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「あなたが黒宮仁さん……」
少し――いや、かなり驚いた。今朝方、華ちゃんが言っていた人物と今日の今日で出逢うとは。もしかして私の縁結びの能力って、私自身にも何かしらの影響を与えているのだろうか。
でもそれだと婆ちゃんが言っていたことが間違えであったということになる。だからそれはないはず、なんだけど……。
「なんだボーッとして。それと、どうして俺の名前を知ってんだ?」
「あ、いえ。ちょうど今朝、友達が黒宮さんの話をしていまして。それだけなのでお気になさらず」
「俺の話ねえ。どうせくだらない噂話でも聞いたんだろ。例えば、俺が悪い奴だとか何だとか」
う……鋭い。言わない方が良かったか。でも口ぶりからして、自分で言っていたように慣れている感がすごく伝わってくる。平然としているし。たぶん日々、色々と誤解されているんだろう。目付きの悪さと口の悪さのせいで。でも、本当に悪い人だったらまずそんなことは口にしない。絶対に。
もし本当に性悪な人間であれば、ひた隠しにするか、嘘をついて隠そうとするはずだから。
「まあ、事情は分かった。とりあえず俺の自転車の後ろに乗れ。まずは病院まで連れて行ってやる。それともまた校則がなんたらとか言うつもりか?」
「い、いえ。言いません。本当にありがとうございます」
私はちょっとの罪悪感を覚えながら、黒宮さんの自転車の後部座席に乗らせてもらった。まあ、もうすっかり日が沈みかけているから人通りもだいぶ減っている。誰かに見られたりはそうそうしないだろう。
「しっかり俺にしがみついてろよ。さっき言った通り時間がねえからスピードを上げるからな。思い切り飛ばすから振り落とされんじゃねえぞ」
「わ、分かりました」
私は黒宮さんの腰に手を回した。男性の体に触れたことがなかったから知らなかった。こんなにも背中が広いということを。
そして伝わってくる。黒宮さんの体温と優しさが。
が、そんなことは一瞬で忘れてしまった、いや、違う。忘れたのではなく、感じる余裕がなくなったのだ。
あまりのスピードに。
「ギャアアーーーーー!!!!!」
速い。速すぎる。まるでジェットコースターだ。飛ばすとは言っていたけど、いくらなんでも限度というものがある。加減というものを知らないのかこの人は。
「大きな声で叫んでんじゃねえよ。うるせえな」
「いや、叫びますって! 怖すぎますよ! もっとゆっくり漕いでください!」
「さっきから言ってんだろ。時間がねえんだよ。ここら辺の病院はもう閉まってんだ。だからちょっと遠いが、そこそこ大きな病院だからまだやってんだよ。とはいえ、急がねえとさすがにそこも閉まっちまう。だから飛ばす。このままな」
そこまで考えてくれていたんだ。なのにどうして華ちゃんが言っていたような悪い噂が流れたりしたんだろう。こんなにも人のことを考え、その上思慮深く、優しい心の持ち主なのに。
そんな疑問が、私の頭の上にクエスチョンマークとしてぽんぽんと浮かんだ。自転車から振り落とされないように黒宮さんにしっかりと掴まりしながら。そして、そのスピードの速さに恐怖を覚えながら。
しかし、自転車の後部座席って、こんなにも怖いものだったんだ。お尻は痛いし、不安定だし。
別にそんなこと、知ったところで私の人生において何の役にも立たないけど。
【続く】
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