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勇ましい轟音を響かせて、マークIV戦車四両は意気揚々と出撃。斜面を登り始め、高台の頂きにある砲兵陣地へ突撃を開始する。
「なんだありゃあ!?」
「戦車って奴じゃねぇのか!?」
「くそっ!どこに隠れてやがった!?」
「大砲の向きを変えろ!あの鉄の化け物を狙うんだ!早くしろーっ!!」
突如現れた戦車隊を前に傭兵達は大混乱に陥った。昨晩夜襲を撃退したと思っていたら、まさか夜明けと共に奇襲されるとは思ってもいなかったためである。
彼らは直ぐにM1917C 155mm榴弾砲の向きを変えるべく奮闘する。
「撃て撃て!あの化け物を近付けるなぁ!」
傭兵達が一斉に小銃による射撃を開始する。だが撃ち出された銃弾はマークIVの装甲に阻まれて空しく弾かれていく。張り巡らされた装甲は銃弾を防ぐ程度造作もないことである。
「このまま進め!敵の歩兵は無視しろ!目標は大砲のみだ!」
覗き窓から目標を睨み据え、ハインツが叫ぶ。相変わらず通信機の類いはないが、長年の訓練による連携で四両は広く展開しながら遮二無二傾斜を登っていく。
頂からは絶え間なく銃弾が降り注ぐがそれをものともせずに突き進む戦車に、傭兵達は戦慄した。だが、彼らも反撃を開始した。
「撃て!撃てーっ!!あの化け物を木っ端微塵にしてやれ!」
向きを変えて戦車隊に砲口を向けたM1917C 155mm榴弾砲二門が一斉に火を吹く。巨砲から撃ち出された砲弾は大気を切り裂きながら直進。戦車隊の周辺で二度の大爆発を引き起こした。
直撃を避けることはできたが、爆風は車体に凄まじい振動を伝え、飛び散った破片が装甲に当たり鈍い音を響かせた。
「たっ!隊長!敵が砲撃してきました!あの威力は!味方の砲兵隊を上回ります!」
「怯むな!優れているならば、尚更あんなものを残したまま決戦を行うわけにはいかん!各車前進!このまま突き進むぞ!」
後方に備えられた窓から旗を降り、他の戦車に合図を送ると四両は進撃速度を更に速めた。
牽制のため戦車砲による砲撃を行うが、仰角が足りず砲兵陣地周辺に着弾。傭兵達を吹き飛ばしてはいるが肝心の大砲にはまだ攻撃が届かなかった。
双方は逸る気持ちを抑えながら攻防を続ける。傭兵側は接近させまいと砲撃を行い、戦車隊もまた一刻も早く登るため全速力で駆け上がっていた。
「なにをしてやがる!?早く当てろ!」
「出来るだけ急いでるんだよ!」
傭兵側の砲撃は装填時間も長かったが、それでも砲撃を継続していた。
そして、いよいよ戦車隊が目前に迫ったとき。『血塗られた戦旗』に幸運が舞い込む。
撃ち出された四度目の砲撃。一発は外れて戦車隊の後方で炸裂。だがもう一発が突き進むマークIV戦車の三号車を捉えた。
一直線に飛来した砲弾はマークIVの装甲を貫き、大爆発を引き起こした。
「隊長ぉ!三号車が!」
覗き窓から見えるのは、炎上して停車した三号車であった。一瞬表情を歪めるも、ハインツは直ぐに前を向く。
「前を向け!照準!良いな!?砲撃開始!」
それと同時に戦車隊も砲撃を開始する。三両から放たれる砲弾は砲兵陣地内に着弾し、傭兵たちを吹き飛ばしていく。
「このまま蹂躙せよ!破壊を最優先とする!」
そのまま戦車隊は速度を下げずに砲兵陣地内へ乗り入れ、縦横無尽に走り回る。陣地内にある全ての物や人を遠慮無く踏み潰していく。また戦車砲を撃ち、各銃座からも射撃を加えた。
尚、オリジナルのマークIV戦車には機関銃が複数装備されているが、機関銃は歩兵隊へ優先して配備されるため銃座から乗組員が小銃で攻撃を行うのである。
また、当初は敵の大砲を鹵獲することも検討されていたが破壊することが最善とハインツは判断。文字通り蹂躙を選んだ。
戦車隊は縦横無尽に陣地内を走り回る。
「前方に目標ーっ!!」
「そのまま踏み潰せーっ!!」
「にっ、逃げろーっ!!」
一気に加速した一号車はそのまま陣地内に横並びに配置されていたM1917C 155mm榴弾砲に乗り上げて文字通り踏み潰した。鉄が踏み潰される鈍い音が周囲に響き渡り、それを見た傭兵達はばらばらになって逃げ始めた。
「追撃はするな!破壊することを最優先にするんだ!」
逃げ惑う傭兵たちを無視して陣地内に設置された武器類の破壊を優先した。だが、集積されている砲弾についてはそのままにした。
敵が居なくなったことを確認した戦車隊は、武装したまま戦車から降りて周囲を確認する。
真夏の車内は鉄火場に匹敵する暑さを誇り、各自車外に出て身体を冷やす。
ハインツは後方へ視線を向けた。そこには正面に大穴が開き炎上している三号車が擱坐していた。
「あれでは……とても助かりますまい」
「ああ……犠牲を出してしまったな。責任は私が取る。葬ってやりたいが、それは後回しだ。引き継ぎを済ませたら、直ぐに『黄昏』へ向かうぞ!」
逃げ出した傭兵達は昨晩から周辺に潜伏していた『猟兵』が次々と討ち取っていくが、全員を始末することは不可能であり、少なくない数が逃げ延びることとなる。
「リナ、深追いはダメよ。ある程度取り逃がすのは想定内だから」
「分かりました、姉さん。皆!戦車隊と合流するわよ!」
『猟兵』と合流した戦車隊は鹵獲した大量の砲弾を引き渡し、そのまま全速力で『黄昏』へ向かう。
「各員乗車!直ぐに戻るぞ!」
戦車隊は犠牲を払いながらも懸念であった大砲の破壊に成功する。奇しくも帝国で初めて戦車が戦闘で失われた事となり、多くの戦訓を『暁』に遺すこととなる。
『黄昏』西部陣地では砲撃が止んだことを確認。無事に戦車隊が強襲に成功したことを確信した。
「作戦通りに攻撃できたみたいですね、マクベスさん」
「はっ、後はハインツ達の働きに期待する他ありませぬ。それに、我々とて余裕があるわけではありませんからな」
マクベスの視線の先には、地平線を埋め尽くすように展開する『血塗られた戦旗』本隊が二両のFT-17戦車を先頭に押し立ててゆっくりと迫ってくる様子が見えた。
『暁』からの砲撃を警戒しているのか広く分散していた。
「先日の戦いで確認された仮称装甲車も複数確認できます。少なくとも十台以上はあります」
鉄板を張り巡らせた馬車も十台以上確認され、『血塗られた戦旗』が支援を受けた成果を見せ付けられた。
単純な戦力は『血塗られた戦旗』が圧倒しており、苦戦が予想された。
「後は、こちらが追い込むだけです。策が上手く行けば味方の圧勝。そうでなければ、滅亡ですか」
「その割には楽しそうだな?お嬢」
「ええ、もちろんです。此処で勝利して私達は更なる躍進を図ります。ここで立ち止まる訳にはいきませんから」
四倍の大軍を前に、シャーリィは満面の笑みを浮かべる。対に決戦の火蓋が切って落とされた。