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櫻が鳴く頃に
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#カップヘッド
芝生の反逆者
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午後9時
繁忙期真っ只中な為、夜まで残る先生。ようやく仕事が片付いた。
先生「21時か。いつもより早く寝れそうだ…」
デスクで伸びをして、片付ける。ほとんど執務室と仮眠室を行き来する毎日。疲労とストレスも溜まっていた。
先生「業務時間外だし当番の子も帰った..か。…….」
先生がずっとデスクの引き出しの奥にしまっていた箱。キヴォトスに来て教師として赴任してから長らく吸っていなかったタバコの箱である。ライターを取り出して窓を開けて外に煙を吐く。
先生「スーッ…プハァ…」
いつからだろうか。ここに就任してきて生徒達の成長を見届けるうちに、その達成感と喜びを感じても、それだけでは拭えない確かな疲労を覚えるようになったのは。
当然この仕事に不満があるわけではない。生徒の為に日々動き日々叱責して、日々そんな生徒と切磋琢磨する。
天職ではあった。それでも私も人間だ。疲れが溜まらない訳ではない。日によっては一日に4.5つの学園を廻る時もあった。深夜帯は資料作成など。もちろん生徒達と過ごす中で、夏はプールの監視や海への付き添いだったり。生徒の青春を間近で見れる機会も多い。
だが、私個人の、一人でいる時間が少ない気がするのだ。当然生徒と色々な場所を巡るのは最高に楽しい。..だがプライベートの時間。それも自由な時間が欲しいと体がどうしても求めてしまう。今だってそれが原因で本来教師失格の敷地内での喫煙をしているのだから。
まぁ何はともあれ、こうして既に大人の道を踏み外している訳だが。…誰にも知られず一人こっそり吸う煙草の味は、皮肉にも最高に美味い。もう数本吸ったら戻ろうと考えていた。その時、背後から物音がした。
ホシノ「…….先生?」
いつの間にか来ていたホシノと目が合う。普段と様子の違う自分を見て明らかに狼狽している彼女を見る限り、誤魔化すのは無駄と悟る。
先生「…..ホシノ…..」
静かな空気が流れる。
ホシノ「何してるの、?それ、タバコ、だよね。」
先生「…隠す意味もないか..そうだよ。これはタバコだ。..見られちゃったか。こんな時に聞くのもだけど、どうしたんだいいきなり。」
ホシノ「うへ…今日の当番で忘れ物した事に気づいて、今取りに来たんだけど..先生にも連絡は入れてさ。でも返事がなかったから、とりあえず取りにだけ来たら、電気はついてるし、窓開けて先生はタバコ吸ってるし…」
先生「…見苦しいところを見せてごめんね。…後生だ、どうか、どうか生徒会の皆には言わないでもらえないだろうか。」
何を言っているんだ私は。言い訳しようのない明らかに身勝手な理由で生徒に口止めを頼むなんて。..それでも、彼女から返答が返ってきたのはすぐだった。
ホシノ「うん、良いよ。」
先生「え?」
軽くそう返事をされて思わず声が出る私。しかしホシノは続けて
ホシノ「…でも一つ条件があるんだけど。」
普段の彼女から聞くことはないような口調。顔色が上手く伺えない。
先生「..うん。」
ホシノ「そのタバコさ。…私にも一本ちょうだい、先生。」
予想外の「条件」が飛んでくる。..いや、そもそもどんな条件を課されるか
分からなかったが。しかし流石にそれは出来ないのだ。
先生「今好きに発言できる立場でないのはわかってるけど…..いくら何でもそれは出来ないよ..」
ホシノは私にこう言う。
ホシノ「うへ..まぁ先生ならもちろんそう言うよね。安心しなよ、断ったからっておじさんが他言する気はないから。..でもね先生。」
ホシノの声が少し低くなる。
ホシノ「理由もなくこんなことを言ってる訳じゃないんだ。それは..分かってくれる?」
先生「..もちろん。」
私だって彼女が煙草に対して興味を示した理由は分からないが..彼女が私以上の痛みと責任を背負ってきたのは分かっている。
ホシノ「おじさん、最近毎日が楽しいんだ。かわいい後輩に囲まれてさ。」
私はホシノの話すことに頷いて聞くことしかできない。
ホシノ「..ま、それでも満たされないところもあってさ。…先生といる時はその何かが満たされる感じがするんだ。..で、今日こんな場面に遭遇して。もう単刀直入に言うけどさ、おじさんと共犯者になってよ、先生。」
開けられた窓の外から涼しい風の吹く爽やかなはずの空間で発せられたどこか重いその言葉。
先生「共犯者か…….でも…」
ホシノ「今更煙草一本で人生どん底に落ちたりしないよ。..駄目?」
それでも私が黙っているとホシノが無理矢理…いや、自然に私の持つ小箱からタバコを一本抜いた。
ホシノ「1人の生徒に隙を見せる先生が悪いんだよ?」
ニヤッと笑いながら彼女は言う。
先生「…はぁ…まぁ、一番悪いのは私な訳だしね。ここまで来たら引き返せないか…」
私はそう言い訳をした。ホシノにライターを手渡す。
ホシノ「わかって貰えたようなら何よりだよ〜。んじゃ…」
シュボッと火を立ち上げタバコに火を付けるホシノ。それを吸う。
ホシノ「…っケホッ…ぅー…やっぱりおじさんにはまだ早いかぁ。」
先生「だから言ったのに…」
ホシノ「大人はこれを何本も吸ってるんだもんねぇ…」
先生「…何はともあれ、もうこんな事は頼まないでね…私が言えた事じゃないか。」
苦笑する私に彼女は
ホシノ「さて、先生?どうせなら最後まで付き合ってもらうよ。」
先生「どこへ行くんだい?」
ホシノ「私と先生の…いや、相棒の、思い出の場所、だよ。」
先生「あぁ、あの日の..当然付き合うさ!」
私と彼女は夏の夜の砂漠に足を踏み出していく。昼間は日光を吸収して水分がないとまともに動けない暑さとは裏腹に、夜は大人しくしてるみたいに涼しかった。
私とホシノは、あの日の思い出の場所である、廃棄された列車に腰掛ける。
先生「ここに来るって言うなら、あの装備、見せてくれても良いんじゃないかな?」
含みのある言い方をして彼女に聞く。
ホシノ「うへぇ〜…相変わらず先生好きだよねぇ、おじさんの装備。ま、そう言うと思って下に着てあるんだけどねぇ〜。」
彼女が制服を脱ぐと、下からいつ見ても惚れ惚れする臨戦状態の時の彼女のフルアーマーが露わになる。
先生「あの日とは事情も違うけど、よく着てきたね。」
ホシノ「なんとなく察してるかなぁとは思ってたけどね。」
先生「あの日と違って今日は相棒でもあり..共犯者、なんだからね。私も..少しは自由にしちゃうよ。」
相棒の真隣で煙草を取り出して、一服。普段なら生徒の前で吸ってると言うことになるが..細かい事なんて今はどうでも良い。ただこの時間を。私と彼女に課された、唯一の時間を。
ホシノ「さっきの私と違って美味しそうに吸うよね〜先生は。」
先生「さっきも言ったけど、君にはまだ早いんだよ。味を楽しもうと急に吸い込んじゃダメだよ、むせるから。ゆっくり吸ってみるイメージかな。」
ホシノ「へぇ〜、じゃあもう一本..」
先生「…..まぁ…うーん…良いよ。」
今更どうなったって構わない。
ホシノ「スゥー…ぷはっ…なるほどねぇ、少しコツが掴めた気がするよ。よくわからない味だけど…」
先生「やれやれ..満足した?」
ホシノ「良い教訓になったと思うよ。」
先生「それじゃ、帰ろっか?」
ホシノ「…まだ居る。」
先生「..でももう日付も変わっちゃったし..」
ホシノ「どうせ先生はさぁ、この後何もなかった様に元の生徒と先生の関係に戻ろうとしてるんでしょ?私は、そんな気ないから。」
先生「流石だね。よく分かってるじゃないか。..そうさ。私が撒いた種とはいえこれ以上ことを広げる気にはなれないよ。」
ホシノ「それがただの生徒だったら、の話でしょ?」
意味深な言葉に思わず聞き返す。と言っても大体言いたい事は分かっているが。
先生「…どう言う意味かな?」
ホシノ「良い?今の私達は共犯者。それでいて相棒。相棒は、いつまでもパートナーに背中を預けて、互いを支え合うものでしょ?」
彼女はニコッと笑い、無言で私にグーを出す。あえて私は言った。
先生「捕まる時も一緒、ってね。」
私達はグータッチを交わした。
ホシノ「その言葉に責任は持つんだよ?相棒。」
先生「当然。」
夜の帳が下りる中で、消したタバコの煙が、空に舞い上がるのを私達はしばらくの間見つめていた。
コメント
6件
喫煙者ホシノは強すぎる… 相棒と共犯者って呼び方が違うだけでほぼ同じだよなぁ
うわああああ読んだ読んだ!!😭💕 先生が疲れてこっそり吸ってるの、めっちゃ人間味あってエモすぎる…そこにホシノが来て「共犯者になってよ」って言うシーン、胸がギュッてなったよ…!「相棒」って呼び合う2人の関係性がもう尊すぎて無理。廃列車でグータッチする場面、夜の涼しい風と煙の匂いが目に浮かぶような描写で、すごく好きな空間だった…✨ 続き、すっごく気になるよ…!先生とホシノの背中を預け合う関係、これからどうなるんだろう…!!また読みに来るね🌸