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はいこんちゃ~
銀八先生が後3話で終わるって事が信じられない夜空キコです
今回も僕の大好きなChatGPT君に宝石の国パロを作らせたのでバラまいていきます
{注意}
{ChatGPTが作った奴だから口調が違うかも「出来るだけ直したけど」}
{宝石の国パロが含まれるよ}
先ずは設定
銀魂 × 宝石の国 パロ設定
キャラ一覧(宝石+硬度)
坂田銀時:ムーンストーン(しなやかで光の加減で色が変わる。脆いが折れにくい芯の強さ)硬度:6〜6.5
志村新八:ブルーアパタイト(青色。硬度はやや低めで脆さもあるが、誠実でまっすぐな光を持つ)硬度:5
神楽:カーネリアン(赤橙色。硬度は中程度で扱いやすく、生命力と戦闘向きのしなやかな強さを持つ)硬度:6.5〜7
桂小太郎:ペリドット(明るい黄緑色。穏やかだが芯が強く、柔軟性と反逆精神を合わせ持つ)硬度:6.5〜7
高杉晋助:ロードライトガーネット(赤紫色。激情・破壊性と繊細さを併せ持つ不安定な輝き)硬度:6.5〜7.5
坂本辰馬:パパラチアサファイア(ピンク寄りの橙赤色。華やかで陽気、冒険心と幸運を呼ぶ輝き)硬度:9
松陽先生:ホワイトオパール(多色性・包容力・神秘性)硬度:5.5〜6.5
土方十四郎:ブラックダイヤモンド(圧倒的硬度、冷静沈着だが内に強い熱)硬度:10
沖田総悟:ピンクスピネル(薄い赤〜桃色。可愛らしい外見に反して鋭さと攻撃性を秘める、二面性の石)硬度:8
近藤勲:タイガーアイ(茶金色。誠実で頼れる守護石。意外と頑丈)硬度:6.5〜7
山崎退:スモーキークォーツ(茶灰色。地味に見えるが安定性と粘り強さが高い)硬度:7
たま:グリーントルマリン(深い緑色。優しく安定したエネルギーを持ち、芯のある強さを宿す)硬度:7〜7.5
志村妙:モルガナイト(柔らかいピンク色。優しさと芯の強さ、包容力)硬度:7.5〜8
柳生九兵衛:ブルージルコン(暗い青の強い輝き。高い硬度と鋭い二面性)硬度:7.5
月詠:イエローサファイア(黄金寄りの黄色。強さと慈しみ、内に秘めた情熱)硬度:9
猿飛あやめ:ライトアメジスト(薄い紫色。軽やかな色味ながら感情が暴走しやすい一面を持つ)硬度:7
服部全蔵:サファイア(紺色。冷静沈着な忍、硬度と集中力の象徴)硬度:9
来島また子:ローズクォーツ(柔らかいピンク色。恋と情熱に一直線な性格と相性抜群)硬度:7
河上万斉:アクアマリン(淡い青色。静かな冷徹さと音を研ぎ澄ますような透明感)硬度:7.5〜8
岡田似蔵:グリーントルマリン(深緑色。冷静で鋭い斬撃、静かな狂気と執念を宿す石)硬度:7〜7.5
武市変平太:イエロージャスパー(黄土色。地味に見えて頑固で策略家な性質)硬度:6.5〜7
神威:ライトレッドスピネル(淡い赤色。無邪気さの奥に潜む破壊衝動と圧倒的戦闘力)硬度:8
阿伏兎:ダークガーネット(暗い赤色。豪胆さと血のような深い忠義)硬度:6.5〜7.5
陸奥:チャロアイト(紫系。強い意志と判断力、混乱の中でも冷静に航路を切り開く宝石)硬度:5〜6
銀魂 × 宝石の国 パロ設定:役割分担
役割割り当て
医療(1)
月詠(イエローサファイア):強さと優しさを併せ持ち、冷静に処置できる。
戦略計画(2)
土方十四郎(ブラックダイヤモンド):冷静沈着な判断力と分析力で戦略立案に最適。
近藤勲(タイガーアイ):誠実で安定した判断が計画に向く。
服飾織物(1)
志村妙(モルガナイト):丁寧で繊細、衣類作りや織物に向いている性質。
意匠工芸(2)
たま:精密作業と繊細な造形が得意で意匠工芸に最適。
武市変平太:理論派で細部へのこだわりが強く、工芸品の意匠設計に向く。
武器作成(1)
岡田似蔵(グリーントルマリン):斬撃に特化した精密さから武器制作の適性が高い。
**見回り
坂田銀時 × 桂小太郎:自然体同士のゆるい見回りだが意外と強い。
志村新八 × 神楽:ツッコミと暴走でバランスが取れている(?)。
高杉晋助 × 河上万斉:無言でも通じ合う危険な精鋭ペア。
沖田総悟 × 山崎退:沖田に振り回される山崎、だが機動力は高い。
柳生九兵衛 ×島また子:静と動、緊張と崩壊のバランスで意外と強い。
猿飛あやめ × 服部全蔵来:スピード重視の機動型ペア。
神威 × 阿伏兎:最強火力と最強ボディーガードの安心感。
陸奥 × 坂本辰馬(巡回時のみ合流):宇宙組の安定した連携。
陽光が砕けたガラスのように地表へ降り注ぐ世界。人の姿をしていながら肉ではなく宝石でできた身体――彼らは、光と闇の狭間を生きる戦士たち。
朝の見回りは、坂田銀時と桂小太郎の番だった。
「今日もヒマだなぁ、桂」
銀時は背中に月光を受け、ムーンストーン特有の淡い青がかった輝きをきらりと揺らす。光の加減で表情の色が変わるのは、彼の宝石としての特性でもあった。
「平和なのは良いことだ。……ただ、油断はできない」
ペリドットの桂は、淡い緑の身体を通して光が透けて見える。穏やかな色合いの奥に、変わらぬ芯の強さが宿っていた。
そんな二人の歩調はゆるい。だが、宝石たちの中でも経験値の高い二人の警戒は、常に一定以上の鋭さを保っている。
遠くで甲高い声が響いた。
「待てコラァァァ!!!」
砂煙を上げて駆けてくるのは神楽。その後ろを、息を切らしながらついてくる新八が追う。
「だから暴走しないでって言ってるでしょう神楽ァァ!!」
カーネリアンの神楽は、光を受けるたび橙赤の身体が炎のように揺らめく。それを追いかけるブルーアパタイトの新八の青は、焦りでさらに明るさを増していた。
「おーおー、今日も元気だなァあいつら」
銀時が言いながらあくびをした瞬間、空気が震えた。
桂が即座に刀を抜く。
「……来るぞ」
空に、月の欠片のような輝き。薄い青白い光を帯びた”月人”が姿を見せた。
銀時の目が細く光る。
「やれやれ……平和って言葉、返して欲しいかもな」
月人の気配が広がるより少し前――戦略計画室では、土方十四郎が地図の上で指を滑らせていた。
ブラックダイヤモンドである彼の身体は、光を吸い込んだように深く、硬度10の重みが空気を引き締める。
「この区域……最近また光の濃度が上がってきてやがる」
近藤勲が頷く。
「見回り組を再編した方がいいかもしれん。特に銀時君たちの領域は……」
その時、部屋の戸が勢いよく開いた。
「土方さん! 月人の反応が複数確認されました!」
山崎が声を上げる。スモーキークォーツの落ち着いた輝きが、焦りでわずかに濁っていた。
土方はすぐに立ち上がる。刀を手にしながら、冷静な声で命じる。
「総悟、山崎、現場へ向かうぞ」
「了解っす」
ピンクスピネルの沖田が、薄桃の身体に笑みを浮かべた。可愛らしさと鋭さが同居した光が、戦闘への高揚を隠さない。
「久しぶりの遊びですねぇ、副長」
「仕事だバカ」
銀時・桂ペア、新八・神楽ペアが月人を迎撃している最中――
その背後に、土方・沖田・山崎の真選組見回り班が駆け込んできた。
「銀時ィ! 状況を報告しろ!」
土方の声が響く。その鋭さに、戦場の空気がさらに引き締まった。
銀時は月人を弾き飛ばしながら振り返る。
「見ての通りってやつだ。数が多すぎて、こっちの処理が追いつかねぇ」
桂も矢を弾き返しつつ簡潔に続ける。
「月人の出現地点が不自然に集中している。通常の巡回コースを外れている可能性が高い」
新八が息を整えながら報告を加える。
「あと! さっきから大型の影が遠方で見えて……距離はまだありますが、追加が来るかもしれません!」
神楽が指を突き出す。
「ほら見えるアル! あのデカいヤツ、たぶん偵察型じゃないヨ!!」
沖田はその方向を一瞥し、口角を上げる。
「へぇ……なるほど。ありゃあちょっと面倒そうですねぇ」
「面倒で済めばいいがな」
土方は刀を構え、鋭い黒の輝きを月光に反射させた。
「情報は十分だ。ここからは真選組が前に出る。銀時、お前らは後方で隊の崩れを防げ」
「指図すんなよ副長さんよ」
銀時は笑いながらも、足を少し引いて隊列を整えるように動く。
桂も頷いた。
「合理的な配置だ。前線は任せる」
新八と神楽も真選組の後方に回り、周囲の小規模な月人を処理する役に回った。
月光が強くなる。
そして、巨大な影がゆっくりと地平線の向こうから姿を現した――。
――同じ頃。
別の巡回ルートを進んでいた坂本と陸奥、そして万斉のペアも、空気のざわめきに足を止めた。風すら吹いていないのに草がざわつき、地面の影がゆっくりと滲むように揺れている。
「おっ、なんやあれは。黒点やのぉ、陸奥」
坂本の陽気な声に反し、彼のアメシストの身体は不穏に光を乱反射していた。
陸奥は銃を肩に担ぎ、影を冷静に見据える。「船長、呑気なこと言いゆう場合じゃないき。あれは月人が湧く前触れじゃき」
黒点は脈を打つように中心を膨らませ、光を吸い始めている。
万斉が三味線を構え、淡紫の身体に闘気を帯びる。
その背後に、いつの間にか高杉が立っていた。ロードライトガーネットの身体は暗い赤紫の光を揺らし、不敵に笑う。
「……面白ェな。規模がデカいほど、叩き割り甲斐があるってもんだ」
「……来る。規模は大きいぞ」
坂本はにっと笑った。
「ほな、派手に散らしたるか。陸奥、援護頼むで」
「船長はほんま無茶ばっか言いちょる。……けんど、まぁ嫌いじゃないき」
黒点が裂けて光を漏らした瞬間、三人は同時に構えた。
――また別の場所。
全蔵と猿飛あやめのペアも、森の木陰に広がる黒点を見つけていた。周囲の空気だけが不自然に冷たく、色が褪せて見える。
「……こりゃ広がってやがる。気配も濃い」
全蔵は風を読むように視線を走らせた。
猿飛は素早くクナイを構え、黒点の脈動を見つめる。
「前より動きが速いわね。早く断たないと」
黒が波のようにうねった瞬間、全蔵が声を上げる。
「来るぞ、あやめ!」
猿飛は音もなく跳び、中心へ刃を投げ込む。墨が弾けるように黒が跳ね、全蔵の足元へ伸びた。
「っとと……危ねぇな」
「他の場所でも同時に起きてる……間違いないわ」
二人は次の波に備えた。
――さらにまた、九兵衛とまた子のペア。
二人は崖下を見下ろし、そこに揺らめく巨大な黒点に息をのんだ。
「や、やっべ……あれ絶対ヤバいっスよ九兵衛さん!!」
また子は思わず銃を握りしめる。
九兵衛は静かに刀を抜き、黒点を見つめた。
「……規模が大きい。周囲が飲まれる前に止めるぞ」
「そっスよ! 銀さんたちの方に流れたらマジ洒落にならねーっスから!」
黒点は光を吸い、穴のように黒く深い。
九兵衛は構えを整えた。
「行くぞ、また子。私の動きに合わせろ」
「合点っス!」
二人は崖を駆け下り、黒の中心へと突き進んだ。
――それぞれのペアが同時に黒点を発見し、向かい、対処し始める。
そして同じ頃――
――さらに遠方、神威と阿伏兎のペアもまた、異様に膨れ上がった黒点の前で足を止めていた。
神威は淡い赤のスピネルの身体を揺らしながら、楽しげに目を細める。
「おっきいねぇ、阿伏兎。あれ、絶対強いよ?」
阿伏兎は重い溜息をつき、ダークガーネットの身体で槍を構えた。
「強い弱いじゃねぇよ団長……この規模、下手すりゃ他の連中のとこまで影響するぞ」
神威は口元をにぃっと歪める。
「だいじょーぶだよ。どうせ壊すんだから」
黒点の脈動がさらに速くなる。影が波となり、足元にまで迫る。
阿伏兎は肩を回しながら前に出る。
「……まずは押し返すぞ。団長、突っ込みすぎんなよ」
「えー? 阿伏兎が遅いだけじゃない?」
「誰が遅ェってんだコラ」
軽口を叩きつつも、二人の視線は黒点の中心を鋭く射抜いている。
スピネルの赤とガーネットの深紅が交差し、影へ踏み込む瞬間――その中心で何かが確実に生まれようとしていた。
黒点の出現に気づいた各ペアがそれぞれの経路から銀時と桂の位置へと急ぎ、
月光の反射が交差するようにして、宝石たちはひとつ、またひとつと集まってきた。
最後に駆け込んできたのは真選組組。
沖田が面倒くさそうに槍を肩に担ぎ、土方は険しい眉のまま周囲を警戒している。
「……全員、揃ったか」
銀時がそう漏らした直後だった。
「呼んできましたーーっ!!」
山崎が息も絶え絶えに叫びながら走りこんだ。
そして、その後ろから静かに姿を現した人物を見た瞬間――
宝石たちの表情が、ぱっと和らいだ。
柔らかな光をまとう白銀の髪。
どこか懐かしい温度を宿した瞳。
「……松陽先生」
思わず零れた銀時の声は、宝石としての澄んだ響きよりも、かつての少年のものに近かった。
松陽は穏やかに微笑み、皆を見渡した。
「みんな、無事でよかった。呼ばれたと聞いて、急いで来たよ。」
その声は、宝石の軋む音すら包みこむように柔らかい。
緊張していた宝石たちの肩から力が抜け、胸の奥に温かい光が一つ灯る。
「先生が来てくれんなら、だいぶ助かります。」
陸奥が、珍しくほんの僅かに表情を緩めた。
「……これで戦闘態勢を整えられる。いや、守りも固められるでござる。」
万斉が冷たい刃のような瞳を伏せると、隣の高杉がふっと笑う。
「肝心な時に現れるのは、昔から変わらねぇな、先生。」
松陽はその言葉に静かに頷いた。
「さあ、皆。
――君たちが傷つかないよう、私も力を貸すよ。」
宝石たちはその言葉に、迷いなく頷いた。
集結した光が、ひとつの方向へ向けてきらりと揺れる。
再び戦いの気配が迫る中で、彼らの心は確かにひとつだった。
その瞬間――松陽の白い光が一段と強く瞬いた。
静かに一歩、前へ出る。
その動きはまるで風が流れるほどの自然さで、しかし宝石たちの視界には、世界がゆっくりと反転したように映った。
黒点から溢れ出ていた数え切れぬ月人たちが、松陽の前ではただの影に過ぎなかった。
「……すこし、下がっていなさい。」
優しい声が波紋のように広がった次の瞬間――
オパールの虹色が閃光となり、夜の闇を切り裂いた。
ひゅ、と小さな風が吹いたような音。
それだけだった。
次の瞬間には、あれほど押し寄せていた月人たちが、すべて、光の粒となって霧散していた。
宝石たちは言葉を失ったまま、その光景を見つめる。
神楽がぽかんと口を開け、近藤が思わず腕を下ろし、銀時でさえ一瞬動きを止めた。
「……相変わらず反則だろ、先生。」
銀時が呟くと、松陽は困ったように微笑んだ。
「皆が傷つく前に済ませられるなら、それがいちばんだからね。」
霧のように消えていく影の粒子の中で、宝石たちは再び安心の息を吐いた。
松陽先生が姿を現した瞬間、宝石の国同様に月人たちは一斉に動きを止めた。次の数秒で、あれほどの数がいたはずの月人が、松陽の一振りごとに淡く霧散していく。まるで最初から存在しなかったかのように、白い粉となって風へ溶けていった。
松陽先生は皆の方へ柔らかく振り返り、
「さぁ、割れた者は今すぐに破片を回収しましょう」と穏やかに声をかけた。その声に、宝石たちはそろって「はい!」と元気よく返事をし、それぞれ自分や仲間の欠けた破片を丁寧に拾い集め始めた。
宝石たちが破片を集めている間、松陽先生はひとりひとりの無事を確かめるように穏やかな眼差しを向けて歩いていく。月人が霧散した静寂の中、先ほどまで張りつめていた緊張がゆっくりと解け、皆の呼吸がようやく落ち着き始めていた。
銀時は肩をぐるりと回しながら、
「相変わらず先生は反則だよなァ……来た瞬間全部片付けちまうとか」
と呆れ半分に言う。隣で新八がホッとしたように頷き、
神楽は「シショーすげェな!」と目を輝かせている。
一方、万斉は淡々と破片を拾いながらも、高杉の方へ視線を向けた。高杉は腕を組んだまま、
「相変わらずだな、松陽。お前が出てくると全部終わっちまう」と静かに呟く。
その声に、陸奥が肩をすくめながら、「しゃあないわ。うちらが束になっても先生の速さには勝てへん」と原作らしい調子で返した。
阿伏兎は割れた宝石らの破片を慎重に抱えつつ、
「団長、こっちは大方拾い終わりましたぜ」と神威に報告する。神威は破片を覗き込みながら、
「おー、よしよし。これで直せるんだろ?」といつもの天真爛漫さで笑みを浮かべた。
やがて宝石たちが破片を集め終えると、松陽先生は皆を見渡しながら優しく頷いた。
「よくできました。では──戻りましょうか」その声に、場にいた全員が安心しきった表情で頷いた。
松陽先生は集まった宝石たちを見渡し、穏やかな声で告げた。
「割れてしまった者は、月詠さんのところへ行きなさい。治療の準備をしてくれています」
宝石たちは「はい!」と元気に返事をし、それぞれ割れた仲間を支えながら月詠のいる治療棟へ向かっていく。
松陽先生はそんな彼らの背を見送ると、銀時と桂に軽く会釈をしてから静かに踵を返した。
「では、私は先に学校へ戻っています。皆さんも気をつけて帰ってきてくださいね」
その柔らかな声を最後に、先生はいつもの落ち着いた足取りで校舎の方へと歩いていった。
銀時と桂は、松陽の背が月光の陰に溶けて見えなくなるまでじっと見送っていた。
「……相変わらずだな、先生は」
銀時がぽつりと零すと、隣で土方が肩をすくめる。
「強すぎんだよ、あの教師は。あれだけの月人を数秒だぞ? 反則にも程があるだろ」
沖田は槍の柄をくるくる回しながら、面白そうに笑った。
「ま、こっちとしてはありがたい話でさァ。おかげで仕事が一個減ったわけで」
その背後では、宝石たちが欠けた仲間の破片を運び終え、ひと段落した空気の中で肩を並べていた。
高杉は黙ったまま空を見上げていたが、隣の万斉に視線を向ける。
「……行くぞ。先生が戻ったなら、俺たちも動くべきだろう」
「承知。」
万斉が短く答えると、高杉の後について歩き出す。
一方、陸奥は腕を組んでため息をついた。
ま、ウチらも帰るかねぇ。学校ん方にも戻らなあかんしねぇ。
「おまえら、もう少し協力的でもいいんじゃねェの?」
銀時が呆れ気味に言うと、陸奥はふっと笑って片目をつぶった。
「ウチはウチの仕事をしとるだけよ。ほれ、銀時はんらも早よ戻らんと、置いてってしまうよってねぇ。
そんな軽口を交わしながら、それぞれのグループが学校へ向かって歩き出した。
空にはまだ細かな月人の光の粒が漂っていたが――そのどれもが、もう脅威ではなかった。
宝石たちの胸には、松陽先生が残していった安心の光が、静かに灯り続けていた。
夜が更け、宝石たちはそれぞれの部屋で静かに眠りについた。
月光は穏やかで、今日は戦いの痕跡すら包み込むような優しい光を落としている。
――ただ、一人を除いて。
高杉晋助は、いつものように夜の学校を出て、ゆっくりと歩きながら外周の見回りに入っていた。
彼は夜の静けさを誰よりも好み、月明かりだけが照らす世界で思考を沈める時間を手放せないでいた。
本来、夜に月人が現れた記録は一度もない。
だから見回りとは名ばかりで、彼にとっては“考えるための散歩”でもあった。
砂を踏む乾いた音だけが続く静寂の中――
高杉はふと、足を止めた。
空気の流れが変わった。
夜の気配が、わずかにざわついたように感じた。
「……万斉、いるか」
問いかける声は低いが、迷いはない。
月明かりの影の中から、万斉が静かに姿を現す。
彼もまた、主と同じく眠りにつかない者だ。
ゆらりと空に浮かんだ。
高杉と万斉はその淡い粒の動きを追いながら、月光に照らされた草原へと足を進めていった。
夜風が草を揺らし、ふたりの影を長く伸ばす。
万斉は歩きながら横目で高杉を見る。
「晋助、光が少ないのだが……本当に大丈夫なのか? 拙者は少々、視界がきついでござるが」
高杉は鞘に添えていた手を軽く握り、刀の柄を確かめるようにして答えた。
「……慣れた。夜は嫌いじゃねぇしな」
その声は淡々としているが、迷いのない強さを含んでいる。
月明かりがその横顔をかすかに照らし、宝石としての光彩が細く揺れた。
万斉はその後ろ姿を静かに追いながら、周囲の気配を探るように耳を澄ませる。
草原を渡る夜風に混じり、どこか金属の軋むような音が、かすかに――
万斉は歩きながら、ふと胸の内に去来する思いを隠さず口を開いた。
「……しかし晋助。拙者は時々こうして共に見回りをしておるが、そなたはこれを“毎晩”続けておるのであろう。相当、負担ではないのか?」
高杉は歩みを止めず、ただ夜風に揺れる草を踏みながら答える。
「……別に。慣れだ」
その声音は淡泊で、けれどどこか疲れを滲ませるように静かだった。
万斉はその返事にわずかに眉を寄せ、さらに問いを重ねる。
「夜間に月人が現れたことは……そもそも、あるのか?」
「ねぇよ。記録じゃ一度もな」
「では、何故そなたは――」
万斉が理由を尋ねようとしたその瞬間、高杉はわずかに振り返り、短く言った。
「……万が一だ」
その言葉は夜気を裂くように鋭く、しかし確かな覚悟を秘めていた。
万斉はその背を静かに見つめ、主の胸の奥にあるものの重さを、改めて痛感した。
高杉は「万が一だ」と言い放った瞬間、ふと足を止め、万斉の方へゆっくりと向き直った。
月光がその横顔を照らし、ロードライトガーネット特有の淡い赤紫の輝きが、夜の闇に滲むように浮かび上がる。
風が止まり、草原が静まった。まるで世界が彼の光だけを映し出すかのように。
高杉はその光をまとったまま、静かに、だが確かに言葉を重ねた。
「……だから、俺が見る」
その一言は短くても、揺るぎない決意そのものだった。
万斉はしばしその姿を見つめ、胸の奥に得体の知れぬ熱が広がるのを感じながら、深く頭を垂れた。
「……さようでございますか、晋助」
その声音には忠誠だけでなく、主を案じる静かな憂いが滲んでいた。
そうして夜が明け、朝になる。宝石達は朝礼に向けて、それぞれ準備を始めていく。
銀時 × 桂ペア
銀時は欠片のように眠そうな顔でふらふらと更衣室に現れ、桂は既に準備を終えて髪を整えている。桂が「遅いぞ銀時、朝礼に間に合わん」と言うと、銀時は「あーもう、朝っぱらから騒ぐな……眩しくて粉になっちまうだろ」とぼやきつつ帯を締める。
新八 × 神楽ペア
新八は真面目に磨き上げた武器を確認しており、神楽は朝から元気いっぱいで「シンパチこそ遅いアル! 早くするネ!」と叩き起こされるように急かしてくる。新八は「なんで君の方が早く起きてるんだよ!」と嘆きながらも、慌てて支度を整えていく。
高杉 × 万斉ペア
夜明けと共に戻ってきた高杉は静かに髪を結い直し、万斉はそのすぐ傍で「本当に毎晩やっておられるとは……拙者、昨夜は少々堪え申した」と肩を回しつつも淡々と準備をする。高杉は「慣れだ」と短く返しながら、朝日に淡く赤紫色の輝きを返す。
九兵衛 × また子ペア
九兵衛は無駄のない動きで支度を済ませ、鏡の前で軽く光の反射を確認している。その後ろでまた子が「九兵衛さん〜! 今日の反射、めっちゃ綺麗スよ!」と騒ぎながらも武器を抱え、それを九兵衛が「朝から声が大きい」と軽くたしなめるが、どこか嬉しそうに頬を緩めている。
猿飛 × 全蔵ペア
朝の中庭。全蔵が静かに武器の点検をしている――その周囲は静かだ。
……少なくとも、全蔵の“耳”には、騒がしい気配が近づいてこない。
というのも、猿飛あやめは今朝も銀時のストーキングに全力を注いでおり、全蔵の周りには姿を見せていなかった。
全蔵は空を見上げ、わずかに眉をひそめる。
「……今日は来ねぇのか。銀時の方に行ってんだろうな、どうせ」
そう呟きながら淡々と準備を整えていく。
その時、遠くの廊下から猿飛の甲高い声が響いた。
「銀さーーん!! 今日もサッちゃんは銀さんのこと見守ってるからねぇぇぇ!! 逃がさないよぉ銀さぁん!!」
それに続いて、銀時の怒鳴り声も。
「見守んな!! 朝っぱらから壁とか天井から出てくんな!!」
全蔵は頭を押さえ、小さくため息をついた。
「……朝から賑やかだな。銀時も大変だ」
そう言いながら、猿飛がここに来ないうちに準備を終わらせようと、いつもより少しだけ急ぎ足で動き始めた。
神威 × 阿伏兎ペア
神威は朝から妙に楽しそうに槍を肩に担ぎ、阿伏兎は「団長、朝っぱらからテンション高すぎなんですよ」とため息をつきながらも神威の装備を最終確認している。「だってさァ、今日はなんか面白いことありそうだろ?」と笑う神威に、阿伏兎は「頼むから無茶だけはしないでくださいよ」と頭を抱える。
朝の光が校舎全体を照らし、宝石達の身体がそれぞれの色で微かに輝く。やがて鐘が鳴り始め、全員が朝礼の場へと向かっていった。
坂本 × 陸奥ペア(朝)
朝の丘の上、坂本は相変わらず陽気に空を見上げていた。
「今日もええ天気じゃのう、陸奥!」
「……あんた、朝から元気すぎやろ。見張りは遊びちゃうで」
坂本は気にせず笑う。
「陸奥がしっかりしちゅうき、ワシは安心してボーッとできるがよ!」
「うちは保護者ちゃうわ。……ほら、さっさと行くで、船長」
朝日がゆっくりと昇り、教場前の広場に宝石たちが集まる。整列した列が朝の光を反射し、淡い虹色の輝きが揺れた。
その前に立つのは、戦略計画担当の近藤と土方。二人はいつものように広げた大きな地図を机に置き、その上には天候表や警戒指数が並べられている。
「本日の天候――晴れ。視界は良好だ。ただし午後から風が強まる予測だ。巡回中は注意しろ」 土方が淡々と告げる。
「月人出現確率は……昨夜の痕跡調査から見て微増だ。油断はできんぞ」
近藤が地図の端を押さえながら説明する。
二人は指で地図を示しながら、各ペアの配置を読み上げていく。
「銀時・桂ペアは北東の草原沿い、広範囲の監視を頼む」
「新八・神楽ペアは中央区画。連絡経路の確保も兼ねて動け」
「神威・阿伏兎ペアは北側、森林地帯の上空と奥地の警戒を重点だ」
「九兵衛・また子ペアは南東の崖沿いルートを偵察。足場が悪いから気をつけろ」
「高杉・万斉ペアは西側外周、昨日の黒点が見つかった付近を中心に」
「坂本・陸奥ペアは南側の遠距離監視。何かあればすぐ連絡を」
宝石たちは真剣に頷きながら、指示を胸に刻んでいく。
「それじゃあ、各自 行動開始だ。気を緩めるなよ」 土方の声が広場に響き、
最後に松陽先生が一歩前に出て、穏やかな微笑みを浮かべながら言った。 「皆、今日も月人との戦闘は決して油断しないように。無事に戻ってくることを、私はいつも願っていますよ」
宝石たちは一斉に「はい!」と凛とした声で返事をし、与えられた持ち場へと向かっていった
朝の光が草原一面に広がり、風が揺らす草の音だけが響く。銀時はあくびをしながらだらだら歩き、桂は真面目に周囲を見回している。
「おい銀時、もっと真面目に歩け。監視任務だぞ」
「無理。朝っぱらから働いたら死ぬでしょ」
そんな会話をしつつも、二人は息の合った動きで死角を作らない。
中央区画は視界が広く、連絡経路として重要な場所だ。神楽は元気いっぱいに走り回り、新八は慌てて後を追う。
「神楽ちゃん! 勝手に走り回らないで!」
「大丈夫アル! 敵いたらぶっ飛ばすだけネ!」
騒がしいが、広い範囲を素早く動ける機動力は随一だ。
濃い森の中、神威は鼻歌まじりに木の上を跳ね、阿伏兎は重い足取りでついていく。
「なぁ阿伏兎、今日も月人いねぇかなぁ。いたら楽しいのに」
「……団長、任務中は遊びじゃねぇんですよ」
軽さと重さが絶妙に噛み合う、最強火力コンビ。
崖沿いの風が強く吹き、足場も悪い。九兵衛は冷静に進み、また子は銃を構えながら警戒している。
「んで、九兵衛さん。今日は敵来ると思うっスか?」
「油断はしない。風向きが少し変だ……気を張れ、また子」
「はい!」
緊張感の中にも息の合ったやり取りが続く。
森と草原の境目に走る裏道。沖田は竹刀を肩に担ぎ、やる気のないような顔で歩いているが、目だけは鋭く周囲を捉えている。
「さぁて、今日はどんなサボり魔を尋問しやすかねぇ」 「お、沖田さん! ぼ、僕はサボってませんからね!? 真面目にやってますからね!?」
山崎は必死に手帳を握りしめ、小走りでついていく。沖田はわざと歩調を変えて山崎を翻弄しながらも、索敵能力は一級品で、危険な気配があればすぐに反応する。
「まぁまぁ、そんな怯えなくても殺しはしやせんよ。怪しい影でも出てきたら、まずはアンタに突撃してもらうだけでさぁ」 「ぜ、絶対ひどい扱いしてますよねそれっ!!」
騒がしいが、機動力と判断力の高さで裏道の警戒を任される、真選組らしい凸凹ペアであった。
薄暗い林の中。全蔵は静かに、音ひとつ立てずに木々を飛び移る。一方で猿飛は——
「銀さぁん♡ 今日も銀さんの姿が拝めるなんて、任務日和〜♡」
「……おい、任務しろ。なんでそっちの方向ばっか見てるんだ」
全蔵が眉間に皺を寄せる。
「見回りしてるわよぉ? 銀さんの居そうな方向をね♡」
「それは“見回り”とは言わん」
呆れながらも全蔵はフォローを欠かさない。猿飛が気配を読むのは決して下手ではない。むしろ鋭い。しかし問題は――
「ねぇ全蔵ぉ、銀さんが困ってたらすぐ私知らせるからねっ♡」
「お前が困らせてるんだろうが……」
紙一重の優秀さを見せる猿飛と、それを黙って補佐する全蔵。奇妙ながら意外と成立している、息の長い凸凹ペアだった。
海風が荒く吹く沿岸区域を担当する坂本と陸奥。坂本は相変わらず能天気に「いやぁ〜今日もええ天気やの、陸奥」と笑っているが、陸奥は銃を肩に担ぎ、鋭い目で海を見張っていた。
「船長、前ぇ見ちょきや。油断しゆう暇なんぞ無いき」
「はははっ、陸奥がおるき大丈夫じゃろ〜」
「その油断が一番いかん言いゆうがよ」
言葉は素っ気ないが、陸奥の歩調と警戒は常に坂本を守る位置を取っている。二人の漫才のような掛け合いの裏に、深い信頼が確かにあった。
その頃、学校内の静かな資料室では、土方と近藤がそれぞれの作業に集中していた。
土方は机に広げた数枚の紙に、昨晩までの月人に関する痕跡・移動経路・発生頻度をまとめてレポートとして書き起こしている。羽ペンを走らせる音だけが、部屋に淡く響いていた。
「……で、近藤さんよ。明日の見回り配置、どこを重点にするつもりだ?」
視線は紙から離さないまま、土方が問いかける。
近藤は製本作業に没頭しており、土方のレポートを綺麗に冊子へとまとめている。作業の手は止めず、真剣な声で答えた。
「天候次第では北側を厚くしたい。風向きも変わってきてるしな。……それと、西側外周の黒点は無視できん。明日も誰かを回す必要がある」
「天気、か……」
そのときだった。窓ガラスに ぽつ、ぽつ と水滴が落ちる音がした。
土方が顔を上げる。「……雨か。予測外したかもしれんな」
しかし近藤は優しい口調で首を振った。
「いや、むしろ良い兆候だ。月人は晴れた日にしか現れん。これなら皆、今日は少し休めるはずだ」
微笑みながら、近藤は手元の冊子を丁寧に重ねていく。
静かで穏やかな雨音が、資料室に優しいリズムを刻んでいた。
空はゆっくりと曇り始め、やがて細い雨粒が宝石の世界に落ち始めた。ぽつ、ぽつ、と宝石たちの体に当たるたび、薄く澄んだ音が響く。
各地で見回りしていたペアたちも、突然の雨に足を止め始めた。
銀時・桂ペアは草原で背伸びをしながら、
「雨か……もう帰ろうぜ桂」「任務続行のつもりだったんだが……まぁ良いか」と学校へ戻る方向へと歩き出す。
新八・神楽ペアは神楽が「雨だ! 冷たいアル!」と草むらに倒れ込み、新八が慌てて引っ張り起こしていた。
九兵衛・また子ペアは崖の風の強さが増したため、「戻るぞまた子」「了解!」と素早く学校へ引き返していく。
神威・阿伏兎ペアは神威が「雨かぁ。つまんねぇないなぁ」と木の上で伸びをし、阿伏兎が「帰るぞ団長! 雨は拙いんで!」と強制的に引き戻していく。
沖田・山崎ペアは「雨じゃあしょうがねぇ、帰りやすか」「は、はいっ!」と学校方向へ向けて歩き出す。
坂本・陸奥ペアも雨脚を確認し、陸奥が「こりゃぁ長く降るき、船長 戻るで」と言えば、坂本が「雨も風情があるのう」と笑いながら歩みを返した。
しかし。
全員が雨の中帰還を始める中、西側外周を進むペアだけは、雨の音の中でも歩みを止める気配がなかった。
雨粒が二人の身体に当たり、淡く澄んだ音を立てる。高杉はその音すら意に介さず、ただ前をまっすぐ見て歩いていた。その姿は雨に濡れながらも赤紫の光を淡く纏い、どこか静かで強い。
「……晋助。雨でござるよ。戻らぬので?」
万斉は雨のせいで視界が悪くなるのを気にして声をかける。
だが高杉は歩みを止めず、刀の柄に添えた手を緩めない。
「……関係ねぇ。月人が来ねぇ保証なんざ、どこにもねぇだろ」
短く放たれた言葉は、雨音より重く響いた。
万斉は高杉の横顔を見つめ、小さく息をつく。
「……さようでござるか。ならば拙者も付き合うまで」
雨の降り続く外周路。二人の影だけが濡れた草原を進み続ける。
そのときだった。歩きながら高杉はふと空を見上げ、頬に落ちる雨粒を感じると、小さく息を吐いた。
「……雨なら、少しくらい いいか」
そう呟き、右目に巻かれていた包帯へ手を伸ばす。万斉が驚きの色を見せる間に、高杉は包帯をほどき、静かに外した。
露わになった右目――そこには欠けた宝石、赤紫の宝石片が淡く光を宿しながら輝いていた。
雨粒が当たるたび、光は揺れ、夜の残滓のようにきらめく。
万斉は思わず足を止め、その光を見つめた。
「……晋助。いつか、その目は戻ってくるでござるよ」
高杉は振り向きもせず、ただまっすぐ前を見たまま言い放った。
「……戻ってこねぇよ。そんなもんは、とっくに捨てた」
雨音が二人の間に静かに落ちる。
――その光景を見た瞬間、万斉の脳裏に、決して忘れられぬ記憶がよみがえった。
かつて高杉は、別の宝石とペアを組んでいた。あの日、二人は月人の大群と遭遇し、激しい戦闘となった。
その最中、月人の放った矢が高杉を狙って一直線に飛んだ。だが――
高杉の相棒だった宝石が、迷いなく身を投げ出し庇った。
透明な破片が風に散るように砕け、その宝石はバラバラになりながらも、最後まで高杉を守ろうと腕を伸ばしていた。
砕けた破片は月人に吸い寄せられるように拾われ、高杉の目の前で、月へと連れ去られていった。
高杉は叫びながら追いすがった。しかし次の瞬間、別の矢が彼の右目を撃ち抜いた。 赤紫だった瞳は砕け、光が散り、左目は月人に奪われた。
高杉は片目を押さえながら、それでも必死に手を伸ばしたが――相棒も、自らの目も、二度と戻らなかった。
救出後、月詠が「白粉で色、ちぃと誤魔化したらええ。無理にとは言わんけどな」と優しく言ったが、高杉は首を振った。
「……必要ねぇ。こんなもん、隠す価値もない」
その言葉と共に、彼は右目に包帯を巻いた。輝きを隠すためでもあり、失ったものを忘れないためでもあった。
――今、雨の中で包帯を外した高杉の横顔を見ながら、万斉はただ静かにその事実を胸に噛みしめていた。
それでも、高杉の歩みは止まらず、万斉もまたその背中に続いて進んだ。
静かな雨の中、その歩みは誰よりも強く、そしてどこか孤独だった。
一方、学校では雨の影響で見回りに出ていた宝石達が続々と戻ってきていた。銀時と桂のペアも例外ではなく、濡れた衣を払いつつ土方の元へ向かう。
土方は戻ってきた宝石達の顔ぶれを確認しながら、一組だけ足りないことに気づく。「……おい、高杉達はどうした?」
銀時、桂、坂本の三人は同時に渋い顔になり、ほぼ揃った声で「あぁー、アイツは…」と濁す。
その場に松陽先生が静かに現れ、落ち着いた声で言った。
「彼は、まだ見回りに行ってるでしょう……雨でも関係なく、ね」
土方は息をのむ。「先生……」と呟くが、松陽は遠くを見るような目でただ静かに佇んでいた。
土方は窓の外、まだ降り続く細かな雨を見つめながら眉を寄せる。
「……あいつら、ほんとにまだ回ってんのかよ。雨だぞ……宝石の身体にいいわけねぇだろ」
桂が腕を組んだまま静かに言う。
「高杉は“万が一”のために夜も回っている。雨程度では止まらんだろう」
銀時は頭をかきながら、ため息混じりに続けた。
「つーかアイツ、昔っから妙に頑固なんだよ。止めても聞きゃしねぇし」
坂本もいつもの調子で笑いながら口を挟む。
「まあまあ、晋助はんのことやき〜、そげん心配してもしゃーないろ。けんど……雨ん中は流石に応えるじゃろて」
土方はレポートの紙束を握りしめ、苛立ちと焦りの混じる声で言う。
「……チッ、俺が迎えに行くべきか……」
しかし、その肩に松陽先生の柔らかな声が掛かった。
「焦らなくて大丈夫ですよ。彼らは強い子です。今は……戻ってくる場所を整えてあげましょう」
土方は一瞬言葉を失い、先生の横顔を見る。穏やかな表情だが、その目には深い心配が滲んでいた。
その頃、雨宿りしていた宝石達の一角で、また子はそわそわと落ち着かない様子で外を何度も覗いていた。
「……たっ、晋助様、まだ帰ってきてねぇじゃないですか! 雨ッスよ!? なんで万斉さんも止めねぇんスかあの人は!」
九兵衛はそんなまた子の肩に手を置き、静かに諭す。
「落ち着け。また子。高杉たちが簡単にどうにかなるとは思えん」
しかしまた子は首を激しく振り、雨音にかき消されそうな声で叫ぶ。
「落ち着いてなんていられないッス! あの人、夜も見回るくらい無茶するんスよ!? 雨で視界も悪いのに……ッ!」
九兵衛が何か言いかけた瞬間、また子はもう弾かれたように走り出していた。
「また子! どこへ行く気だ!」
「決まってんでしょ! 晋助様を迎えに行くッス!!」
九兵衛の声も届かず、また子はそのまま雨の外へ飛び出していった。
また子は制服が雨に打たれ、白粉が少しずつ溶けて流れていくのも気にせず、ただ必死に草原を走り続けていた。冷たい雨が肌を刺すが、足は止まらない。
「……っ、高杉さん……どこッスか……!」
息を切らしながら走り回っていると、遠くに“光”が揺れた。青い光と、淡く輝く赤紫の光。雨の帳の中でもはっきりわかる、宝石特有の輝きだった。
「晋助様!!」
胸の奥から突き上げるような声で叫びながら、また子はその光の方へ走る。
高杉はその声にわずかに振り返り、万斉も同時に驚愕したように目を見開いた。
「……また子⁉ 何故ここに⁉」
また子は雨でびしょ濡れの髪を振り払い、叫ぶように返す。
「決まってんでしょ!! 晋助様が帰って来なかったからッスよ!! ってか万斉さん、なんで止めなかったんスか!! 無茶させすぎッスよ!」
万斉は返答に詰まり、口を開きながらも言葉が出てこない。
だがまた子は一切聞く耳を持たず、高杉の手をぐっと掴んだ。
「晋助様、学校で松陽先生も待ってるッスよ!! もう帰るッス!!」
高杉は少し目を細め、雨の中でまた子の必死な顔を見つめた。だが反対側の手はまだ刀の柄に添えたまま、雨に濡れたまま立っていた。
高杉はしばらくまた子の顔を見つめたのち、ふっと短く息を吐き「……そうか」とだけ呟いた。そして握られた腕を振り払うこともせず、そのまままた子に引かれるように歩き出した。万斉も静かにその後に続く。
雨の中を戻ってきた三人が学校へ入ると、談話室にいた宝石達が一斉に振り返り、驚愕の声が上がった。
「えぇ!? あの高杉が帰ってきた!?」
「雨の日でも絶対戻らなかったのに……!」
その中心で、びしょ濡れのまた子は息を整える暇もないまま立っていた。制服は水を吸って重く、白粉は雨に流されて頬から薄く剥がれていた。
それに気づいたお妙がすぐに駆け寄り、タオルを広げる。
「ちょ、ちょっとまた子ちゃん! こんなに濡れて……ほら、まず体拭いて!」
お妙は優しくタオルでまた子の顔や髪を拭くが、白粉が完全に落ちてしまった部分から、彼女本来のピンク色の宝石の輝きが淡く滲み出た。
そのとき、医療担当の月詠が静かに歩いてきた。
「……また子、こっちへ。白粉が落ちちょる。早めに塗り直さんと光が漏れる」
月詠は差し出した布で再びまた子の頬を拭い、落ちた白粉を丁寧に落とし切ったあと、新しい白粉を滑らかに塗り直していった。
「ほれ、これでよし。……雨ん中よう頑張ったねぇ」
月詠の落ち着いた声に、また子は恥ずかしそうに目を伏せながら「ありがとうございますっス……」と小さく返事をした。
また子の白粉が整えられていく間、高杉と万斉は少し離れた場所から静かにその様子を見ていた。雨で濡れた高杉の髪からは雫が滴り、包帯越しの横顔には読めない影が落ちている。万斉はそんな主の横顔を一度だけちらりと見たが、何も言わなかった。
だが周囲の宝石達は黙っていなかった。
「おいおい、あの高杉が心配されて迎えに来てもらうなんてよ〜?」
「万斉も一緒にずぶ濡れじゃねぇか、主従そろって何ロマンチックなことしてんだよ」
「てかさっきのまた子ちゃん、めっちゃ必死だったぞ?」
わっと冷やかしの声が上がり、
最初に声を張り上げたのは 銀時 だった。「おいおい、あの高杉が心配されて迎えに来てもらうなんてよ〜?」
続いて 神楽 が口を挟む。「万斉もずぶ濡れネ! ロマンチックかアル?」
さらに 坂本 が笑いながら肩を叩く。「晋助はん、愛されちゅうのう〜」
そして締めに 沖田 がにやりとしながら言った。「いやぁ高杉さん、迎えに来られるとか……ちょいと可愛らしすぎやしません?」
と、一斉に冷やかしが飛び交い、、高杉は露骨に眉をひそめた。
「うるせぇ、黙れ。ぶっ飛ばすぞ」
万斉は咳払いをひとつし、目をそらしながらも「……拙者は任務でございますゆえ」とぎこちなく弁解したが、周囲はいよいよ盛り上がるばかりだった。
その空気をぴしゃりと断ち切ったのは、お妙の鋭い声だった。
「はいはい! からかうのはそこまで! ……それよりあなた達も全身びしょ濡れじゃない!」
お妙は腰に手を当てて睨むと、容赦なくタオルを高杉と万斉へ押し付け、さらに乾いた制服を両方の腕に抱えさせた。
「ほら、二人とも着替え持って! 風邪はひかないけど、その状態で歩き回られたら床が水浸しになるのよ!」
万斉は素直に「かたじけない」と頭を下げたが、高杉は制服を受け取りながらも「……別にこのままでいいだろ」と小声で文句を漏らした。
しかしお妙はにっこりと笑いながら一言。
「ダメです」
その笑顔に逆らえる宝石など誰もおらず、高杉はしぶしぶ視線をそらし、タオルで髪を拭き始めたのだった。
午前中いっぱい、空は灰色のまま静かに雨を落とし続けていた。宝石たちは屋内で待機し、月人の影が現れないことを確認しながら、それぞれ作業や休憩に励んでいた。
だが――雨が長引くほどに、退屈する者が一人。
「なぁ〜阿伏兎〜。月人来ねぇかなぁ〜。暴れたいなぁ〜」
神威が床に寝転びながら、阿伏兎の足をつつく。
阿伏兎は書類整理をしながら、明らかに嫌そうな顔をしている。
「……坊っちゃん。暇だからって暴れに行く相手を月人にすんなや。平和でええだろ」
「え〜? つまんなぁい。そんじゃあ……阿伏兎、勝負しよっか!」
神威がぱっと跳ね起き、にこっと笑った。阿伏兎は手に持った書類を落としそうになりながら、心底嫌そうな声を漏らす。
「いや、団長。お言葉ですけど――」
「あぁ、強制だよ?」
神威はにこにこしながら、腰の刀をスッと抜いた。
その瞬間、阿伏兎の背中に悪寒が走る。
「ちょ、待っ――おわぁぁぁぁぁ!!」
阿伏兎は生存本能フル稼働で、学校の廊下を全速力で逃げ出した。
「逃げた!? 阿伏兎、逃げたね!? 鬼ごっこだね!? いいねぇ〜!!」
神威は楽しそうに笑いながら、そのまま廊下を蹴って一直線に追いかける。
雨の屋内に、足音と叫び声が響き渡る。
「坊っちゃん!! 校内は走っちゃダメって言われ……ッぬおおおおお!!」
「阿伏兎〜、手加減してあげるよ〜? 3回斬るだけにするから〜!!」
「斬る気満々じゃねぇかあああああ!!!」
外は雨、校内は嵐。安息に満ちた午前中のはずが、一瞬で混沌に包まれていくのだった。
その頃。坂本と陸奥は、雨の日特有の静けさを感じながら校内を歩いていた。
「いや〜月人が来ん日は、のんびりできてええのぉ〜」
「そうじゃき。たまには静かな日も必要じゃき」
他愛ない会話を交わしていると――
ダダダダダダッ!!!!
突然、視界の端をものすごい速さで阿伏兎が通り抜けていった。
「……なんじゃ?」と坂本がぽかんとする。
陸奥は眉をひそめて言った。
「阿伏兎があの速度で逃げゆう時は……ロクなことが起きん証拠じゃき」
二人がゆっくりと前を向く。
――ロクなこと、起きた。
「阿伏兎ぉぉぉ!!!! 待てぇぇぇぇ!!!」
刀をぶん回しながら神威が爆走してきた。
坂本の顔が「え?」で固まる。
次の瞬間。
「どいてー!」
神威は坂本の頭を手のひらで ぐいっ と押し下げ、そのまま踏み台のように飛び越えていった。
ガンッ!!
坂本は床に叩きつけられ、頭部にぱきぃん、とヒビが入り、宝石片がぱらぱらと落ちる。
「いったぁぁぁ!?!? いたたたたた……!」
陸奥は深いため息をつき、落ちた欠片を丁寧に拾い集める。
「……ほんに、坊の暴走は勘弁して欲しいがじゃき」
「陸奥ぅ……ワシの頭が……」
「月詠の所に持っていくき。しばらく動かんときや」
そう言って陸奥は欠片を抱え、坂本を引きずるようにして月詠の元へ向かった。
その後ろで、まだ廊下の先から叫び声が響き渡っていた。
「阿伏兎ぉぉぉ!! ほらほら逃げて逃げて〜!!!」
「逃げんと死ぬだろうがすっとこどっこい!!!」
阿伏兎は校内を全速力で駆けながら、必死に思考を巡らせていた。
「(くそっ……あいつ止められんの誰だ……!? 誰でもいい、誰か神威止めろ!!)」
ふと思いつく。
「……松陽先生だ!!」
阿伏兎は方向転換し、松陽先生の部屋に飛び込んだ。
そこには――
すぴーー……すぴーー……
静かな寝息を立てて眠る松陽先生の姿があった。
そう、松陽先生は『瞑想』という名のお昼寝の真っ最中だった。
阿伏兎は一瞬で悟った。
「(……やっべぇ。これは“本気で寝とる”やつだな)」
この状態の松陽先生は、土方が何度頭を殴っても、逆に土方の手が折れるほど硬くて起きない。
阿伏兎は松陽先生にすがる間もなく――
「無理だコレ!!」
瞬時に判断し、寝ている松陽先生の横を 超高速で通り抜けた。
背後からは迫りくる声。
「阿伏兎ぉぉぉ!!! どこ行ったぁぁ!!!」
「ひぃぃ!! 誰か俺を助けろぉぉぉぉ!!!」」
松陽先生にも頼れないと悟った阿伏兎は、顔を青くしながら再び廊下へ飛び出した。
「無理無理無理!! あの先生寝とったら岩より固い!!!」
雨音と、校舎に反響する阿伏兎の悲鳴。
そして、それを楽しげに追いかける足音。
「阿伏兎〜! まだまだ行けるでしょ〜? ほら、逃げて逃げて〜!!」
「どこが遊びだすっとこどっこい!! こっちは命がけなんだよ!!!」
阿伏兎は廊下の曲がり角に差し掛かるたび、近くの棚や備品を倒して足止めしようと試みる。
だが――
ガンッ! バキッ! ドンッ!!
すべて神威の前では意味を成さない。
「おー、邪魔〜!」
神威は倒れた棚を踏み台にして跳び、散らばった椅子を蹴り飛ばし、時には壁を蹴って加速までする。
「なんでそんな動きできるんだあああ!!?」
「え? 楽しいからだよ?」
「理由になっとらん!!!」
阿伏兎は自分の命を守るため、そして何より校内の被害を最小限に抑えるため、全身全霊で走り続ける。
しかし――神威の笑顔と足音は、容赦なくその背中を追い詰めていくのだった。
阿伏兎は高杉・万斉・また子が廊下で談笑している横を、暴風のように駆け抜けていった。
「…今の何スか?晋助様?」
また子が目をぱちくりさせ、万斉も眉をひそめる。
「……何かに追われているようにも見えたが……」
そう言いかけたところで、高杉が腕を組んだまま、ぼそりと呟く。
「……オイ。後ろ向け」
その声音にただならぬものを感じた二人は、ゆっくりと振り返った。
そこには――
刀を楽しそうにぶん回しながら爆走してくる、神威の姿。
「ひぃっ……!!」
また子の顔から血の気が引き、万斉は珍しく焦りを滲ませて高杉に叫ぶ。
「晋助!! どうする気だ!!」
すると、神威が満面の笑みで声を張り上げる。
「高杉ぃ!! 一緒に鬼ごっこしない?」
「嫌に決まってんでしょうがぁぁぁ!!」
また子がいつものキレ気味の声で怒鳴り返す。
高杉も不機嫌そうに低く返す。
「……するわけねーだろ」
だが――
「えぇ〜? でも強制参加だから!!」
にっこにこの笑顔で、神威は速度をさらに上げた。
「来るぞ!! 走れ!!」
高杉・万斉・また子の三人は、ほぼ反射的に全速力で逃げ出す。
その後ろから、楽しそうに刀をぶん回す神威が迫り――
そしてその更に後ろを、泣きそうな阿伏兎が駆け抜けていくのだった。
そうして高杉一派は、背後から迫る狂気じみた足音と金属音に背筋を凍らせながら、廊下を全力で駆けていた。
その最中――前方から同じく死に物狂いで逃げてきた阿伏兎と鉢合わせる。
「うおっ!? 阿伏兎……お前も巻き込まれた口か……!」
高杉が息を切らしながら声をかけると、阿伏兎は半泣きの顔で叫ぶ。
「ま、まさかとは思っとったが……お前らもかぁ!!?」
万斉とまた子も同時に怒鳴り返す。
「当たり前だ!! 強制参加だと脅されてな!!」
「誰が好き好んでアイツと鬼ごっこなんかするかってんスよ!!」
口をそろえて怒鳴る三人。阿伏兎は一瞬で察し、頭をがしっと抱え込んだ。
「……やっぱりそういうこったか……! 団長がご迷惑かけて申し訳ねぇ……!! ほんま、あいつは加減ってもんを知らんのだが……!!」
その声には、長年神威に振り回され続けた者だけに宿る、深い諦めと悟りがにじんでいた。
だが嘆いている暇はない。
「――あ、阿伏兎〜!! 見っけたぁぁ!!!」
背後から響く楽しげな絶叫に、全員の顔が一瞬で青ざめる。
「来たあああああ!!!」
「逃げろおおおおお!!!」
こうして、四人は命をかけた逃走劇に再び身を投じるのだった。
阿伏兎・高杉・万斉・また子の地獄の逃走劇は、そのまま廊下の奥へと続いていった。
その先で、ちょうど桂と銀時が話しながら歩いていた。
「なぁ銀時、雨の日は静かでいいものだな。月人も来んし――」
「そうだなァ。こういう時くらい、のんびり――」
――スパァァァン!!!
突然、鋭い斬撃音が響いた。
「……え?」
銀時が隣を見ると――
桂の長い黒髪が、床にふわぁ……と散って落ちていく。
そして桂本人は、なぜか バッサリとショートカットになっていた。
「……………………」
桂は固まった。脳が状況を理解するのを拒否した。
銀時も口をぱくぱくさせながら言う。
「え? ズラ? いま髪切ったの……イメチェン???」
「イメチェンなわけあるかぁ!! 銀時ィ!!!」
桂が怒鳴り返す。
すると銀時が横に視線を向けた。
――廊下を爆走しながら刀をぶん回している神威の背中が遠ざかっていく。
二人は同時に思った。
((ぜってぇアイツだ……))
銀時はため息をつきながら言う。
「……とりあえず月詠んとこ行くか。髪、なんとかしてもらえ」
「当たり前だ!! このままでは外も歩けん!!」
桂は床に散った自分の髪を両手で抱え、静かに震えながら月詠の元へと向かうのだった。
桂と銀時が月詠の元へたどり着いた頃――そこにはすでに壮絶な光景が広がっていた。
割れた宝石、欠けた宝石、ヒビの入った宝石……。
月詠の医療室は、まるで戦場の野戦病院のように宝石たちで埋め尽くされていた。
「次の治療に入るけぇ、順番に座っとってくれや」
月詠は淡々と、しかし手際よく治療を進めていく。
だが患者は減らない。
そして神威の被害にあった坂本、全蔵、九兵衛が話している
「いっててて……頭、持ってかれたぜよ……誰ぜよ……」」
「腕にヒビ、片方は完全に割られた…雨の日に何なのにどんな仕打ちだよ……」
「神威くん、遊びのテンションじゃない……冗談抜きで危ない……」
悲鳴や呻き声があちこちから聞こえる。
銀時と桂は入り口で呆然と立ち尽くした。
「……おいズラ。これ……完全に災害レベルだろ」
「ズラじゃない桂だ!! そして間違いなく災害だ!!」
月詠は二人に気づき、眉をひそめた。
「……おまんらも被害者か。ほれ、そこの台に座れ。すぐ治したるけぇ」
桂は両手に抱えた自分の髪をそっと差し出す。
「月詠……これ……元に戻るか……?」
「やってみるけぇ。けんど、少し時間がかかるで」
その言葉に、銀時と桂はさらにどんよりした表情を浮かべる。
――廊下の向こうから、まだ響く叫び声。
「阿伏兎ぉぉぉ!! まだ逃げるのぉぉ!?」
「逃げるに決まっとるだろうがああああ!!!」
医療室の宝石たちは互いに顔を見合わせた。
「……今日、何人無事で終わるんだ……?」
「雨の日って……もっとこう、静かなもんじゃなかったっけ……?」
宝石たちは一様にそう思いながら、月詠の治療を待つのだった。 「うちは無傷やけど……あれは確実に殺(や)りにきとるわ。油断せん方がええで」──陸奥
そうして校内がまだ神威の暴走でざわついている最中――
神威・阿伏兎・高杉・万斉・また子の集団が、土方のすぐ横を爆風みたいな勢いで駆け抜けていった。
土方「……はぁぁぁ⁉ なんだありゃあ!!」
土方は目をむき、即座に悟る。
(……ヤベェ。絶対ロクな事になんねぇ)
逃げ場を探すようにキョロキョロした後、土方はひとつの結論にたどり着く。
土方「……こうなったら松陽先生に止めてもらうしかねぇ!!」
勢いそのままに松陽先生の部屋へ突撃し、部屋の襖をガラッと開ける。
中では――
松陽先生が、いつもの穏やかな寝顔で「すぴー……すぴー……」と寝ていた。
土方「寝てんじゃねェよぉぉぉ!!!」
土方は迷いなく拳を振り下ろす。
ゴン!!
……しかし、松陽先生はビクともしない。むしろ土方の手のほうが折れそうな音を立てる。
土方「ッッッ……!? 硬ぇぇぇぇぇ!! いや、これ起きねぇ奴だ!!」
土方は青ざめ、泣きそうな顔で後ずさる。
土方「無理だコレ!! 先生が昼寝モード入ったら最強なんだった!! くっそ、誰が止めんだよあの化け物火力!!」
土方が松陽先生の頭を二度、三度と本気で殴り続けても微動だにしない地獄を味わっていた同じ時間帯。
阿伏兎、高杉、万斉、また子の四人は、よりにもよって校内の“行き止まりの部屋”に逃げ込んでしまっていた。
阿伏兎「……よりによって、なんでこんな袋小路に来ちまったんだ、オレら……!!」
万斉「……言い争ってる暇はない……来るぞ」
背後の廊下から、地鳴りのような足音が響く。
そして――
神威「みーっけた♪」
満面の笑みとともに、刀をぶん回しながら神威が姿を現した。
また子「ひ、ひぃぃぃ!! 晋助様!! どうすんスかこれ!! 逃げ道ないじゃないスかぁぁ!!」
高杉「……落ち着け。叫んでも状況は変わらねぇ」
そう言いながらも、高杉の眉間には明らかに焦りの皺が寄っている。
阿伏兎「団長ォ!! もうちょい力加減ってもんをだなぁ!! あんたの“遊び”じゃ、こっちは命がいくつあっても足りねぇだよ!!」
神威「ん? 大丈夫だよ阿伏兎。ほら、今日は雨で月人来ないし、暇なんだよねぇ。だったら遊ぶしかないでしょ?」
阿伏兎「暇つぶしのために部下追い詰める団長がどこにいるかぁ!!!」
神威は聞いていない。完全な笑顔で刀を振り回して近づいてくる。
また子「だ、だから嫌なんスよぉ!! 神威くんの“遊び”って遊びじゃないッスよ!! 命のやり取りなんスよ!!!」
万斉「……来るぞ!!」
四人は壁際へ後退し――
もはや逃げ場は、一切なかった。
壁際まで追い詰められ、万事休す――。
神威が楽しそうに刀を構え、四人の距離が一気にゼロになる――その瞬間だった。
――ゴツン!!
鈍い音とともに、神威の頭に拳がめり込み、顔全体に蜘蛛の巣のようなヒビが走った。
神威「……へ?」
阿伏兎は恐怖でぎゅっとつぶっていた目をおそるおそる開けた。
そこには――
柔らかな微笑みを浮かべながらも、確実に怒っている気配を纏う松陽先生。
そして、その横で腕をぶらんと折られながら立っている土方の姿があった。
松陽「……神威くん。廊下で刀を振り回しては危ないですよ。誰かが怪我をしたらどうするんですか?」
優しい声なのに、逃げ場のない圧がある。
神威「……ちぇー……先生、なんで起きてんの……」
土方「ハァッ……ハァッ……お、起きねぇんだよ先生は……! だから……何度殴っても……オレの腕が折れるだけで……!!」
土方の右腕は見事に折れていた。
阿伏兎「……す、すまねぇ土方ァ……! 助かった……!」
高杉「……助かったぞ、副長」
万斉「借りができたな……」
また子「マジで救世主っス……!!」
土方は壁にもたれながら息を整え、呆れたように言った。
土方「……はぁ……やっぱり……先生起こすのだけは……マジで大仕事なんだよ……」
そして神威はというと――
神威「……ねぇ阿伏兎、続きは?」
阿伏兎「やるかボケェ!! 今日はもう終わりだすっとこどっこい!!!」
こうして、命がけの“鬼ごっこ”は、ようやく強制終了となったのだった。
そうして無事に地獄の鬼ごっこが終わり、松陽先生から直々に怒られた神威は「月詠の手伝いに行け」と言いつけられ、不満そうに月詠の元へ向かった。
月詠の医療室では、割られた宝石たちの修理がまだ続いている。
神威「えぇ〜……つまんない〜……こんなことより遊びたい〜……」
ぶつぶつ文句を言いながら、神威は壊した宝石たちを一つずつ治療用の机に運んでいる。
その横で――
阿伏兎「……坊っちゃん。団長の尻拭いをしゆうんは、ワシも同罪。ちゃんと働け」
腕を吊ったまま、阿伏兎も修理の手伝いをしていた。表情は疲れ切っている。
神威「えぇー……阿伏兎も遊ぼうよ〜。暇でしょ〜?」
阿伏兎「暇じゃねぇ!! 今日ほど暇から遠い日はねぇわ!! 二度と団長の“遊び”には付き合いたくねぇ!!」
神威「えぇ〜〜……」
神威はつまらなそうに頬をふくらませながら、割れた宝石を運び続ける。
月詠は深いため息をつきながら作業を進め、室内にいる宝石たちは互いに肩を落としながらつぶやいた。
「……あいつ、ほんまに反省しとるんか……?」 「いや、絶対してない……次の雨の日も同じことになる……」
こうして、校内はようやく静けさを取り戻したものの――
宝石たちは全員、心に深い“雨の日の恐怖”を刻みつけることになったのだった。
こんな感じばいちゃ~