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お昼休み、今日はコンビニ弁当を買ってきていたので、お弁当持参の浦島、やはり、コンビニで買ってきたらしい脇田と秘書室で食べていた。
下に下りないと真知子たちには会えないのだが、秘書室に慣れるためにも、しばらくは此処で食べた方がいい気がした。
「それで、足がシビれてずっと悶絶してたんですよ」
蓮が語る昨日の話に、脇田が吹き出す。
珈琲を吹いたらしく慌ててスーツを拭いていて、
「大丈夫ですか?」
と側に居た葉子がウエットティッシュのボックスを渡していた。
幸い被害は少なかったようだ。
「でも、蓮ちゃんが来てから、お昼が楽しいわ」
と葉子が言ってくれる。
「此処で食べるときは、脇田さんと二人で緊張してたのよ」
え? そうなの? という顔を脇田はした。
それに気づいて、葉子が笑う。
「いやだ。
脇田さんが苦手って意味じゃありませんよ。
好みじゃないし、合わなかったけど、やっぱり、脇田さんイケメンだから。
向き合って食べると緊張するって言うか」
と嘘か本当かわからないことを言い、笑っている。
「でも、ほんと、社長の新しい一面も見られて、楽しいわ。
脇田さんは昔からのお友達だからそんなこともないでしょうけど」
と言う葉子に渋い顔をし、脇田は、
「いや……僕も結構びっくりなことが多いよ」
と言い出した。
そのとき、社長室の扉が開き、
「蓮」
と手招きしてくる。
「はい」
と立ち上がったが、かしこまらなくても、昼休みだったな、と思い、
「貴方もこっちで一緒に食べたらどうですか?」
と言ってみたのだが、
「仕事しながら食べてる」
ちょっと来い、と言う。
相変わらず、強引だな、と思いながら、溜息をついたが、ちょうど食べ終わったところだったので、素直について行った。
扉を閉めながら、
「仕事しながらとか、消化に悪いですよ」
と言うと、
「ほんとに悪いと思うか」
とデスクの上を片付けながら、渚が言ってくる。
食べ終わったカツサンドの包みをゴミ箱に捨ててやりながら、
「いや、昔からそう言うから、言ってみただけです。
本当に悪いかどうかは知りませんが、貴方は少し休んだ方がいいですよ。
仕事の効率が悪くなると思います」
と言うと、そうだな、と言う。
「でも、そうだ。
今は、俺も休みなんだ」
と何故か渚はわざわざ宣言する。
はい? と思っていると、椅子に座った渚が、
「膝に乗れ」
と言ってきた。
「はい?」
と今度は口に出して訊き返す。
「あれから考えてたんだ。
仕事中、本当にお前を膝に乗せてみたら、どんな感じかな、と。
だが、まあ、仕事中というのは性に合わないから、今、乗せてみようかと思って」
と言い出した。
また、ロクでもないことを思いつくなあ、と思いながら、
「おかしな妄想しないでくださいよ……」
と言うと、
「そういえば、昭和の始めには、女性秘書のことをオフィスワイフって言ってたらしいぞ。
愛人的な意味でも使われていたようだが、そういう意味合いがなくとも、そう呼んでたとか」
と言ってくる。
今それ、関係ありますか……?
御託を並べたあとで、
「まあ、いいから乗れ」
と膝を叩いてくる。
「やめてくださいよ。
昨日、膝枕してあげたから、いいじゃないですか」
と訴えてみたのだが、
「あれは逆だろ。
お前に乗れ、と言ってるんだ」
と大真面目に言ってくる。
セクハラだーっ。
「嫌ですよーっ」
と揉めていると、申し訳程度にノックされ、勝手にドアが開いた。
「社長、そろそろお時間です」
と脇田が感情も交えず、淡々と言う。
「……お前、今、邪魔しに来たろ」
脇田は溜息をつき、
「社長室で莫迦なことをされないでください。
外から撮られてたらどうするんですか」
と今にも狙撃されそうな大きな窓を指差す。
「休み時間かどうか、写真じゃわからないんですから。
というか、休み時間でもやめてください。
それから、外に声が筒抜けです」
見れば、葉子が後ろで笑っている。
「そうは言うが、お前。
この女、俺がせっせと毎晩通いつめても、キスのひとつもさせないんだぞ。
ちょっとくらい、なにかさせてくれてもいいと思わないか?」
「あの……何故、私じゃなく、脇田さんに訴えるんですか」
「お前に言っても無理そうだからだ」
とこちらを向いて言う。
「だからって、脇田さんが私を羽交い締めにして、貴方にどうぞって差し出すとでも思ってるんですか」
……羽交い締めに。
ちょっとしてみたいな、と脇田は思っていた。
渚に渡すのは嫌だが。
この阿呆なカップル……蓮は否定するだろうが、そうとしか見えない二人はまだ揉めていた。
傍目に見ている分には、可愛らしいカップルだ。
キスもまだだというところも。
相手が蓮でなければ、応援してやるんだが、と思いながら、古い友人を見る。
目の前で蓮を膝に乗せるとかしたら、とりあえず、そこのゴミ箱を頭にかぶせてやろう、と秘書にあるまじきことを思いながら、
「とかもく社長、休み時間は終わりですから」
と言い、本当か? と言ってくる渚を押し切った。
昼休みに休みを取っているわけではない。
鷹揚な渚は、自分の休み時間をきっちり計っていたりはしないので、どうとでも誤魔化せた。
「はい、秋津さんも仕事に戻って」
と事務的に言うと、はいっ、と勢いよく返事をして、蓮がこちらに逃げてきた。
ドアを閉めると、自分を見上げ、
「ありがとうございました」
と照れたように言う。
カップルの邪魔をして、礼を言われるとはな、と思っていると、葉子がこちらを見て笑っていた。
彼女は蓮ほど鈍くはない。
なにもかも見透かされている気がして、
「じゃあ、えっと……
ほんとに仕事しよっか」
とぎこちなく言うと、はい、と蓮は笑う。
ちょっと頷き、急いでその場を離れた。