テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
kaede🍁
8,845
おその★
23,401
#❤️💙
みら

13,722
寝室のドアを静かに開ける。
ベッドへ目を向けた瞬間、目黒は足を止めた。
阿部はいつの間にか目を覚ましていた。
熱で少し潤んだ瞳が、まっすぐ目黒を見つめている。
「ごめんね。」
第一声は謝罪だった。
「心配かけちゃったね。」
苦しそうに笑うその顔が痛々しい。
少し間を置いて、阿部は続ける。
「もう遅い時間だから。」
「帰っていいよ。」
「今日はありがとう。」
目黒は何も答えなかった。
ゆっくりとベッドへ近付き、そっと抱きしめた。
「……!」
阿部の体が小さく震える。
「ちょ、ちょっと。」
「めめ。」
「どうしたの。」
熱のある体は思っていたより細く、頼りなかった。
この人はいつも、一人で抱え込んでいた。
苦しいことも。
辛いことも。
好きという気持ちまで。
目黒は腕へ少しだけ力を込める。
「あべちゃん。」
震える声で名前を呼んだ。
「俺。」
「守りたい。」
阿部は何も言わない。
「誰にも言わない。」
「誰にも気付かれないようにする。」
「あべちゃんが大事にしてるものは全部守る。」
「だから。」
「ずっと一緒にいて。」
「お願い。」
その声は、今にも泣き出しそうだった。
阿部は少しだけ困ったように笑う。
「……めめ。」
「熱につけ込んでるの?」
目黒は少しだけ顔を上げる。
涙で目が赤くなっていた。
「もう。」
「つけ込んでてもいい。」
「それくらい。」
「もう我慢できない。」
阿部は、その目を見て気付いた。
その涙の理由を。
その必死さの理由を。
そして。
リビングに置いたままだった、あの日記のことを。
「……読んじゃった?」
目黒は逃げなかった。
静かに頷く。
「ごめん。」
「見るつもりじゃなかった。」
「でも。」
「開いたら俺の名前が見えて。」
「止まれなかった。」
「本当にごめん。」
阿部はしばらく黙っていた。
怒られる。
そう思った。
人の日記を勝手に読むなんて、許されることではない。
目黒は覚悟していた。
けれど。
阿部は怒らなかった。
小さくため息をつくと、ゆっくり腕を伸ばした。
そして。
今度は阿部の方から、目黒を抱きしめる。
「……!」
目黒は驚いて息を呑む。
「ずるいなぁ。」
阿部は苦笑した。
「全部知られちゃった。」
「隠すの、結構頑張ってたのに。」
目黒は何も言えない。
阿部は目を閉じたまま、小さく笑う。
「本当は。」
「好きだった。」
「ずっと。」
「でも。」
「めめの未来を壊したくなくて。」
「付き合いたくなかった。」
目黒の肩が震える。
阿部は背中を優しく叩いた。
「泣きすぎ。」
「ごめん……。」
「謝らなくていいよ。」
少しだけ沈黙が流れる。
その静かな時間のあと。
阿部はゆっくりと息を吐いた。
「……わかったよ。」
目黒が顔を上げる。
阿部は照れくさそうに笑った。
「もう。」
「折れたよ。」
その一言だけだった。
それなのに。
目黒の世界は一瞬で変わった。
「本当に?」
声が震える。
阿部は小さく頷く。
「約束したでしょ。」
「俺が折れたら。」
「付き合うって。」
目黒はもう涙を止められなかった。
阿部も笑いながら目元をこする。
「そんなに泣く?」
「だって……。」
目黒は笑いながら泣いていた。
「やっと。」
「やっと届いた。」
阿部は少し照れながら、その涙を指先で拭う。
「今日だけだからね。」
「こんなに泣いてるめめ見るの。」
目黒は何度も頷いた。
「あべちゃん。」
「うん?」
「好き。」
今度は冗談ではない。
逃げ道もない。
恋人として伝える、初めての言葉だった。
阿部は照れくさそうに笑って、小さく返す。
「……俺も。」
「好きだよ。」
熱で赤くなった頬のまま交わされたその言葉は、目黒が長い間待ち続けた、たった一つの答えだった。
___________
「――っていう感じ。」
目黒が話し終えると、個室にはしばらく沈黙が流れた。
向かいに座っていた佐久間は、完全に箸を止めている。
「……長。」
「だから長いって言ったじゃん。」
目黒は笑いながら、残っていた酒を一口飲んだ。
昔のことを思い出したのは、久しぶりだった。
今思えば、全部懐かしい。
あの頃は一日一日が本当に長かった。
明日こそ振り向いてくれるかもしれない。
でも、永遠に振り向いてくれないかもしれない。
そんなことばかり考えていた。
佐久間が呆れたように目黒を見る。
「いや。」
「あべちゃんもあべちゃんじゃん。」
「最初から好きだったんでしょ?」
「そう。」
目黒は苦笑する。
「それなのに、ずっと隠してた。」
「厄介だね。」
「本当に厄介だった。」
二人で笑う。
けれど目黒の表情は、すぐに穏やかなものへ変わった。
「でも。」
「あべちゃんらしいんだよね。」
「自分が幸せになるより先に、俺とかメンバーのこと考えちゃうから。」
佐久間も少しだけ表情を柔らかくする。
「まあね。」
「あべちゃん、そういうところある。」
「うん。」
だからこそ。
自分が諦めなくてよかったと思う。
もし途中で諦めていたら。
今の二人はなかった。
目黒はスマートフォンを取り出した。
時刻を見る。
「そろそろ帰ろうかな。」
「えー、まだいいじゃん。」
「明日早い。」
そう言いながら画面を見ると、阿部からメッセージが届いていた。
『まだ飲んでる?』
それだけ。
目黒は自然と笑ってしまう。
『もう帰る。』
すぐに返事をする。
少しすると、
『気をつけて帰ってきてね。』
短い返信が届いた。
目黒はしばらくその文字を見つめていた。
「何にやけてんの?」
佐久間が笑う。
「別に。」
「あべちゃんでしょ。」
「うん。」
もう隠す必要のない相手には、素直に答えた。
佐久間は呆れたように笑う。
「付き合って何年経ってんだよ。」
「関係ない。」
目黒はスマートフォンをしまう。
何年経っても。
あべちゃんから連絡が来れば嬉しい。
名前を呼ばれれば嬉しい。
隣にいてくれるだけで嬉しい。
あの頃、欲しくて仕方がなかったものが、今では当たり前のようにそばにある。
でも。
当たり前だと思ったことは、一度もなかった。
___________
店を出る。
佐久間と別れ、目黒は一人で帰路についた。
夜風に当たりながら、また昔のことを思い出す。
――何年かけても絶対諦めない。
――覚悟してね。
あの日の自分に教えてあげたい。
大丈夫。
ちゃんと振り向いてもらえる。
時間はかかるけれど。
その人はいつか、自分から抱きしめ返してくれる。
そして。
一度手に入れたその幸せは、あの頃に想像していたよりずっと温かい。
___________
家へ帰ると、リビングの明かりがついていた。
「ただいま。」
「おかえり。」
ソファに座っていた阿部が振り返る。
その顔を見ただけで、目黒は笑った。
「何?」
「いや。」
靴を脱ぎ、阿部の隣へ座る。
「今日、佐久間くんに聞かれた。」
「何を?」
「俺たちがどうやって付き合ったのか。」
阿部の表情が固まる。
「……どこまで話したの?」
「ほとんど全部。」
「えぇ……。」
阿部は恥ずかしそうに顔を覆った。
「最悪。」
「いいじゃん。」
「佐久間くん、今さら驚かないよ。」
「そういう問題じゃない。」
目黒は笑いながら、その肩へ寄りかかる。
阿部は少し呆れながらも、離れなかった。
「そういえば。」
目黒が呟く。
「何?」
「あべちゃん。」
「うん。」
「俺に折れてくれてありがとう。」
阿部は一瞬きょとんとする。
そして、昔と同じ困ったような顔で笑った。
「急に何。」
「言いたくなっただけ。」
阿部は少し考えてから、目黒の肩へ頭を預ける。
「俺も。」
「諦めないでくれてありがとう。」
目黒は何も答えず、その手を握った。
昔は、触れるだけでも特別だった手。
今は自然に握ることができる。
阿部も当たり前のように握り返してくれる。
それだけで十分だった。
何年経っても。
きっと、この人を好きになったあの頃の気持ちは忘れない。
隣にいられることが嬉しくて。
名前を呼んでもらえるだけで幸せで。
少し近付けただけで眠れなくなるほど喜んだ。
長くて、苦しくて。
それでも諦められなかった初めての恋。
その恋は今も。
目黒の一番近くで、静かに続いている。
コメント
6件

今晩は⭐️ 一気に読みました。 良いですね。ウルウル🥹来てしまいました。 日記に残してるのが素敵💓 読まれて恥ずかしくなり折れてしまう。 お互いが1番に相手の事に気がつく やっぱり良いですね🖤💚尊い1番です
🖤諦めないでくれてよかった… 💚は昔からやっぱり、自分の事は後回しで、🖤やグループの幸せを1番に思ってる…🥹 🖤💚も、2人が大切に思っている人達も、ずっと幸せでいて欲しい(*˘︶˘*).。*♡