TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する



お昼休み、今日はコンビニ弁当を買ってきていたので、お弁当持参の浦島、やはり、コンビニで買ってきたらしい脇田と秘書室で食べていた。


下に下りないと真知子たちには会えないのだが、秘書室に慣れるためにも、しばらくは此処で食べた方がいい気がした。


「それで、足がシビれてずっと悶絶してたんですよ」


蓮が語る昨日の話に、脇田が吹き出す。


珈琲を吹いたらしく慌ててスーツを拭いていて、

「大丈夫ですか?」

と側に居た葉子がウエットティッシュのボックスを渡していた。


幸い被害は少なかったようだ。


「でも、蓮ちゃんが来てから、お昼が楽しいわ」

と葉子が言ってくれる。


「此処で食べるときは、脇田さんと二人で緊張してたのよ」


え? そうなの? という顔を脇田はした。

それに気づいて、葉子が笑う。


「いやだ。

脇田さんが苦手って意味じゃありませんよ。


好みじゃないし、合わなかったけど、やっぱり、脇田さんイケメンだから。

向き合って食べると緊張するって言うか」

と嘘か本当かわからないことを言い、笑っている。


「でも、ほんと、社長の新しい一面も見られて、楽しいわ。


脇田さんは昔からのお友達だからそんなこともないでしょうけど」

と言う葉子に渋い顔をし、脇田は、


「いや……僕も結構びっくりなことが多いよ」

と言い出した。


そのとき、社長室の扉が開き、

「蓮」

と手招きしてくる。


「はい」

と立ち上がったが、かしこまらなくても、昼休みだったな、と思い、


「貴方もこっちで一緒に食べたらどうですか?」

と言ってみたのだが、


「仕事しながら食べてる」

ちょっと来い、と言う。


相変わらず、強引だな、と思いながら、溜息をついたが、ちょうど食べ終わったところだったので、素直について行った。


扉を閉めながら、

「仕事しながらとか、消化に悪いですよ」

と言うと、


「ほんとに悪いと思うか」

とデスクの上を片付けながら、渚が言ってくる。


食べ終わったカツサンドの包みをゴミ箱に捨ててやりながら、

「いや、昔からそう言うから、言ってみただけです。

本当に悪いかどうかは知りませんが、貴方は少し休んだ方がいいですよ。


仕事の効率が悪くなると思います」

と言うと、そうだな、と言う。


「でも、そうだ。

今は、俺も休みなんだ」

と何故か渚はわざわざ宣言する。


はい? と思っていると、椅子に座った渚が、

「膝に乗れ」

と言ってきた。


「はい?」

と今度は口に出して訊き返す。


「あれから考えてたんだ。

仕事中、本当にお前を膝に乗せてみたら、どんな感じかな、と。


だが、まあ、仕事中というのは性に合わないから、今、乗せてみようかと思って」

と言い出した。


また、ロクでもないことを思いつくなあ、と思いながら、

「おかしな妄想しないでくださいよ……」

と言うと、


「そういえば、昭和の始めには、女性秘書のことをオフィスワイフって言ってたらしいぞ。

愛人的な意味でも使われていたようだが、そういう意味合いがなくとも、そう呼んでたとか」

と言ってくる。


今それ、関係ありますか……?


御託ごたくを並べたあとで、

「まあ、いいから乗れ」

と膝を叩いてくる。


「やめてくださいよ。

昨日、膝枕してあげたから、いいじゃないですか」

と訴えてみたのだが、


「あれは逆だろ。

お前に乗れ、と言ってるんだ」

と大真面目に言ってくる。


セクハラだーっ。


「嫌ですよーっ」

と揉めていると、申し訳程度にノックされ、勝手にドアが開いた。


「社長、そろそろお時間です」

と脇田が感情も交えず、淡々と言う。


「……お前、今、邪魔しに来たろ」


脇田は溜息をつき、

「社長室で莫迦なことをされないでください。

外から撮られてたらどうするんですか」

と今にも狙撃されそうな大きな窓を指差す。


「休み時間かどうか、写真じゃわからないんですから。

というか、休み時間でもやめてください。


それから、外に声が筒抜けです」


見れば、葉子が後ろで笑っている。


「そうは言うが、お前。

この女、俺がせっせと毎晩通いつめても、キスのひとつもさせないんだぞ。


ちょっとくらい、なにかさせてくれてもいいと思わないか?」


「あの……何故、私じゃなく、脇田さんに訴えるんですか」


「お前に言っても無理そうだからだ」

とこちらを向いて言う。


「だからって、脇田さんが私を羽交い締めにして、貴方にどうぞって差し出すとでも思ってるんですか」




……羽交い締めに。

ちょっとしてみたいな、と脇田は思っていた。


渚に渡すのは嫌だが。


この阿呆なカップル……蓮は否定するだろうが、そうとしか見えない二人はまだ揉めていた。


傍目に見ている分には、可愛らしいカップルだ。


キスもまだだというところも。


相手が蓮でなければ、応援してやるんだが、と思いながら、古い友人を見る。


目の前で蓮を膝に乗せるとかしたら、とりあえず、そこのゴミ箱を頭にかぶせてやろう、と秘書にあるまじきことを思いながら、


「とかもく社長、休み時間は終わりですから」

と言い、本当か? と言ってくる渚を押し切った。


昼休みに休みを取っているわけではない。


鷹揚な渚は、自分の休み時間をきっちり計っていたりはしないので、どうとでも誤魔化せた。


「はい、秋津さんも仕事に戻って」

と事務的に言うと、はいっ、と勢いよく返事をして、蓮がこちらに逃げてきた。


ドアを閉めると、自分を見上げ、

「ありがとうございました」

と照れたように言う。


カップルの邪魔をして、礼を言われるとはな、と思っていると、葉子がこちらを見て笑っていた。


彼女は蓮ほど鈍くはない。


なにもかも見透かされている気がして、

「じゃあ、えっと……

ほんとに仕事しよっか」

とぎこちなく言うと、はい、と蓮は笑う。


ちょっと頷き、急いでその場を離れた。





派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

20

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚