[ 一 緒 に 戦 う ] ◀︎ 決定
⚠︎ 長尾 傷付きます 。 ⚠︎
…いや、僕は逃げない。景くんを放っておけない。1度深呼吸をして決意を固めると、景くんの肩をぽんと叩いて大丈夫だと伝える。神だろうと関係ない、晴くんの身を乗っ取った時点で敵だ。だから…、
「貴方を祓って拘束してから話を聞いてあげますよ。」
グイと晴くんの頬を片手で掴んで此方へ引き寄せ、嘲笑うような声色でそう告げる。隣に居る景くんも、掴んだ瞬間は驚くような顔を浮かべていたけど、僕の言葉でおぉ、とでも言うように少し笑っていた。
まぁ、勝てる自信がある訳じゃあないけど、こんくらい煽っといた方が乱れやすい筈。そんなことを考えていると晴くんの方から殺気に近い物を感じた。いや、煽りに耐性無さすぎない?なんて顔を引き攣らせては、掴んでいた手を離し彼へと1つ術式を放つ。…まぁそんな簡単にいかないわな。
避けられて小さく舌打ちを零すと、景くんも晴くんへ向かって刀を振り始める。大丈夫、冷静に見ていれば隙は必ず見つかる。静かに術式を張りながら、彼らの様子を伺う。…って、なんか晴くんくっそ顔色悪く見えるのは気の所為かな?
景くんは割と手加減してるように見える、傷付けないようにってのもあるだろうけど。…あ、そうか、晴くんの身体自体そんな体力もないから疲れてんのね。そう気付いて直ぐに思わず笑いを零してしまう。あーあ、晴くん流石〜、なんて考えながら、描いていた術式を晴くんの方へと放つ。動きが鈍くなるような物を。
それは見事に的中、晴くんはゔぅと顔を顰めながらゆっくりと動き出す。知ってる?晴くんは魔とか霊に取り憑かれやすいけど、その分術式とか催眠も掛かりやすいんだ。本質がそれだから思うように動けまい。
「景くん今祓える?」
「OK 任せろ!」
若干息を上げながらも頷いて元気良く返事をしてくれた彼。何だか安心出来る。景くんはすぐに術式を唱え始める、流石に切るのは抵抗があるらしい。にしても良かった、これで終わる。
もがき苦しむような素振りが晴くんから見える、その弱々しい声はいつもの彼を想像させて来た。でも現実の、今の晴くんはドス黒い霧のような物を出しながら苦しんでいる。…うわ、見てて不快だわなんか。そんな事を考えていた時だった。
「…ふん、動きにく過ぎる此奴。…御前、体借りるぞ。」
え、と小さく声を零す。晴くんから出ていた黒い霧が、急に大きくなびいて此方へ向かってきたから。その霧は一瞬狐のような形に見えて、何だこれと驚いた。本能的に理解出来るんだ、避けないといけないって。でもなんか動けなくて、ただ視界に迫ってくる霧を見るだけだった。
「…ッ藤士郎!!!」
景くんのその声が脳内に鳴り響く。そして我に帰った頃には、景くんが僕に抱き着いてて、でもそれはただ抱き着いてるんじゃなくて、僕を庇うように、上から覆い被さるように抱き着いて来ていた。景くんの胸元の服しか見えないから、初めは何が起きてるか分からなかった。でも、自分に魔が取り憑いた感覚もなければ、周りの気味悪い空気も少なくなってた。…なら消去法で分かるだろ、?
「景くん?!何やってんのバカ!!」
ガバッと顔を上げて、彼の表情を見る。…と、彼の灰色の瞳は、いつもよりも少し暗く染まり行っていた。嫌だ、景くんが乗っ取られたら取り戻せる自信がない。焦りだなんだで、頭が真っ白になって、また震え始めた。
「あー…落ち着け、まだ自我有るから、な?んで、早くハル連れて帰れ。」
「はぁ…??嫌に決まってんじゃん!待って今術式を…!!」
「大丈夫だって、絶対戻るから。」
彼のその声色はとても優しくて、逆に不安になる程だ。怖くて、辛くて、涙が溜まる感覚がしたが、今は無く時じゃないというのは分かってる。
「…分かったよ、うん、うん…。」
ぐっと涙を堪えて、噛み締めて、景くんから身を離して気を失っている晴くんを担ぐ。
…大丈夫、なんだよね、うん、大丈夫…。
不安がどうしても残って、景くんの方に視線を向けると、彼はいつも通りの笑顔で此方へ手を振っていた。…絶対、晴くんを寝かせたら戻って来るから、絶対。そう思いながら僕は家を後にした。
ー長尾視点ー
「…っぶねぇ、」
術式を唱えている途中、晴の方からすっげぇ低い声が聞こえて目を開いた時には、魔かと思われる霧が弦月へと向かっていた。今までに鍛え抜かれた反射神経で咄嗟に弦月を守れたから良かった物の、…今凄い気分が悪い。とりま2人を帰らせることには成功した。なんならまだ結界は張られてるから俺は家を出れない…。
「ん”ん…、俺ぁ晴ほどチョロくないんでねぇもうちょい抗いますよ神様ァ…、」
偶に頭がぐわんぐわんと回るような頭痛や目眩に襲われるが、意識を手放す程ではない。魔を祓う方法?そんなん1番手っ取り早いもんがあるじゃん。
自分を切れば良い。
術式を唱えても良いけど、その間に気を失ったら元も子もないし。死ぬ覚悟なんてとっくの前からあるしな。ま、取り敢えず切ってみりゃわかる。切れ目を入れる程度でも力は弱まるだろうしな。切断する必要はない。大丈夫。手袋を片手だけ外し、それを自分に噛ませながら刀を自分の脚へ向けて立てる。…視界が霞む、大丈夫だまだ染まり切ってない。
「ぐ… ッ ぅ” 、」
ザシュ 、と音を立てて右脚に切れ目を1つ、服に血が滲む、まぁ当たり前だが。ある意味拷問だよな、自分を傷付けるのが自分っつうのは。その痛みの効果もあって、少しだけ身が軽くなったように感じた。これは彼奴が弱まってるっつぅ事で大丈夫そ?
その後も、数箇所に切り傷を付けてたら殆ど魔の気配は薄まった。多少残ってそうだけど。
俺は大丈夫かって?…割とヤバイかもなぁ。今倒れ込んじゃってるもん。
血を流し過ぎたのが原因か、単なる疲労か分からんが、取り敢えずは危機、うん。
付けた切り傷は6ヶ所。脚に3つ腕2つ腹1つ。あんらまぁなんで腹に刺しちゃったのかしら、止血が難しい所だってのに。…まぁ意識も朦朧としてたからさ、許してくれよ。
苦笑混じりにそんなことを考えながら、途切れ途切れに意識を保つ。やっぱ未練が多すぎて死ねないからな。あー…でも、もうねみぃや、駄目かも。
ゆっくりと降り行く瞼。それはとても重くて、目を開ける事は殆ど不可能と言っても過言ではない。その時に聞こえた気がした誰かの声、あぇ、誰だ…?
「____く__!!血_____い___顔色が____んで ッ !!。」
揺さぶんなよ…傷が痛むって、な、何て言ってんだ…??
意識は薄まるばかりだが、その中で1つ感じた。何となくだけど、いつもの2人の香りを。
「ぁー…はるぅ…とーじろぉじゃん、逃げろって…俺言った、んだけど…」
言葉をぽつりゝと並べる途中で、俺は意識を失った。
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[ B A D E N D ]
3 必要な 犠牲
( 大怪我負っただけなんで亡くなってはいません。 )
次 回 、
[ 逃 げ る 。 ] を選んだ場合 。
このBADENDの続きは暇になった時に描こうと思います。
コメント
2件
続きありがとうございます!!!!! 今更言うのもなんですが文章力(?)がすごいですねー!日本語が上手いというか、語彙力があるというか… とにかく憧れます(๑•̀ㅁ•́๑)✧