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「おいお前、大丈夫か?」
どこかのアイドルグループにでもいそうな程に整った顔立ち。長髪。そして、悪い目付き。そのような恵まれた容姿をした男性が自転車に跨ったまま声をかけてくれた。
しかし、『恵まれた』とはいっても一見すると怖そうな人に見える。目付きの悪さのせいで。いつもそれが原因で誤解されていそうだなあ、というのが彼に関して抱いた私の第一印象だった。
でも、この外見って、華ちゃんが今朝言っていた人と特徴が似ているな。たぶん偶然だろうけど。
が、今はそんなことを考えている場合ではない。心配して声をかけてくれたんだ。お礼を言いたい。皆んなが皆んな冷たく素通りする中で、横転した私を気遣ってくれたことに対して。
「は、はい。大丈夫です。血も出てないみたいですから。心配して声をかけてくれて本当にありがとうございます」
そう言うと、男性は自転車から降りて私に近付く。そして、強くぶつけた箇所を軽く触ってきた。
しかし、間近で見ると改めて思う。本当に整っていて端正な顔立ちだな。きっとモテモテだろう。顔が良いからと簡単に恋をする女子は多い。
一番大切な、その人の中身を見ずに。
「だいぶ腫れてるな」
「は、はい。でも大丈夫ですよ。出血してるわけじゃないですし心配な――」
「逆だ」
男性は少しだけ眉をひそめた。
「血が出てた方がまだマシだ。頭の中では出血してるかもしれねえ。それに頭を強く打ったことに変わりはねえ。後になって何かあるかもしれねえから、念のためにちゃんと検査してもらえ」
「え? 検査ですか? 必要ないと思いますけど」
私の言葉を無視するかのように、男性は再度自転車に跨った。そのまま帰ってしまうのだろうと思っていた。
しかし、違った。
「乗れ」
「お前、日本語が通じねえのか? 俺の自転車にだよ」
「いえ、あの……。お言葉ですが、自転車の二人乗りは校則違反になてしまうので……」」
「知るかよそんなこと。その校則は俺が決めたわけじゃね。だから守る気なんかさらさらねえよ」
会話を交わしていてなんとなく気付いてはいたけど、この人やたらと言葉遣いが荒いな。しかも校則を守る気がないとか……。もしかして、いわゆる不良ってやつなのか?
頭の中が上手く整理できない。優しい人なのか、悪い人なのか。私の心の糸が絡まって解けない。
「す、すみません。さすがにそれはちょっと……」
「早くしろ。時間がねえぞ」
そして、男性は言葉を紡ぎ続けた。
「あと、自転車は諦めろ。フレームが完全に曲がってたから使い物にならねえ。これじゃあ修理の方が高くつく」
「えっと……でも、それだと防犯登録から私が自転車を放置したことになって警察が連絡してくるんじゃ?」
「後で俺が処分しておいてやる。それで少しは安心したか? だから乗れ。さっき言った通り時間がねえ」
「い、いえ、あの。私、学校に大切な物を忘れてきちゃいまして。なので病院よりも、できればそこまで送ってもらえると嬉しいんですが」
「忘れ物? なんだよそれ。明日でいいじゃねえか」
「それがですね。すっごく貴重な物を忘れてきちゃいまして。盗まれたら大変なので。『透明なブルーは美しく』って小説なんですが」
そのタイトルを耳にした途端、男性はただでさえ大きな目をより見開き、私の力強く肩に置いた。い、痛いんだけど。
「おいお前! それをどこで手に入れた! 古本屋か!? ネットでか!? 家族が持っていたのか!? 出版差し止めになったせいもあって電子書籍ではないはずだよな!? ということは紙か!? 紙媒体なんだな!? なんでそんな貴重な物を学校に忘れるんだよ馬鹿野郎!!」
ビックリした。さっきまでのクールさが一切消え失せ、今はお誕生日プレゼントを贈られた少年のように目を輝かせている。まるで別人だ。
しかし、ここまで興奮して食いついてくるとは。そんな人そうそういな――あ、いや、私もそうか。
もしかして、同類?
「……ごほん。すまない、取り乱した。ちなみにどこに忘れて帰ったのか見当は付いてるのか?」
「はい。机の中です。盗まれてなければ……」
「なんて適当な扱いをしてんだよ! 本当に盗まれたらどうす――いや、なんでもない」
やっぱり私と同類だな。それにしても、クール気取ってた時よりも、今の彼の方がずっと素敵だ。
何かに夢中になっている人間は誰だってそうだけど。でも、それ以外にも言葉にできない魅力を感じる。それが何なのか、今の私には分からないけど。
だけど確信した。
この人は悪い人ではないと。
いい人かどうかはまだ保留。私は意外と警戒心が強いのだ。そういう性分なんだ。
「お前、制服からして俺と同じ高校だよな? 襟の色からだと一年か。後で探しに行ってやるから何組でどこの席なのか自転車に乗りながら教えろ。後で取りに行ってやる」
「と、盗りに!?」
「お前今、盗むという意味で『盗りに』って言っただろ」
「い、いえ。まさかそんな。滅相もない」
と、言いながら目が泳ぎまくっていると感じた私である。昔から嘘を付くのが苦手なんだよなあ。
「おいお前。目が泳ぎまくってるぞ。金魚の大群みたいにな」
ほらね、やっぱり。
しかし、何故に金魚に例えるかな……。ちょっと面白いと思っちゃったじゃん。
「すみません……」
「構わねえよ。誤解されるのなんて慣れっこだからな」
「あ、あの……お名前を訊いてもいいですか? 私は祖月輪優子といいます」
この後、この人が名乗った名前を聞いて、またひとつ確信した。
この人との出逢いは運命であったということを。
「俺の名前? ……まあいいか。|仁。黒宮仁だ」
今朝、華ちゃんが言っていた『黒宮先輩』だったからだ。
【続く】
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