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続きです。
彰冬です。
だいぶキャラ崩壊します。
冬弥が女性です。
何でも大丈夫な方向けです。
誹謗中傷は受け付けておりません。
「ちゃん付け」の衝撃に内心で硬直しながらも、俺はこの場から一刻も早く離れたい一心だった。これ以上、この妙な状況に、そしてやけに熱っぽい視線を向けてくる東雲彰人に付き合っているわけにはいかない。
「…そろそろ、教室に行かないと」
努めて冷静な声色を装い、一歩後ずさる。
「それじゃあな、東雲!」
敢えて少し突き放すような、前世での別れ際の挨拶に近い言葉を選ぶ。彰人が何か言いかける前に、俺はくるりと背を向け、早足でその場を離れた。背中に突き刺さる視線を感じたが、振り返ることはしなかった。まるで、追手から逃げるように。
(大丈夫だ…)
廊下を歩きながら、自分に言い聞かせる。
(いくら俺が女になったからといって、状況が全く同じなら、クラスまで一緒ということはないはずだ。前世では、クラスは別だったんだから)
そうだ、きっとそうだ。教室に行けば、この厄介な「運命の人」とは顔を合わせる頻度も減るだろう。そうであってくれ。祈るような気持ちで、指定された教室のドアに手をかける。
――そして、俺はその数秒後の自分を激しく後悔することになる。
教室の中を見渡し、自分の名前が書かれた席を探す。あった。窓際の後ろから二番目。前世と同じ席だ。そこまでは良かった。問題は、その隣だった。
「やあ、冬弥ちゃん!奇遇だな!」
満面の笑み。太陽みたいに眩しい、屈託のない笑顔。そこには、ついさっき逃げるように別れたはずの男――東雲彰人が、当然のように座っていたのだ。
血の気が引く、という表現はこういう時に使うのだろう。俺のささやかな期待は、目の前の現実によって木っ端微塵に打ち砕かれた。同じクラス。それどころか、隣の席だと?
「冬弥ちゃんと隣だなんて、俺、すっげー嬉しいよ!これから一年間、よろしくな!」
悪気なく、心底嬉しそうにそう言う彰人。その無邪気さが、今の俺にはナイフのように突き刺さる。
俺は、ゆっくりと息を吸い、そして吐き出した。顔には、完璧な、しかし感情のこもっていない微笑みを貼り付ける。
「……こちらこそ、よろしくな、東雲」
思わず、また前世の呼び方が混じってしまった。だが、今の彰人はそれに気づく様子もなく、ただ嬉しそうに頷いている。
(神様…!)
内心で、俺は天を仰ぎ、拳を握りしめていた。こめかみがピクピクと引きつるのを感じる。これは、嫌がらせか?それとも、単なる気まぐれか?どちらにせよ、あんたの仕掛けたこの「運命」とやらは、本当に、本当に性質が悪い。
これから始まる一年間。この、やけに馴れ馴れしく、そして(おそらく)俺に好意を寄せているであろう男の隣で過ごさなければならないのか。想像しただけで、重いため息が出そうだった。俺の高校生活は、どうやら前途多難らしい。
side彰人
さっきの少女――青柳冬弥。
教室で自分の席を見つけ、どかりと腰を下ろしながらも、東雲彰人の頭の中は彼女のことでいっぱいだった。あの透き通るようなアイスグレーの瞳、凛とした佇まい。そして、目が合った瞬間の、あの衝撃。
(…青柳、冬弥、か)
名前を知ることができたのは大きな収穫だ。だが、別れ際の「それじゃあな」という少し素っ気ない態度は何だったんだろうか。俺、何かまずいこと言ったか?少しだけ不安がよぎるが、それ以上に、また会いたい、もっと話したいという気持ちが強かった。
(同じクラスだったら、最高なんだけどな…)
そんな淡い期待を抱きながら、入り口の方をぼんやりと眺めていた時だった。
「あ…」
見覚えのある姿が教室に入ってきた。間違いない、青柳冬弥だ。心臓がドクンと跳ねる。まさか、本当に同じクラス…?彰人は固唾を飲んで彼女の動きを見守った。彼女は教室の中を見渡し、自分の席を探しているようだ。そして――ゆっくりと、こちらに向かって歩いてくる。
え?まさか、そんな偶然…。
彼女が立ち止まったのは、彰人の一つ隣、窓際の席の前だった。
「マジかよ…!?」
思わず声が出そうになるのを、必死でこらえる。信じられない。奇跡だ。さっきまで淡い期待でしかなかったことが、現実になった。しかも、ただ同じクラスなだけじゃない、隣の席!
(神様、サンキュー!)
いるかどうかもわからねぇ神に、柄にもなく感謝したくなった。さっきの素っ気ない態なんて、もうどうでもいい。こんな幸運が目の前にあるのだから!
気づけば、彰人は椅子から腰を浮かせ、満面の笑みで彼女に声をかけていた。
「やあ、冬弥ちゃん!奇遇だな!」
抑えきれない興奮が声に乗る。
「冬弥ちゃんと隣だなんて、俺、すっげー嬉しいよ!これから一年間、よろしくな!」
最高の気分だった。こんなに嬉しいのはいつぶりだろうか。
すると、冬弥は少し驚いたような顔を見せた後、ふわりと微笑んだ。
「……こちらこそ、よろしくな、東雲」
その笑顔に、彰人の心臓はさらに高鳴った。やっぱり、さっきのは俺の気のせいだったんだ。彼女も、隣になれて嬉しいと思ってくれてる…かは分からないけど、少なくとも嫌がってはいないはずだ。彼女が「東雲」と少し他人行儀に呼んだことや、その微笑みにどこか硬さがあることなど、今の彰人には全く気にならなかった。
隣の席に座った冬弥の横顔を、彰人は(少し無遠慮に)じっと見つめる。これから毎日、この距離で彼女と一緒に過ごせる。そう考えただけで、退屈だと思っていた高校生活が、一気に色鮮やかなものに変わった気がした。東雲彰人の胸は、期待と喜びで張り裂けんばかりだった。
続く