、荒波の歌声代表のヤン。唯一の堅気である。
「下手を打ったんじゃねぇのか?『暁』の奴等警戒してやがるぞ」
破壊工作に批判的な発言をするのはシダ・ファミリーを率いる大男、シダ。
「この程度は想定内だよ。彼等はまるで穴熊のように巣穴に籠ったんだ。主導権はまだこちらにある」
それに対して涼しげに返すのは初老の紳士、リンドバーグ・ファミリーを率いるリンドバーグである。
「けっ!どうだか」
「まあまあ。しかし、どうされるのですか?彼等に真正面から挑んだ組織は例外なく殲滅されていますよ?」
「そうだ。『黄昏』に籠られたら手を出せねぇ」
「一年前とは状況が違うよ。『エルダス・ファミリー』は正面から挑んで敗北した。しかし、今の『黄昏』の規模を考えてみたまえ。あれだけの賑わい、人や物の流通を止めることなど不可能だよ。当然付け入る隙が生まれる」
「なるほど、次は『黄昏』で破壊工作ですか」
「所詮は避難民等を集めた街だよ。安全じゃないと知れば、どれだけの住民が逃げ出すか見物じゃないか。まあ、見ていたまえ」
「流石です、リンドバーグさん」
「けっ……!」
三者連合は内側に不和を抱えながらも次なる手を打つべく暗躍を開始する。
同じ頃『黄昏』にある館の会議室でも簡単な会議が執り行われていた。
「先ずは紹介します。新しく仲間になってくれたマナミアさんです。仲良くしてください」
「うふふっ、よろしく」
「おっおう。また濃いのが来たなぁ」
「よろしく、マナミアの姉さん」
ベルモンドとルイスが代表して応じ、たの面々も黙礼する。
「さて、自己紹介は後回しにして今後の方針です。三者連合の次なる手は何だと思いますか?」
「引き続き破壊工作を行う腹かと。狙いはここでしょうな」
セレスティンがシャーリィの言葉に答える。
「俺も同感だ。まだネズミも捕まえて無ぇからな、その情報をもとに仕掛けてくるはずだ」
ラメルも続く。
「マクベスさん」
「はっ、現在警戒体制を厳としておりますが、破壊工作を完全に防ぐのは不可能かと。流通を止めれば可能ですが……それもまた不可能です」
「マクベスの言う通りだ。今さら人と物の出入りを止めることは出来ん。ワシらも大量の材料を仕入れとるんだ」
「こっちもよ。今流通を止めたら一気に赤字になるかもしれないわ」
ドルマン、マーサが反対する。
「前みたいに拠点に籠るって戦術は使えなくなったなぁ」
「新入りが多すぎて判断できねぇよ」
ベルモンド、ルイスも防諜の難しさを実感していた。
「となると、また受け身になるしかないと」
「それなんだが、少しばかり危険を冒せばネズミの正体を突き止められるかもしれねぇ」
「ラメルさん?」
「うちで倉庫の中身、それも出荷先を知ってるのは僅かだ。もう少し絞りたいから、そいつらに偽の通達を出すんだ。それに釣られて敵が動けばネズミを更に絞り込める」
「相手が工作に動きたくなるような情報じゃないと無理よ?」
マナミアがラメルに意見する。
「だからさ。怪しまれない程度に……な」
「問題はどんな情報を流すかだ。信憑性が薄いと警戒されるぜ?ラメルの旦那」
「そこは皆の知恵を借りたい。うちの『暁』ならではの怪しまれない偽情報を考えてくれ」
ラメルの言葉に一同頭を悩ませるが、それを断ち切ったのは今まで黙っていたシスターカテリナだった。
「……相手は前回の成功で味を占めているはず。狙うならば施設より人員。可能ならば幹部でしょう」
「そうね、暗殺は効果的だと思うわ。あの夜逃げた人達ならやれるでしょうね?」
カテリナの言葉にマナミアが応じた。
「……ならば簡単です。『暁』ならではの事情であり、怪しまれない方法があるではありませんか」
「シスター、それはなんですか?」
「……貴女ですよ、シャーリィ」
「私ですか?」
「ああ、なるほどな。お嬢はいつも突拍子もないことやるからなぁ」
「だな。シャーリィは何か閃くと作業小屋に閉じ籠るもんな」
「確かに外部の人間は知らない事情ですな。小屋に籠られたお嬢様のお世話は持ち回りですが」
「閉じ籠るとは心外ですね」
「なら籠城だな」
「へぇ、そんな悪癖があるのか。そいつを利用させてもらおうか」
「ならばそれっぽく見せるために、ワシも出入りするとしようか」
「賛成よ。シャーリィが籠ったらドルマンと悪巧みするのがいつもの流れだものね」
「悪巧みとは失礼な」
「無茶振りされるワシの気分を味わえ、嬢ちゃん」
「だが、またお嬢を危険に晒す事になるぞ」
「構いません。それにあの作業小屋にはちょっとした仕掛けがあるので私が傷付くことはありません。多分」
「多分かよ」
「まあ、取り敢えずその情報を疑わしい奴等に流してみる」
話が纏まり、偽情報を流すことが決定する。その時ふと気になったシャーリィは質問を飛ばす。
「時にラメルさん、その疑わしい者の所属は?」
「あー、気を悪くしないで欲しいんだが……」
どこか言い難そうにしているラメルだったが、マクベスを見て言葉を続ける。
「要注意人物として挙げたのは四人、全員港湾エリア警備隊の下士官だ」
一同が視線をマクベスへ向ける。
「周知の極みであります。まさか私の部下に工作員が潜り込んでいるとは」
「いや、いくらマクベスでも部下全員の把握など不可能だろう。ワシから見ても頑張っておるのは分かるからなぁ」
既に『暁』戦闘部隊は五百名を数えるほどとなり、マクベスは全体を掌握して細かい指揮は下士官教育を終えた下士官達に任せている。
「マクベスさん、貴方を責めるつもりはありません。マクベスさんは良くやってくれています。問題は潜り込んだスパイの人数ですね」
「四人全員なのか、一人なのか。まだそこまでは分からねぇ。だから今回の偽情報は極秘として時間差で四人に伝えていく予定だ。上手くいければ一人に絞り込めるからな」
「でもそのやり方だと複数だったとき別のスパイを取り逃がす可能性が出てくるわよ?」
「そこは、上手くやるつもりではあるが……最初の一人は一番怪しい奴だ。一年前に入隊してる。こいつ以外の三人は古参だからな」
マナミアの指摘にラメルも苦い顔をしながら答える。
「先ずは特定が最優先です。リナさん」
「はい、代表」
「警戒任務はそのままに、ラメルさんから教えられた四人をそれとなく監視してください」
「私達が、ですか」
「それは名案ね。まだまだ新入りの貴女達が研修と称して港湾エリアを出入りしても不思議じゃないわ。それに、私達は耳が良い。活躍の機会よ、リナ」
マーサが賛同して発破をかける。
「はいっ!微力を尽くします!」
「もう充分活躍してくれていますけどね。では今後の方針は決まりました。私は取り敢えず作業小屋に籠ります。折角なので試してみたいこともありましたし」
「あるのかよ、シャーリィ」
『暁』は三者連合のスパイ炙り出しのため策を練る。戦いは次の段階へと進もうとしていた。