テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第22話 音が重なる
――翌日。
朝、家を出ると、昨日より少し冷たい風が吹いていた。
夏の頃は朝から暑くて、家を出た瞬間に汗ばむくらいだったのに、今は長袖の袖口から入ってくる風が少しひんやりする。
校庭の木々も、まだ緑色の葉が多い。
だけど、ところどころ黄色く色づいた葉が混ざっている。
秋になったんだなぁ。
そんなことを考えながら、俺はいつものようにたっつんの家の前で叫んだ。
💚「たっつーん!!!行こー!!!」
💛「おー」
たっつんが家から出てくる。
💚「今日から文化祭のバンド練習だよ!」
💛「分かっとるって」
💚「楽しみだな〜!」
💛「俺はちょっと不安やけどな」
💚「大丈夫だって!多分!!」
💛「昨日もそれ言ってたな」
💚「だって大丈夫だもん!たぶん!」
💛「やっぱ多分なんやな笑」
💚「……うん!」
二人で笑いながら、学校へ向かった。
校門が見えてくる。
いつもと同じ学校のはずなのに、今日はなんだか雰囲気が違った。
校舎に入ると、廊下のあちこちに段ボールや模造紙が置かれている。
教室の中からは、
「これどこに貼るー?」
「こっち持って!」
「それ切ってー!」
「今日中に終わらせよう!」
そんな声が聞こえてくる。
廊下を歩いている生徒たちも、いつもより楽しそうだ。
文化祭まで、あと少し。
学校全体が、少し浮ついているような。
でも、その中には一生懸命準備をしているみんなの姿もあった。
💚「なんか、文化祭って感じするね!」
💛「せやなぁ」
俺たちも教室へ向かった。
*
放課後。
俺とたっつんのクラス、3年A組では、昨日決まった『女装男装メイド喫茶』の準備が始まっていた。
黒板には大きく、
『女装男装メイド喫茶』
と書かれている。
「衣装どうする?」
「メニュー表作らないと!」
「教室の飾りつけどうする?」
「写真撮れる場所も作りたい!」
みんながそれぞれの仕事をしている。
俺も模造紙を広げて、飾りを作る。
💚「これ、ピンクにしよう!誰かちょーだい!!」
💛「はい」
💚「ありがとー!」
💛「じゃぱぱめっちゃがんばってるなー」
💚「文化祭なんだからみんなが楽しめたほうがいいじゃん?」
💛「そうやな!」
たっつんも笑いながら、作業を手伝ってくれる。
しばらくすると、クラスの女子が俺たちのところへやってきた。
「ねえ、じゃぱぱくんとたつやくん!」
💚「ん?」
「衣装のサイズ測りたいんだけど!」
595
しおん
1,045
キウじゃが
992
1,244
💛「……」
たっつんが固まる。
💚「あはは!」
💛「笑うなや!」
「たつやくんの女装楽しみだな〜!絶対似合う!」
💛「ほんまに嫌なんやけど……」
💚「俺は楽しみ!」
💛「お前も女装するんやからな!?」
💚「……やだ」
教室に笑い声が広がる。
文化祭の準備は大変だけど。
こうやってみんなで何かを作っていくのは、やっぱり楽しい。
そんなことを思った。
*
そして俺とたっつんは、途中で作業をやめて、音楽室へ向かった。
バンドをやると伝えるとみんな応援してくれ、作業が途中でも練習に行っていいと言ってくれた。
音楽室までの廊下には、まだたくさんの生徒が残っていた。
模造紙を抱えて走っている人。
段ボールを運んでいる人。
教室の外で看板を作っている人。
普段なら、放課後になれば少しずつ静かになっていく校舎が、今日はまだまだ賑やかだった。
💚「みんな頑張ってるね〜」
💛「文化祭まで時間ないからな」
💚「俺たちも負けてられない!」
💛「バンドもな」
💚「そう!」
音楽室の前まで来る。
中から綺麗な音が聞こえてくる。
扉を開けると――。
🖤「おっ、来た来た!!」
うりがすでにギターを持ち練習期間していた。
💚「うりりん!」
💛「早いな」
🖤「そりゃそうだろ!今日から練習なんだから!」
音楽室には、学校にある楽器がいくつか並べられていた。
ドラム。
ベース。
ギター。
見慣れない楽器が並んでいるだけで、なんだか本当にバンドをやるんだという実感が湧いてくる。
💚「すご……!」
🖤「先生にお願いして、貸してもらえることになった!」
💛「ちゃんと話つけてきたんやな」
🖤「俺、こういうところはちゃんとしてるから!」
💛「こういうところ『は』?」
🖤「ま、まあほかもちゃんとしてるけどな!」
💚「あはは!」
俺たちは楽器の前に座った。
🖤「じゃあ、確認!バンドで歌う歌はーーね!」
💚「いいねー」
🖤「で、俺がギターとボーカル!」
💚「俺がドラム!」
💛「俺がベース」
🖤「よし!」
💚「じゃあ、早速やろう!」
💛「…」
💚「どしたー?」
たっつんがベースを見る。
💛「……これ、ほんまに俺が弾くん?」
🖤「そうだよ?」
💛「昨日までは『バンドやる』って言葉だけやったからな……」
💚「大丈夫!」
💛「お前はなんでそんな自信満々なん?」
💚「楽しそうだから!」
💛「理由それだけかい」
🖤「まあまあ!俺が教えるから大丈夫だって!任せろ!」
🖤「今日はとりあえず楽器に慣れるところから!一旦弾いてみよー!」
うりが俺を引っ張ってドラムまで連れて行く。
🖤「まずじゃぱさん、ドラムから!」
💚「おー!」
俺はドラムの前に座った。
スティックを手に持つ。
💚「……なんか、プロっぽい!」
💛「すごいな」
🖤「まず持ち方からな」
💚「うん!」
うりに教えてもらいながら、スティックを握る。
🖤「右、左、右、左って感じで叩いてみて」
💚「こう?」
どんっ。
どかっ。
ばんっ。
どかーんっ。
💚「……」
🖤「……」
💛「……」
💚「どう?」
🖤「ちょ、ちょっと待って、もう一回」
💚「え?」
🖤「今のは練習の練習ってことでさ!」
💛「つまり下手やったんやな」
💚「えぇ!!」
🖤「たっつんさん!!バラさないでよっ!」
思わず笑ってしまう。
もう一度。
ドン、
ドン!
今度は少しだけマシになった気がする。
💚「お!我ながらいいんじゃない?」
🖤「うんうん、さっきよりいい!」
💚「やった!」
💛「上達早いやん!」
💚「でしょ!」
🖤「じゃあつぎベースも弾いてみよ!」
💛「……次俺かぁ」
今度はベース。
うりがたっつんの横に座り丁寧に教える。
🖤「まずここ押さえて」
💛「こう?」
🖤「そうそう!」
🖤「そしてこう!」
たっつんが弦を弾く。
ボーン……。
💛「……」
💚「おお!すご!」
🖤「結構いいじゃん!」
💛「ほんま?」
🖤「うん!じょーずじょーず!」
💛「……じゃあ、もう一回」
たっつんは真剣な顔で、もう一度ベースを弾く。
さっきより少しだけ綺麗な音が出た。
💚「たっつん上手!」
💛「難しーな」
🖤「でも覚えるの早いよ」
💛「……そっか」
たっつんが少し嬉しそうに笑った。
そして。
🖤「じゃあ、次は俺!」
うりがギターを構える。
さっきまでふざけていたのに、ギターを持った瞬間。
少しだけ表情が変わった。
なんだかサマになってる。
軽く弦を弾く。
綺麗な音が、音楽室に響く。
💚「……」
💛「……」
そして、うりが少しだけ歌う。
その声と楽器の音が重なる。
とても綺麗だった。
俺は思わず見入ってしまった。
💚「うりりん、すごいじゃん!!」
💛「ほんまにうまいなぁ!」
🖤「……まあな!!」
うりは少し照れたように笑った。
🖤「…文化祭、絶対成功させたいからさ。」
💚「……!」
その言葉だけは、いつものうりとは少し違って聞こえた。
いつもふざけていて。
なんでも相談部にも気軽にやってきて。
女の子を見つけたらすぐ口説いて。
そんなうりが。
今は、本気でギターを弾いている。
💚「……じゃあ、俺たちも頑張らないとね」
💛「せやな」
🖤「よし!」
うりが立ち上がる。
🖤「じゃあ、今度は音を三人で重ねてみよう!」
💛「え、もう?」
💚「やってみようよ!」
🖤「せーの!」
三人で楽器を構える。
そして――。
演奏開始。
ジャーン!
ドン!
ボーン……。
……。
💛「待って笑!!」
💚「え!?」
🖤「ストップストップ!」
三人とも演奏を止める。
💛「全然合ってへんやん!!」
💚「あははは!」
💛「笑ってる場合ちゃうぞ笑!」
🖤「いや、まあ……初日だし!」
💛「初日でももうちょいなんとかなるやろ!」
💚「でも楽しい!」
💛「楽しさだけで文化祭は乗り切れんぞ!?」
🖤「大丈夫だって!多分」
💛「その言葉、昨日から何回聞いたと思ってんねん!」
🖤「まあまあ!」
うりは楽しそうに笑う。
🖤「練習すれば、ちゃんと合うようになるって!」
💚「うん!」
💛「……」
たっつんは少し考えて。
💛「……まぁ、やるしかないか!」
💚「そうそう!」
🖤「よし!じゃあもう一回!」
💛「え、もう一回!?」
💚「もちろん!」
🖤「文化祭まで時間ないからな!」
💛「……そーやなぁ」
もう一度、楽器を構える。
さっきより少しだけ。
本当に少しだけ。
三人の音が重なった。
まだまだ上手くない。
というか、全然上手くない。
でも。
💚「……なんか、ちょっとバンドっぽくなってきた!」
💛「ほんのちょっとな」
🖤「そのうち、ちゃんとできるって!」
俺たちはそれからも帰る時間ぎりぎりまで練習をした。
音楽室の窓から、夕方の風が入ってくる。
外では、まだ文化祭の準備をしている生徒たちの声が聞こえていた。
「これ持ってってー!」
「看板できた!」
「明日までに終わらせよう!」
文化祭まで、あと一ヶ月くらい。
学校中が少しずつ、いつもの学校から変わっていく。
俺たちも。
今日から少しずつ。
文化祭に向かって進み始めた。
💚「明日も練習しよーね!」
🖤「もちろん!」
💛「……せやな!」
音楽室を出る。
窓の外は、前よりも少しだけ秋らしい空になっていた。
まだ夏の名残も残っている。
だけど。
季節が少しずつ進むように。
俺たちのバンドも、
少し回り道だけど、
歩き続ける。
――文化祭まで、あと少し!!
こ こまで読んでくださりありがとうございます!
文化祭編はちょっと長いです!
次回は、うりくんの思いです。
次回 第23話 努力のカタチ ♡70↑
コメント
1件
いやあ、第22話、すごく良かったです!文化祭の準備のワクワク感と、バンド練習の初々しさが伝わってきました。特に、うりりんがギターを持った瞬間に表情が変わるあのシーン、「いつものうり」と「本気のうり」のギャップが鮮やかで、こっちまで「おっ」と見入ってしまいました。三人で合わせた最初の音が全然合わなくて笑っちゃうところも、逆にリアルで親近感が湧きますね。「練習すればちゃんと合うようになる」って言葉に、これからの成長が楽しみになりました。文化祭編、まだ続くんですね。次回のうりくんの思い、気になります!